想いと距離
静かになった室内には二つの衣擦れの音が響き。
京楽が総隊長の席へと真っ直ぐと向かうなか、若桜は左に折れて冬獅郎の橫に並ぶ。
しかしその間、二人は目を合わせることなく。ひとりだけ羽織を着ていない若桜が静かに一礼すると、京楽が話し出した。
「各隊長とも忙しいところすまないねえ。今回は急遽決定したのもあるけど、ここに集まってもらったのは他でもない。現在空席となっている八番隊の件について、ちょいと話を聞こうと思ってね」
途端に冬獅郎を除く全員の視線が若桜へと注がれ、緊迫した空気がうっすらと流れる。
それでも若桜は表情ひとつ崩さず、背筋を伸ばしたまま静かに佇むと再び京楽が口を開いた。
「もともとボクが現世に彼女を迎えに行った時に交わした『契約』でもあるけど、あれから一ヶ月が経った。悩みの種でもあった、溜まりに溜まった事務処理も若桜ちゃんが全て片付けてくれてね。まさかここまで早く片付くとは正直思ってなかったけど、本当によくやってくれたよ」
そこでだ───と。
京楽の声が大きく室内に響けば視線が彼へと集まり。
隻眼が若桜を見つめてくると真っ向から受ける。
「その一ヶ月の間に、実に多くの死神たちから推薦をもらってねえ………。護廷十三隊のうち、全ての隊長が棗若桜を八番隊隊長に推薦すると。嘆願書まで付けてボクの所に来たってワケさ」
「…………っ」
その話しにはさすがの若桜も驚き。目を見開くと平子が笑う。
「おー驚いてる驚いてる!けどな、そない驚くことやないで?やーっとここに戻って来たっちゅうに、昔みたいにまぁた副隊長なんぞしとるやん。俺かていい加減痺れ切らしてまうで?」
「平子隊長………」
それはどの隊長も同じやと平子が続け、若桜が思わず見てしまえば誰もが頷き。十三番隊隊長に晴れて就任した朽木ルキアの姿もあれば、笑顔で頷いている。
「ここにいる誰もが、兄が八番隊隊長に相応しいと認めているのだ。無意味に引き延ばす必要はない」
更に白哉が口を開き、鳳橋や六車、砕蜂も頷くと更木剣八は口の端を上げて笑い。
「俺も同じだ」
冬獅郎が橫で呟くようにして言うと、若桜が有り難うと微笑む。
そこから四番隊の虎徹勇音や、七番隊の射場鉄左衛門も同様にして頷いたが、最後の十二番隊隊長である涅マユリと言えばさして興味がないのか。
そこは誰もが熟知しているのか反応することはなく、京楽も何も言わずに再び若桜を見ればどうかな?と聞いてきた。
「……………」
そうして笑顔から一変表情を引き締めた若桜が、全員の視線が集中するなか静かに息を吸い込み。ゆっくりと吐けば凛とした面を覗かせる。
そのまま力強く前に足を踏み出し、京楽の目の前まで進み出ると静止。
暫く二人ともに無言で見つめ合い、やがて若桜が頭を垂れると唇を開く。
「慎んで、お受け致します。総隊長殿」
途端に京楽が近付き、肩をガッシリと掴んでくれば満面の笑顔か。
「いやぁ~本当に良かった!これでまたひとつ肩の荷が降りたよ。それに山じいからも頼まれてたから、これで一安心ってやつだ」
「………そこまで私に拘るのも理解に苦しむが。他の隊長方も含め、私の背中を押してくれた者のためにも、八番隊隊長として邁進するつもりだ」
「またまたご謙遜を。まぁでも、若桜ちゃんが隊長になってくれるなら何も言うことはないさ。二番隊副隊長だった時から、テコでも動かなかったキミがやっと動いてくれたんだ。これほど嬉しいことはないよ」
「せやで?あん時も俺や夜一が推薦したっちゅーに、見事に蹴りよったしな。ほんま良かったで」
そこに平子も混ざれば若桜が悪かったと謝っていたが、京楽がすぐにでも羽織を作製すると話を進めると後はトントン拍子か。
「そうだ。若桜ちゃん、これをキミに返すよ」
しかしあとひとつと京楽が持ち出したのは、一振の斬魄刀。
それは至極普通のものに見え、鞘や柄なども黒く、浅打と何ら変わらないようなそれを若桜が受け取る。
「なんや、尸魂界に戻って早々どないして斬魄刀を持ってないねん思たら、京楽に預けとったんか」
しかもその事実に冬獅郎が驚き。確かに斬魄刀を持ってないことは知っていたが、まさか総隊長に預けていたとは思いもよらず。
「棗ほどの腕であれば白打で十分対処できるしな。隊長に就任するまでは使わないようにしてたんだろ?」
