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他人護衛 ヒトオモリ

 何やらおかしい。

 こんな風に人間は造られなかった筈だ。もっと欲深く醜く他のどの生物にも嫌われるようなものにされたはずなのだが。もしそれを良いものとするのなら

 「不良品か」

 そう呟くと、

 「壊れたものでもあるのですか、直しますよ」

とすぐに言葉を投げてくる。

 「……いや、構わんよ。偶にはそういうのもあって良い。全てが完全など全くもってつまらないさ」

 「そうですね」

 またにっこりと笑う。

 「そろそろ私もお仕事をしなければいけませんね」と言いながら重い傷を負っている身を起こすが

 「……」

 笑顔に冷や汗をかいて固まってしまったので、察する所無理だったのだろう。どう見ても人間なら治癒に一月はかかる怪我だ。

 「そう慌てることもない。小僧がいなくともこの世界は常に動いている」

 「いえいえ、お嬢ちゃんは分かっていない。私が何の仕事もせず呼吸をしているのですよ。この罪は重い」

 にこにこにこ。
 まだ癖が抜けないようだ。

 「ふむ、そこまで言うかね。まあ明日には治るだろうさ。このほんの十六時間、力を蓄えることに専念するのだと思えばただの寝坊助ではなかろうよ」

 「そうですね」

 「寝ろ」

 「わかりました、しかし私はお嬢ちゃんの布団を用意していません。良ければ今しがた私が使っていた布団へどうぞ」

 いつの間にか小僧はゴロンと敷いた布の外へ出ている。


「何を言うか、まだ昼間であるのに」

「私の看病で疲れているのではないですか。さあ、どうぞ」

 「必要ない」

 「必要です」

 「必要ない」

 「ですが」

 「怪我人がとこで寝ず健常者が布団に入るなど言語道断であろう。早う怪我を治せと言うておるのに何たる言い草か」

 「では私と一緒にお眠りください」

 なんと強情な。いやしかし、さすれば小僧は納得するだろうか。

 「……いや駄目だ。早う寝んか馬鹿者」

 そう言ってごろごろと小僧を転がして布団に戻し、でこをぺしんとはたいた。

 「いっ……あり……ありがとうございま……いっつう……」

 どうやら包帯で隠れた患部に当たってしまったようだ。

 「……礼を言える程の元気があるのであれば問題無かろう。さて、私はこれにて」

 そそくさと逃げようとするが

 「え、帰ってしまうのですか」

 「は。いかにもそうだが」

 「そうですか。そうですか。いえ、短い間でしたが随分と世話になりました」

 「いや気にするな。そも私が小僧に助けられたのが始まりである故な」

 「また会えたら、仲良くしてくださいね、お嬢ちゃん」

 少しだけ笑みに陰りが入る。きっと小僧はそんなこと微塵も気が付いていないのだろうが。

 「ふむ、なに、心配するな。お前がお前であれば何れまたここを訪れることもあろう」

 「……」

 いやはや。
 自分の言葉で他の者の顔を変えるのがこれ程に愉快とは。まあ小僧は随分と分かりにくいが。

 「じゃ、達者でな」

 「あ――」

 小僧は何かを言いかけたがまあ聴かなくても困らないだろう。
 それよりも優先すべきはそう。
 私の住処探しである。
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