「ふっ！」
ダンッ！
とある部屋の一室、壁全体に貼られた射撃用の黒い人影があしらわれた紙に長物を投げて頭の真ん中に命中させる。
紗衣は毎日の日課として、自分の武器である長物のナイフを的に当てる練習をしていた。
彼女は鉄の塊を投げる事でナイフを生成でき、溶かすことができる個性を持っていた。
指をパチンと鳴らすと、投げたナイフが溶け鉄の塊になって戻ってくる。
スーパーボールの大きさを机に置いて、休憩するように椅子にもたれた。
「今日の練習は終わり。さて、大学に行きますかー！知恵と知識を養わなきゃね！！」
もたれながら背伸びをして立ち上がると、学生の本分を営むために紗衣は部屋から出た。


「３時限目からの授業を取ってると、朝のんびりできていいのよねー」
「ほんとに紗衣はのんびり屋さんだよね！いいなぁ、私なんか1年の時に必修科目をサボってたからオール時限でてんてこ舞いなのに」
「それは聴花（ちょうか）の自業自得だよ」
全ての講義が終わり、大学通ってからの親友ｰｰ耳野聴花と笑い合いながら、紗衣は帰路に着いていた。

耳野聴花の個性は花を通して耳に声が聴こえるというもので、意識しなくても半径5mの周囲の声が聴こえるのだ。
彼女は紗衣がヴィランという事は知らない。
そのことに対して、少し後ろめたい気持ちになっているが、彼女と一緒にいる紗衣は、普通の女子大生のようだった。

「あ！ごめん聴花。今日これから予定が入っているんだった！多分、明日なら約束のカフェに行けると思う」
「もー、そういう事なら早く言ってよね！」
「あはは、ごめんごめん。じゃあね！また明日！！」
「うん。またね！」
ぷりぷりと頬を膨らませる聴花に謝り、紗衣は手を振って彼女から走って離れる。


ある程度走って、花が一輪もない場所までたどり着くと、ずっと震えっ放しだった携帯をカバンから取り出し、電話に出る。
「はい。はい……大丈夫です。周りには誰もいません。それで依頼とは一体？」
電話の主は、暗殺者を派遣する秘密結社のエージェントからであり、紗衣に依頼する内容だった。
「分かりました。では今から向かいます」
電話の向こうに頷くと電源を切り、紗衣は指定された場所へと足を向け、依頼遂行を成し遂げたのだった。
その時、誰かしらの視線を感じてはいた。
その視線が紗衣は、ヴィラン連合と繋がることになるとは、思いもよらなかったのだったーー。