六車が尤もらしい事を言うと、若桜も頷いた。
「まぁみんな待ちなさいよ。若桜ちゃんが隊長になったことで、今度は副隊長が空席になったことを忘れちゃいけないよ?」
だが京楽がまだ話しは終わってないと言い放ち、騒がしかった雰囲気がなくなるとそこで再び扉が開く。
「その事ならご心配なく。八番隊副隊長は────このアタシが引き受けます」
『っ!?』
途端に全員が絶句し、一斉に振り向けば甚平に羽織姿、目深に被った帽子がトレードマークの死神が立ち。
「喜助!?どないなってんこれ……」
平子が思わず前のめりになると、若桜の隣に浦原喜助が並ぶ。
更に若桜本人でさえ言葉を失い、喜助を見ればお久し振りっスと笑顔で返され。
「いやぁ、夜一サンが尸魂界に戻ったのは別段気にすることでもなかったんですが。若桜サンとなれば話は別っス。それに、あっちでアタシひとりで商店を営むには寂し過ぎまして」
「─────で、わざわざ戻ってきたと言うわけか?」
砕蜂から心なしか冷ややかな目を向けられたが、喜助は満面の笑みで頷いた。
「なるほどねぇ……。と言ってここでキミが出てくるなんて、さすがにボクも頭になかったよ。だけどさ、『浦原商店』は今や尸魂界からも認められた重要な拠点だ。そこに店主であるキミが居ないとなると、現世に赴いた死神たちが困るんじゃないの?」
しかし京楽が鋭い視線を向け、目の前の男の真意を探ろうとするも喜助は飄々としており。
「京楽隊長が不安視するのは尤もっス。ですが、アタシにもやるべき事がありまして。店は鉄裁サンたちが切り盛りしてくれるんで、何かあってもすぐに対応できるようにはしてるっス。その上で、八番隊副隊長として………正式な候補者が決まるまでアタシがその席を埋めると言ってるんですよ」
「───!」
そこは喜助が何枚も上手であり、京楽が目を見開くもすぐにニヤリと笑う。
「そこまで考えてちゃ、ボクも強くは言えないねえ。それじゃあこうしよう。隊長は副隊長を任命する権利を持ってる。だからここは、若桜ちゃんがどうしたいか一任しようかな」
「………私、に?」
そして更に更にの無茶振りも去ることながら、若桜が何度も瞬きすると冬獅郎は喜助を睨み。現世に居た時と変わらず、またこの二人が常に一緒に居る姿を見ることになるのかと。
かと言って今のこの状況を考えれば、喜助に頼まざるを得ないのはほぼ確定だ。
それでも文句を言うことも拒否することもできず。
見ていることしかできないでいると、やはり若桜は協力を願い出た。
「いいねえ。これで暫くの間は機能しそうだ。隊首会も長引くかと思ってたけど、今回のところは浦原喜助に感謝するよ」
それを聞いた京楽が笑顔で頷き、若桜が副官章を外すと喜助が受け取る。
「いえいえ、これも若桜サンのためっスから。どうぞお気になさらず」
「喜助さん、すまない………。あなたの力をここでも借りることになってしまって」
けれど若桜は済まなそうに目を伏せ、喜助と言えば鼻の下を伸ばしてデレデレか。
「なぁに言ってるんスか!ボクはアナタのためなら何でもする男なんスよ?それに開発のほうも引き続きしますから。安心して任せてくれればいいんです」
「有り難う………。喜助さんが来てくれて本当に助かった」
そんなやり取りさえ冬獅郎は見ていられるはずもなく、視線を反らしたままでいれば京楽が隊首会の閉会を告げる。
「とりあえず、副隊長の件も頭を悩ませることなく済んで助かったよ。それじゃあ、解散としようか」
それを合図に隊長たちが退室していくなか、平子や六車たちが突然登場してきた喜助と会話し。若桜も久し振りに顔を合わせたルキアと話していて、完全にタイミングを逸してしまった冬獅郎は無言で部屋から出る。
(結局、こうなっちまうのか………)
同時に胸のあたりがずっと重苦しく、思わずため息が出てしまえば別室で控えていた乱菊が姿を現した。
「隊長!どうでした!?」
「………ああ、その事なんだが────」
そこで冬獅郎から聞かされた内容に、乱菊が絶叫しかけて口を塞がれ。良い事と悪い事が同時に起きたとしか言い様のない展開に、思わず天を仰いだのだった。
