第二章 ブルーハワイの幽霊船
ヒロイン設定
ジン「君のこと知りたいな」年齢:20代 性別:女
職業:カメラマン兼新聞記者
「星さえも盗む王ドロボウ」を取材するべく追い求め続ける新聞記者。
カメラを愛し、カメラさえあれば十分と考えている。
「世界を映すのにカメラはあって、その撮影者である私は、世界を表す現像者になる」がモットー。
”王ドロボウを探し、取材していく中で彼女の景色は変化していく――”
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「それで?どうしてカメラマン兼雑誌記者さんが幽霊船を取材したいの?」
ブルーハワイの警察署内にある部屋の一角に、若い女性警官のロゼと机を挟んで向き合う様にアルマティーニは座っていた。
「興味があるんです。とある場所で噂になっている幽霊船の事。ーーそれに、王ドロボウがこの街にやってくるって情報を手にしまして……」
「そうなのよ!お騒がせなドロボウがブルーハワイにやってくるという噂が立ってから、寝る間を惜しんで街の強化をする羽目になって、心身もお肌ももぉ〜ボロボロ……って、なんでその王ドロボウを気にしてるの?」
アルマティーニの一言で賛同するように強く反応したロゼは、腕組みをして困ったようにため息をつくも、ふとした疑問に気付き口にした。
「(嘘言っても仕方ないけど、当の本人から招待状が来たなんて知られたら、私も逮捕されかねないから無難に……)その疑問はもっともですが、挨拶の時に名刺と一緒にお渡しした、雑誌の付箋を貼っている所の記事を読んでいただければ、ご理解出来るのではないかと……」
その疑問に答えるように、アルマティーニは少し考えてから、卓上の隅に置かれた雑誌を指差した。
ロゼは興味がなく端に寄せていた雑誌を横目で手に取り、仕方ないという手つきで付箋が付いている箇所をめくり、中身を確認する。
「……ゴシップ記事なんて私は嫌いよ。ファッションなら別だけど……」
付箋に指を滑らせながらページを開くと、ロゼの目線は直ぐに見出しに止まり読み始めた。
徐々にに瞳孔がくっきりと見開かれ、ざっとしかし何度も同じ文章を追い、あるいは何故か人物だけぼやけて映る写真を目を細めながら確認していた。
「この内容……あなた王ドロボウに会ったの!?」
そして、読み終えたロゼは、記事の内容を指しながら、アルマティーニに机越しなので興奮気味に顔だけを近付ける。
「は、はい。ちゃんと雑誌掲載許可を当人に聞きました。連載も決まったことなので、彼の噂は逐一耳にしたいので……」
少し顔の距離を離して、アルマティーニは驚きながら本当の事を伝える。
「そう……。分かりました。幽霊船については取材許可します」
「!では!!」
承諾を得たアルマティーニは腰を浮かして、嬉々として乗り出すも、人差し指を顎あたりに持ってきたロゼは条件を付けようとした。
「ただし、私も同行致します。その代わりですがーー
《ザワザワ……!》
……ってあら?なんだか外が騒がしいわね。少し様子を見てきます。待っていて下さい」
最後まで条件を伝える前に、外が一段と賑やかになり、不思議に首を傾げたロゼは立ち上がった。
「はい。行ってらっしゃいませ」
アルマティーニは頷くと、ロゼは外の様子を見に一旦退室していった。
「そういえば、ジンは今どこにいるのかな……。もうここに着いてる?それともまだなのかな??」
室内に残ったアルマティーニは独り言ちる。
ーー前回はたまたま取材中のアクシデントにて、取材対象者のジンと出会えたから良かった。
だけど、今回は本人から取材許可が降りており、出会える確証があるとはいえ、彼がいないと独りでに動くことも、先行して幽霊船を取材することは危険な気がして難しいのだ。
「はぁ……」
《バァァァンッ!!》
「!?」(ビクッ!)
