「何故気が付いた……」
呼びかけから数秒後、何処からか腹の底から響くような声が聞こえて来た。
相手の質問に、周囲を確認しながらも両手を腰にやり、やや呆れ気味に答える。
「熱烈な視線（アプローチ）があれば誰でも気がつくわよ。鈍感じゃない限りね」
「なるほど……」
「それで？ いつ正体を現すのかしら？」
姿の見えない相手に、大層呆れながら顔を顰める。
「もう現れている。俺の個性はステルスだからな」
「ステルスして私の生活を覗いてたの？ 変質者と言うより、犯罪じゃない。……それ、嫌いだから、透明人間はやめてくれる？」
「いや、このまま話を聞け。お前は選ばれた」
「は？」
姿の見えない男は＃hero1＃の希望を無視し、突拍子のない言葉に＃hero1＃は片眉を歪めて怪訝する。
「ヴィラン連合への加入権だ」
「ヴィラン連合……？って、USJ事件の……」
「そうだ」
発せられる言葉に、この前ニュースで見た内容を思い出す。
頷く素振りは見えないが、一言だけ発せられた言葉と空気抵抗する音が耳に届く。
「どうして私が……？」
「この前の依頼で、我らがボスが偵察として、暗殺者としての力量を測っていた」
「それで、あなた達のボスが私の働きっぷりを見て、採用したい。と……？」
「……そんなところだ」
「なによ。今の間は……」
少し誉められたのだと思ったがそうでもなく、一瞬の沈黙にムッとなるも、話が進まないと感じ首を振って元に戻す。
「まあ、いいわ。それで、なに？ヴィラン連合ってのに入ってなにするのよ」
「あぁ、そこで死柄木弔という少年の事を近くで監視して欲しい」
依頼の内容を訊ねると帰ってきたのは、いつものような暗殺依頼ではなく、紗衣にとって珍しいものだった。
「監視？ してどうするの？」
「どんなことをするのか、ヴィラン連合は何を求めているのか知りたいのだ」
「ふーん……私、ヴィランなのに、なんだか、ヒーローごっこをしようとしてるみたい」
少しオールマイトの真似事を依頼してきてるような気がしたが、直ぐに相手は否定する。
「いや、敵情視察というものだ。USJ事件で先を越されたような気がするからな」
「なにそれ……まぁ、いいでしょう。受けようじゃない。……それで報酬は出るんでしょうね？ これでも大学生なの、学費が払える以上の見返りを求めるわ」
「それは、我が主と直接ご相談をお願いしたい。俺一存では決め兼ねるのでね」
報酬について問うと、彼には応えられないらしく、直接聞けとの事だった。
「分かったわ。詳しく相談したいし、そのあんた達のボスのところまで案内よろしく」
「分かった」
相手の個性"ステルス"が消え、ニットとゴーグルを頭につけ、カメレオンのようなスーツを着た男性が姿を現した。
一言頷くと、その男性は着いてこいと言わんばかりに踵を返すと走り出し、その後ろを追いかけるようにして新雇用主の元へと向かった。

そして一棟のビルへ到着し、雇用主と対面した紗衣はもう一度詳しく依頼内容と報酬交渉をかわし、好条件で提示された報酬を聴いて、紗衣は二つ返事で正式に依頼を受け付ける事にした。