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京楽が総隊長の席へと真っ直ぐと向かうなか、若桜は左に折れて冬獅郎の橫に並ぶ。
しかしその間、二人は目を合わせることなく。ひとりだけ羽織を着ていない若桜が静かに一礼すると、京楽が話し出した。
「各隊長とも忙しいところすまないねえ。今回は急遽決定したのもあるけど、ここに集まってもらったのは他でもない。現在空席となっている八番隊の件について、ちょいと話を聞こうと思ってね」
途端に冬獅郎を除く全員の視線が若桜へと注がれ、緊迫した空気がうっすらと流れる。
それでも若桜は表情ひとつ崩さず、背筋を伸ばしたまま静かに佇むと再び京楽が口を開いた。
「もともとボクが現世に彼女を迎えに行った時に交わした『契約』でもあるけど、あれから一ヶ月が経った。悩みの種でもあった、溜まりに溜まった事務処理も若桜ちゃんが全て片付けてくれてね。まさかここまで早く片付くとは正直思ってなかったけど、本当によくやってくれたよ」
そこでだ───と。
京楽の声が大きく室内に響けば視線が彼へと集まり。
隻眼が若桜を見つめてくると真っ向から受ける。
「その一ヶ月の間に、実に多くの死神たちから推薦をもらってねえ………。護廷十三隊のうち、全ての隊長が棗若桜を八番隊隊長に推薦すると。嘆願書まで付けてボクの所に来たってワケさ」
「…………っ」
その話しにはさすがの若桜も驚き。目を見開くと平子が笑う。
「おー驚いてる驚いてる!けどな、そない驚くことやないで?やーっとここに戻って来たっちゅうに、昔みたいにまぁた副隊長なんぞしとるやん。俺かていい加減痺れ切らしてまうで?」
「平子隊長………」
それはどの隊長も同じやと平子が続け、若桜が思わず見てしまえば誰もが頷き。十三番隊隊長に晴れて就任した朽木ルキアの姿もあれば、笑顔で頷いている。
「ここにいる誰もが、兄が八番隊隊長に相応しいと認めているのだ。無意味に引き延ばす必要はない」
更に白哉が口を開き、鳳橋や六車、砕蜂も頷くと更木剣八は口の端を上げて笑い。
「俺も同じだ」
冬獅郎が橫で呟くようにして言うと、若桜が有り難うと微笑む。
そこから四番隊の虎徹勇音や、七番隊の射場鉄左衛門も同様にして頷いたが、最後の十二番隊隊長である涅マユリと言えばさして興味がないのか。
そこは誰もが熟知しているのか反応することはなく、京楽も何も言わずに再び若桜を見ればどうかな?と聞いてきた。
「……………」
そうして笑顔から一変表情を引き締めた若桜が、全員の視線が集中するなか静かに息を吸い込み。ゆっくりと吐けば凛とした面を覗かせる。
そのまま力強く前に足を踏み出し、京楽の目の前まで進み出ると静止。
暫く二人ともに無言で見つめ合い、やがて若桜が頭を垂れると唇を開く。
「慎んで、お受け致します。総隊長殿」
途端に京楽が近付き、肩をガッシリと掴んでくれば満面の笑顔か。
「いやぁ~本当に良かった!これでまたひとつ肩の荷が降りたよ。それに山じいからも頼まれてたから、これで一安心ってやつだ」
「………そこまで私に拘るのも理解に苦しむが。他の隊長方も含め、私の背中を押してくれた者のためにも、八番隊隊長として邁進するつもりだ」
「またまたご謙遜を。まぁでも、若桜ちゃんが隊長になってくれるなら何も言うことはないさ。二番隊副隊長だった時から、テコでも動かなかったキミがやっと動いてくれたんだ。これほど嬉しいことはないよ」
「せやで?あん時も俺や夜一が推薦したっちゅーに、見事に蹴りよったしな。ほんま良かったで」
そこに平子も混ざれば若桜が悪かったと謝っていたが、京楽がすぐにでも羽織を作製すると話を進めると後はトントン拍子か。
「そうだ。若桜ちゃん、これをキミに返すよ」
しかしあとひとつと京楽が持ち出したのは、一振の斬魄刀。
それは至極普通のものに見え、鞘や柄なども黒く、浅打と何ら変わらないようなそれを若桜が受け取る。
「なんや、尸魂界に戻って早々どないして斬魄刀を持ってないねん思たら、京楽に預けとったんか」
しかもその事実に冬獅郎が驚き。確かに斬魄刀を持ってないことは知っていたが、まさか総隊長に預けていたとは思いもよらず。
「棗ほどの腕であれば白打で十分対処できるしな。隊長に就任するまでは使わないようにしてたんだろ?」