ため息を吐いたアルマティーニのすぐに響いた発砲音に驚き、肩が浮いた。
《さあ、帰った!帰った!!このまま居座るのであれば、営業妨害罪で逮捕するわよ!?》
「(ロゼさん、横暴だなぁ……)」
銃声音の後に聞こえたロゼの大きな声が室内に届くと共に安堵して、乾いた笑いを浮かべる。
「大変よ!ドロボウが自首してやって来たわ!」
外の騒がしさが静寂になったと思いきや、その数分後に血相を変えたロゼが騒ぎ立てながら、誰かを連れて何処かの部屋へ向かっている複数の足音が聞こえた。
「ドロボウ……?」
知ってる単語から、ドキリと鳴った心臓を押さえつつ、もしかして……と少し腰を浮かせてアルマティーニは顔を廊下へと向けた。
「ジン!!キール!!」
丁度、ロゼが部屋前を通り、連れられている人物を見て、アルマティーニは2人の名前を呼ぶ。
「よぉ、アルマティーニ!ドロボウの都振りだな!」
「や、おねーさん。招待状は届いてたみたいで嬉しいよ」
「キャッ!?」
名前を呼ばれた2人は扉付近で立ち止まると、掴まれた方とは逆にヒラヒラと手を振ったジンとキールが返事を返した。
「もう!なんなのよ!!容疑者、立ち止まらないでよって……なに何?」
ジンが立ち止まった反動で、倒れてしまったロゼは立ち上がりつつ、親しそうに話し始めたアルマティーニ達に、交互に目線を向かいあわせた。
「……あ!」
一体全体どういう事よ?と首を傾げて数秒後、ロゼは目を見開き何かしら思い出したように驚き、ジンに指を刺しながら吠えた。
「……もしかして、アルマティーニが言ってた王ドロボウって、きみ!?」
「……だとしたらどうする?」
ロゼの言葉にジンは一度、アルマティーニに視線をやるも、すぐに戻してロゼに挑発する様に片眉を上げる。
「もちろん、現行犯逮捕よ!」
「まだ何も盗んじゃいないぜ?」
「存在自体が罪よ!悪事よ!」
「ま、まあまあ……」
ジンに向けて興奮気味に食い下がるロゼの間に入り、仲裁する様にアルマティーニはたしなめる。
「……パパァ!!王ドロボウ(仮)が自首しにやってきたわ!?」
アルマティーニの横入りにため息を吐き、踵を返して別の場所へ向かう足取りで、ロゼは疑問ながら言葉を直して部屋から出た。
「パパ?……って、他にも誰かいるの?」
特に理由は無いが、ロゼが口にした【パパ】という単語が気になり、アルマティーニは彼女の後ろを着いていく。
それに倣うように、ジン達も移動した。
ロゼが向かった部屋に辿り着くと、そこは二つ並んだベッドルームだった。
そのうちの1つに、誰かが寝ているのか布団に山が出来ており、ロゼはそれ向けて声を荒げて布団を掴み、勢いよく引っ張る。
「ちょっと、パパ!!?幽霊船を目撃したからといって、いつまで布団にくるまってるつもりなの!?警察署長の威厳と使命はどこに行ったのよ!」
剥ぎ取られた布団が宙を舞い現れたのは、パパと呼ばれたロゼの父親らしき男性が、ベッドの上でうずくまっている姿だった。
その男性はロゼと同じような制服を着ており、ロゼの言葉通りに、ここの署長だと推測される。
アルマティーニは、よく確認しようと、ロゼの肩口に覗き込む。
よく観察してみると、小さく震えているどころか、浮いた眼球は生気のない瞳で虚空を見つめ、ロゼの言葉に反応する素振りがなかった。
「まったく、私たちでブルーハワイとミルフィーユを護って行くんでしょ!?まったく、警察としての顔が丸潰れじゃない!」
(あぁ、そう言う事だったのね……)
そういえば、とアルマティーニはふと思い出す。
ーー最初に来た時に、ロゼが話し合いに出て来て、署長を呼ぶ様にとお願いした際に、「ごめんなさい。ぱ……署長は、今は出れる状態じゃないの。なので、私が承ります」と言っていたのを思い出した。
しかし、ロゼの高い声が耳元で騒いでいるも、何も反応を示さない事に不思議に思う。
「……ねぇ、ジン。ロゼさんのお父様、何だか様子が変じゃない?」
うつろな瞳で震えるだけの、ロゼの言葉にも反応しない様子を見て、アルマティーニは横目にジンをみる。
