第一章「ドロボウの都編」
空欄の場合、名前は”アルマティーニ”になります
ジン「君のこと知りたいな」年齢:20代 性別:女
職業:カメラマン兼新聞記者
「星さえも盗む王ドロボウ」を取材するべく追い求め続ける新聞記者。
カメラを愛し、カメラさえあれば十分と考えている。
「世界を映すのにカメラはあって、その撮影者である私は、世界を表す現像者になる」がモットー。
”王ドロボウを探し、取材していく中で彼女の景色は変化していく――”
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「あの、すみません! あなたはここのマスターですか?」
「ん? そうだが……」
「お伺いしたいことがありまして……」
店内に入ってまず先に、アルマティーニはバーのマスターに訊ねた。
「……すまないが、私には分からないですな。王ドロボウとダブルマーメイドの関係性など……」
「ですよね……。ごめんなさい。分からないことを聞いて」
「いや、こちらこそ力になれなくてすまない」
アルマティーニはマスターの言葉に肩を落とし、訊ねる際に頼んだアルコール分の少ないカシスオレンジを一気に飲み干した。
「よし……! ありがとうございました。ごちそうさまです」
グラスをマスターに返すとほかの場所へと情報を集めに向かった。
「あの、すみません。お話よろしいでしょうか?」
「ええ」「はいぃ」
次にアルマティーニが訊ねた場所は髪をアップに束ね、袖のない身体のラインに沿った形のドレスを着込んだ二人の女性に訊ねた。
「う~ん。そうねぇ……ここじゃあ、有名よね。ダブルマーメイド」
「そうそう。有名。しかも王ドロボウが盗みにくるって言う噂もあって、一目有名だわ」
「では、王ドロボウがその有名な、ダブルマーメイドを盗めるか盗めないかどっちだと思いますか?」
「え~。コニャック様じゃないかしらぁ? いくら王ドロボウでも罠をかい潜るだなんて無理よぉ」
「え~! 私は王ドロボウが盗むんじゃないかと思ってるわ。狙った獲物は逃がさないって感じで」
「なるほど……ご協力ありがとうございます」
「そんなにかしこまらないでよぉ。困ったときはお互い様よ!」
「そうよそうよー!」
アルマティーニは長らく話し込んだおかげで彼女らと久しくなれた感じがしたが、自身の仕事は忘れてはいない。
席を立ちながら彼女たちにお礼を言うと、次に大勢の盗賊たちが群れている場所へと移動した。
何故其処にアルマティーニは行ったのかというと、集団盗賊がダブルマーメイドを盗む作戦を立てていたので、少し気になり好奇心で向かうことにしたのだった。
「あのすみません。ちょっと良いですか?」
「あ? なんだ、この女! 何か用かぁ!!!!?」
「っひ!?」
盗賊たちの中の一人に声をかけたが怪訝な顔をされ、ドスの利いたような声にアルマティーニは萎縮した。
「馬鹿野郎!! 女性に対してなんて物言いしてんだ!!!!」
「ぎゃ……ぎゃああああああああああああ!!!!」
すぐ後に、怒ったような野太い声が聞こえたかと思えば、アルマティーニに声をかけられた男は顔を殴られた拍子に頭から遅れて身体が宙に浮き、店の外へとぶっ飛んだ。
「すまんな。お嬢ちゃん。何か用があってわしらに声をかけたのだろう? 聞いてやろうじゃないか」
男を殴った張本人は白髭を蓄え、如何にも盗賊の長のような人物がドッカリと足を広げて座りながらアルマティーニに声をかけた。
「はい。先ほどダブルマーメイドって言葉が聞こえたので、あなたたちはそれを盗もうと考えている。とお見受けしたのですが……」
「そうだぜ。お嬢ちゃん。このウォッカ様はそりゃすげぇお方でな。たった今、ダブルマイメードを盗む作戦を考えてるんだ」
アルマティーニは聞こえた情報とここはドロボウの都、盗む盗まれるという事がある場所。彼女自身それを経験しているので、ジャーナリストとしても察することが出来た。
近くにいた初老の男性はウォッカより背丈は小さく威張るようなことはしなかった。だからこそ、アルマティーニは初老の男性に問いかけた。
「やはり……。それで、その作戦というのは……?」
「まだ決めてない!!」
アルマティーニの問いかけに答えたのは初老の男性ではなくウォッカだった。
「決めてないって……そんな……」
「だって、みんな集まってから、そんなに経ってない時にお嬢ちゃんが来たんだ。話しなんぞまだ存分にしておらん」
「あ、そうだったんですか……それは大変失礼しました」
アングリとアルマティーニは指摘するが、ほかの男性が声を出して教えてくれた。
「所で、お嬢ちゃんは何で俺様たちの所に聞きに来たんだ? 俺たちの作戦を聞いて、先に実行するってわけじゃなさそうだし、そのカメラを大切そうに持ってるお嬢ちゃんはドロボウには見えねぇからなぁ……」
「あ……はい。えっとですね……」
「あんたがウォッカ? すぐに分かったよ。如何にもコニャックのいいカモって感じが染み出てて。あ、このハムおいしいね」
「え?」
アルマティーニが男の問いに答えようとすると、横から誰かの手が伸び、近くにあった皿の上のハムがつまみ上げられた。
その手はハムを持ちながら戻っていき、アルマティーニの横を通り抜けるとすぐ後ろから咀嚼音と飲み込む音と指を舐める音が耳の近くで鳴った。
そして軽い口調も聞こえ、アルマティーニが振り向くと、見覚えのある人物が微笑みながら賛同を問いかけていた。
「あなたは……!!」