六車が尤もらしい事を言うと、若桜も頷いた。
「まぁみんな待ちなさいよ。若桜ちゃんが隊長になったことで、今度は副隊長が空席になったことを忘れちゃいけないよ?」
だが京楽がまだ話しは終わってないと言い放ち、騒がしかった雰囲気がなくなるとそこで再び扉が開く。
「その事ならご心配なく。八番隊副隊長は────このアタシが引き受けます」
『っ!?』
途端に全員が絶句し、一斉に振り向けば甚平に羽織姿、目深に被った帽子がトレードマークの死神が立ち。
「喜助!?どないなってんこれ……」
平子が思わず前のめりになると、若桜の隣に浦原喜助が並ぶ。
更に若桜本人でさえ言葉を失い、喜助を見ればお久し振りっスと笑顔で返され。
「いやぁ、夜一サンが尸魂界に戻ったのは別段気にすることでもなかったんですが。若桜サンとなれば話は別っス。それに、あっちでアタシひとりで商店を営むには寂し過ぎまして」
「─────で、わざわざ戻ってきたと言うわけか?」
砕蜂から心なしか冷ややかな目を向けられたが、喜助は満面の笑みで頷いた。
「なるほどねぇ……。と言ってここでキミが出てくるなんて、さすがにボクも頭になかったよ。だけどさ、『浦原商店』は今や尸魂界からも認められた重要な拠点だ。そこに店主であるキミが居ないとなると、現世に赴いた死神たちが困るんじゃないの?」
しかし京楽が鋭い視線を向け、目の前の男の真意を探ろうとするも喜助は飄々としており。
「京楽隊長が不安視するのは尤もっス。ですが、アタシにもやるべき事がありまして。店は鉄裁サンたちが切り盛りしてくれるんで、何かあってもすぐに対応できるようにはしてるっス。その上で、八番隊副隊長として………正式な候補者が決まるまでアタシがその席を埋めると言ってるんですよ」
「───!」
そこは喜助が何枚も上手であり、京楽が目を見開くもすぐにニヤリと笑う。
「そこまで考えてちゃ、ボクも強くは言えないねえ。それじゃあこうしよう。隊長は副隊長を任命する権利を持ってる。だからここは、若桜ちゃんがどうしたいか一任しようかな」
「………私、に?」
そして更に更にの無茶振りも去ることながら、若桜が何度も瞬きすると冬獅郎は喜助を睨み。現世に居た時と変わらず、またこの二人が常に一緒に居る姿を見ることになるのかと。
かと言って今のこの状況を考えれば、喜助に頼まざるを得ないのはほぼ確定だ。
それでも文句を言うことも拒否することもできず。
見ていることしかできないでいると、やはり若桜は協力を願い出た。
「いいねえ。これで暫くの間は機能しそうだ。隊首会も長引くかと思ってたけど、今回のところは浦原喜助に感謝するよ」
それを聞いた京楽が笑顔で頷き、若桜が副官章を外すと喜助が受け取る。
「いえいえ、これも若桜サンのためっスから。どうぞお気になさらず」
「喜助さん、すまない………。あなたの力をここでも借りることになってしまって」
けれど若桜は済まなそうに目を伏せ、喜助と言えば鼻の下を伸ばしてデレデレか。
「なぁに言ってるんスか!ボクはアナタのためなら何でもする男なんスよ?それに開発のほうも引き続きしますから。安心して任せてくれればいいんです」
「有り難う………。喜助さんが来てくれて本当に助かった」
そんなやり取りさえ冬獅郎は見ていられるはずもなく、視線を反らしたままでいれば京楽が隊首会の閉会を告げる。
「とりあえず、副隊長の件も頭を悩ませることなく済んで助かったよ。それじゃあ、解散としようか」
それを合図に隊長たちが退室していくなか、平子や六車たちが突然登場してきた喜助と会話し。若桜も久し振りに顔を合わせたルキアと話していて、完全にタイミングを逸してしまった冬獅郎は無言で部屋から出る。
(結局、こうなっちまうのか………)
同時に胸のあたりがずっと重苦しく、思わずため息が出てしまえば別室で控えていた乱菊が姿を現した。
「隊長!どうでした!?」
「………ああ、その事なんだが────」
そこで冬獅郎から聞かされた内容に、乱菊が絶叫しかけて口を塞がれ。良い事と悪い事が同時に起きたとしか言い様のない展開に、思わず天を仰いだのだった。
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