「なかなかやりますねえ………篠宮さん」

切っ先が恭の首筋を捉え、微かに喉仏が上下すると苦笑する。

「こんな状態で誉められても嬉しくないっすよ!」

そしてニッコリと笑った沖田が離れると、他の隊士たちが恭に拍手を贈っていた。
そこで沖田が顔を上げ、二人を視界に納めると手をひらひらと振る。
すると二人共に近付き、土方が大きな溜め息を吐くと口を開いた。

「あのなぁ………お前のそれはわざとだろ?」

「あれ?分かりました?」

途端に満面の笑みで彼が答え、悪びれた様子もなく土方を見る。
その横では恭も何となく読めたのか、肩をガックリと落とした。

「先輩に見せるため、ですよね?」

「ふふ。御名答!彼女に気付いて・・・・欲しかったんですよ」

「私に………?」

それでも何故自分なのか分からず、昴が首を傾げると土方は頭をかくだけ。
そして沖田が口の端を上げて昴を見つめ、

「勿論!あなたと土方さんがお似合いだって、ことですよ!」

堂々と言い放った。

「──────っ!?」

途端に昴の頬が朱に染まり、何も言えないのか目を見開くばかり。
同時に周りが囃し立て、土方が睨み付けると急に大人しくなる。

「いい加減にしろ、総司。根も葉もねえこと言うんじゃねえよ」

それでも引き下がることなく、沖田が彼女の目の前に立つと静かに木刀を差し出した。

「良かったら、俺と手合わせしませんか?証明、してあげますから」

「やめろ」

瞬間、土方が彼の手を掴み、ぐっと押し返す素振り。

「女相手にすることじゃねえ」

「彼女は………俺たち・・・と同じですよ?きっと」

捕まれた手に少し視線を投げ、しかし沖田がはっきりと告げると土方が目をすがめる。
どうしたら自分たちと関わらせずにいけるのか、これ以上、彼女を踏み込ませるわけにはいかない。
それしか考えられなくて、掴んだ腕に知らず力がこもった、その時。

「分かりました………。お受けします」

土方の手にスッと白い手が重なり、横で涼やかな声がする。

「お前………本気なのか?」

重なった手の暖かさと、真っ直ぐと見つめてくる瞳にそれ以上は何も言えず、ただ頷いた彼女が沖田へと眼差しを向けた。

「証明するかしないかではなく、刀を持つ者・・・・・として、受ける」

「先輩………っ!」

それを聞いた恭が咄嗟に声を上げ、沖田がニッコリと満面の笑みで返す。

「俺の目に狂いはありませんよ。ですよね?土方さん?」

「………………っ」

それでも納得できないのか、小さく歯噛みすると昴がふわりと微笑み。

「これは私自身が決めたこと。土方さん、あなたは何の関係もない」

まるで安心させるように言えば、目を見開いた土方が一瞬だけ口を結び、そして滾るような眼差しを彼女に向けると言い放った。

「俺にとっては大いに関係ある。やるからには…………負けんじゃねえぞ?」

その言葉に今度は昴が目を見開き、少し目を閉じると唇が弧を描く。

「…………最善を尽くそう」

最早交わす言葉でさえ親密さを帯び、それでも昴が離れると恭へ問い掛けた。

「篠宮くん、何か髪を結ぶものを持ってないか?」

「あ、髪紐のこと?ごめん………俺、持ってない」

それにその格好じゃ動くこともままならないと言えば、沖田が袴であれば貸せると教えてくれた。

「髪紐になるものもあると思うんで、着替えてきてください。篠宮さん、場所わかりますよね?」

「大丈夫っす。先輩、こっち!」

そうして男物だったが昴の体格に合うものを見つけ、それに着替えると髪を結ぶ。
姿を現した彼女を見て、恭が何か言いたそうにしていたが沖田が待つ場所まで再び同行してくれた。

「やっぱり、その姿も違和感ないですね」

そこで佇んでいた彼が見つめ、嬉しそうに微笑むと横に立っていた土方が無言のまま視線を向けてくる。
しかし手に持っていた木刀を昴へ差し出すと、静かに告げた。

「手加減するなよ?」

「─────っ!」

「嫌だなぁ!怖いこと言わないでくださいよ、土方さん」

土方の言葉に沖田が目をまん丸とさせ、肩を竦めるとギロリと彼が睨み付ける。

「お前なぁ、自分からふっかけといてそりゃねぇだろ?」

「まぁそうなんですけど………。じゃあ、始めましょうか?」

けれど動かない昴は木刀を握り締め、じっとその手を見つめていて。

「瀬田さん?」

「─────っ、す、すみません」

顔を上げて沖田へと歩み寄れば、正直に答えた。

「ここ最近全く動いてないので………。お見苦しいところを見せるかもしれませんが、それでもいいですか?」

「全然、構いませんよ?最初は準備運動だと思ってやってください」

その潔さも気に入ったのか笑顔で答え、昴が小さく息を吐くと視線を感じる。
顔を上げ、振り向けば土方がやはりじっと見つめていて。
二人、言葉を交わすことはなかったけれど、交わる視線で何かを伝えあっていた。

「両者、前へ!」

取り巻きの隊士たちの数が増え、気付けば局長の近藤勇までもがそこに立つ。
その中でも昴は既に周りも気にならないのか、木刀を少し振り上げると感触を確めた。
そして沖田と向かい合い、姿勢を正せば互いに一礼。
二人ともに構え、ピタリと静止すれば始め!と声が響いた。

「……………………」

しかし両者動かず、無言の世界が訪れると誰もが固唾を飲んで見守る。
ただの手合わせが、そうでない張り詰めた空気を漂わせているからか。

「これはまた………凄いな」

それを見た近藤勇が腕組みをしながら呟くと、吹いた風が木々を揺らした。


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