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他人護衛 ヒトオモリ

「起きろ」

 中々目を覚まさない小僧に対して初めて言葉をかけると、その目はぱっと開いた。最初からこうすればよかったのだろうか。小僧は上体をゆっくりと起こす。

 「御看病ありがとうございます。ここはどこでしょうか」

 開口一番礼を言うのは少し予想外だ。何故己が看病されていたと分かったのだろう。

 「小僧の家だ」

 「小僧、私の事ですね、お嬢ちゃん。ここまで運んでくれたのでしょうか、ありがとうございます」

 妙にさとい小僧は、微妙に上がった口角から二度目の言葉を口に出す。どうして家が分かったのかとは問われなかった。

 それにしても、目覚めてから今までずっと表情が変わらないので「何か嬉しいことでもあったのか」と問うと、小僧は「え」と首を傾げる。

 「口」

 「口ですか」

 「ずぅっと形が変わらないな」

 「ああ、これは、笑顔は他人を元気にすると言いますので」

 私はなっておらんが。と軽く呟くと、小僧は途端に笑顔のまま顔色だけを真っ青に変えて

 「これは申し訳ございません、では私はお嬢ちゃんの前ではどのような表情でいれば良いのでしょうか」

等と早口で言うので、少し面食らって

「小僧の好きな顔でいれば良いだろう。私には関係がない」

と言ってやる。するとほけっとした顔になって、

 「え」

 「んん」

 と、言葉にならない声を発した。すると次は困ったような顔になって、泣きそうな顔になって、口角が微妙に上がって「ではこの顔で」と言った。血色の良い顔に笑みを浮かべながら。
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