声の主を見て、アルマティーニは目を見張った。そこには先ほどカメラを盗んだドロボウから取り返してくれた男の子、ジンだった。
「やあ、またあったね。カメラ大好きのお姉さん」
「カメラ大好き……」
片手をあげてジンは親しげにアルマティーニに挨拶を交わす。
アルマティーニはカメラ大好きではあるが、仕事の相棒だといえず、ジンが言った言葉を反芻する。
その間に、ウォッカの仲間達が一人一人皿を持ってテーブルから遠ざかる。
「なんだとー!! もう一回言ってみろ!!」
ウォッカは顔を大きくし、唾を吐き散らしながら怒鳴ると、ジンとアルマティーニの髪は声風で舞った。
「おい、坊主。このお方を誰だと思っているんだい? 大盗賊のウォッカ様だぜ?」
「見ろ! 俺様のコレクションを!」
ウォッカの仲間の一人が、ジンの肩に手を置いて、ウォッカを見やる。
そして、ウォッカ本人は自慢するように、自分の着ていた上着を広げ、上着の内側に鈍く光る銅の色をした宝石がすべて飾ってある場所を見せびらかせた。
アルマティーニはすぐさまカメラを装備し、ウォッカの上着に飾ってある宝石を一枚撮った。
「……。それとな、もっとすごい宝石はとある所に隠してある。それはここだ」
アルマティーニの行動に驚きつつも、ウォッカは大きな口を開けて親指を口の中に指した。
「……。すごいお宝ってこれのこと?」
大きな口の中を軽く覗いたジンは自身のポケットの中から赤く大きい宝石と、誰かしらの歯を指の間に挟んで持っていた。
「ついでに、虫歯も取っといてあげたよ」
「は?」
アルマティーニはウォッカの顔とジンの顔を交互に見た。
すると、綺麗にそろっていたウォッカの歯並びに一つだけ取り除いた場所を発見し、写真を合計二枚撮った。
ウォッカはジンの指に挟まれている自分の歯と宝石を目を丸くしながら交互に見やった。
「どうやって盗んだと 言うんだ……? 誰も盗めないだろうと思って歯の奥に仕込んでいたというのに……」
ウォッカの呟きに仲間達やアルマティーニは無言で頷くように首を捻る。
返事をしようにも、ジンがどうやってウォッカの口の中にあった宝石を盗んだトリックは、ジン以外誰も想像出来なかった。
「もっと盗まれにくい場所がある」
そんな沈黙にジンは口を開き、言葉を言ったと同時に、宝石と歯を曲げた人差し指に置き、親指で二つ弾き飛ばした。
すると宝石と虫歯はウォッカの口にホールインし、その拍子にウォッカは生理現象で飲み込んでしまった。
「の……飲み込んじゃった……」
一人の男が呟いた後、ウォッカの仲間達は事の重要さに気が付いたのか、各々腰にぶら下げていた剣をジンに向け始める。
「こ、これからどうなるの・……?」
アルマティーニはレンズ越しからそういった光景を撮りながら、アルマティーニ自身、ジンとともに囲まれていたことに気付かず、そのままシャッターチャンスを待った。
「やれーー!」
「ひゃっ!?」
ウォッカの仲間達の誰かが咆哮を上げ、一斉に襲いかかるように剣を振り下げた。
その時、アルマティーニは風景が割れるような音を聞きながら、誰かに持ち上げられ浮遊感におそわれる感覚に小さく悲鳴をあげた。
「大丈夫だった? ……あ、カメラ……」
浮遊感から地に着く感覚後、割れた景色のまま問いかけてくるのは、成長過程の優しく耳に響く声で、その声は何かに気が付いたように小さく呟いた。
ジンの呟きに気付き、割れた景色からちゃんとした景色に戻ると直ぐにアルマティーニはカメラを見やった。
「え……。ってきゃーーーーーーー!! カメラのレンズがぁ!!」
其処にはレンズからフレームの結合部までに掛けて真っ二つに割れていた。そして、カメラの耐久が限界に達したのかボンッと黒い煙を吐き出しながら死んでいった。
「あぁぁ……これ結構高かったのに……しかも、今まで撮ったデータが……」
涙を溜めて崩れ落ちるアルマティーニは喪失感に襲われて、目の前が真っ黒になりそうになった。
「さてと……、キール。デート中に悪いな。「は? ……グエッッッ!!」キーーール・ロワイヤル!!!」
二人はカウンターの所に降り立っていて、其処には相棒のキールが、先ほどアルマティーニが声を掛けた美女二人を侍らしているところだった。
ジンはそんなキールのスカーフを掴むと、ジンの右腕とキールはメキメキと合体し始め、黄緑色の丸い弾丸をウォッカのテーブルの所に打ち落とした。
悲しさと、絶望に身を通していたアルマティーニはハッとして、明るい光の先であるジンを見上げた。きれい……。と口を開こうとしたアルマティーニは我に返り、予備に持っていた小型のカメラにその光景を撮った。
「しゃっくり止まったろ?」
「いや、してないって……」
ジンとキールのコントを近くで聞きながら、アルマティーニはジンという少年に興味を持ち始めた。
「よぉーーく、分かった!」
そんな中、ウォッカは何が分かったのか声を荒げ、その続きを言った。
「今日からおまえ達は俺様の手下だ!!」
「え!? わたしも!!?」
おまえ達、とウォッカは言った言葉にアルマティーニは目を見開いて、とっさにウォッカを見てからジンを見やった。
ジンは口元を呆れたかのように歪ませていた。
そんなこともお構いなく、ガハハハッと愉快そうに笑うウォッカとその仲間達はジンとアルマティーニにこれからよろしくなっ!と歓迎され、ジンは言い寄ってきているウォッカの仲間達に生返事をしながら、アルマティーニの方に目線をやり苦笑した。
アルマティーニはそんな光景を、予備のカメラで撮り納めたのだった。