「まるで魂を抜かれちまったって感じだな」
「だとしたら、魂を抜かれたら死んじゃうんじゃないかな……」
それに応えたのは、隣にいたキールではあったが、そのままアルマティーニは考える。
そして、手にペンとメモ帳を取り出したアルマティーニは、ロゼに向けて質問し始めた。
「おと……署長さんがこうなったのはいつからなんですか?」
「え? 幽霊船を取り締まりに行くっていって、帰ってきた時には既にこうだったけど……」
「なるほど……。考えられる原因は取り締まりに行ったはずの幽霊船にありそうですね」
スラスラとペン先を滑らせたあと、メモ帳を手の甲で叩く。
「ジン。キール。というわけで、早速幽霊船に行きましょう!取材開始よ!!」
アルマティーニは2人に声をかけると、人差し指と腕先を出口に向けて伸ばし意気込んだ。
「おっと、お姫さまの仕事が始まった。俺たちもそろそろ仕事しに行こうぜ」
「だな。……じゃあ、行きますか」
外へと移動したアルマティーニがジンたちを通り過ぎた後、自身の肩に乗っていたキールの言葉に頷いたジンは、壁に寄りかかっていた腰を浮かして、アルマティーニに倣い外へと向かった。
「……あ!ちょっと!!」
置いてけぼりをくらったロゼは、ハッとして3人の後を追うように、急いで部屋から退出した。
「遅いよ。二人とも」
「ごめんって、……て、何で謝ってんの?オレ」
アルマティーニの言葉に素直に謝ったキールは小首を傾げた。
それと同時に、遠方から駆動音が聞こえ、すぐにバイクに乗ったポスティーノがジンたちの前に止まる。
「知ってるか、ジン。人は『ありすぎても無さすぎても困るもの』があるそうだ」
そして、また前回同様、謎かけのようなセリフを吐いて、ポスティーノは走り去って行った。
「"ありすぎても無さすぎても困るもの"って何?」
「さぁ……?」
アルマティーニはポスティーノの言っていた言葉に首をかしげながらキールに問うが、キールもキールで肩をすくめる。
「待ちなさい、容疑者。それに雑誌記者」
後方からロゼはジンに銃口を向けながら呼び止める。
「私も行くわ。行って取材監査と現行犯逮捕よ!それに、記者さんは約束忘れないでくださいね」
「心強いです!……って、約束ってなんですか?」
ロゼの参加にアルマティーニは両手を叩き、聞き覚えの無い単語に首を傾げた。
「約束は約束ですが??……て、あぁ!そう言えばまだ言ってなかったですね」
ロゼも小首を傾げたが、伝えてなかったと目を開いて、アルマティーニに近づき腕を取ると、ジンとキールの傍から離れ、コソコソ話をするように耳元に寄せる。
「取材が終わってからでいいので、このドロボウの逮捕に協力して頂きたいのです。もちろん、犯行を起こしたら……ですが」
そして、交わされなかった約束を伝えられ、アルマティーニは瞳孔を開く。
「え……?(ジンが逮捕されたらこっちが困る……。でも、これを飲まないと取材ができない、よね……?)」
「ムリでしたらブルーハワイの取材も記事にすることもお受けできませんが……?」
嫌な予感は的中し、アルマティーニの内心とは裏腹に、ロゼは気にせず笑顔で脅迫する。
「(やっぱり……。とりあえず、取材ができなければ、意味が無いんだけど……)分かりました。協力します」
「そうこなくっちゃ!そうと決まれば、行きましょ!皆!!いざ!幽霊船へ!!」
渋々だが約束を受けいれたアルマティーニに、ロゼは嬉しそうに手を叩き、そしてそのまま、ロゼは先行し始めた。
「ねぇ、ジン。今日は盗みを起こさないでね??」
「え?なんで??」
ズンズンと進んでいくロゼを見ながら、アルマティーニはジンにコソリと耳打ちし、ジンはキョトンとしながら小首を捻った。
「……捕まりたくないでしょ?」
今後の記事に支障が出そうだから。と出そうになった言葉を飲み込み、無難な言葉を掛ける。
「まあね。でも、それだと仕事にならないでしょ?俺もアンタも」
「まぁ、それはそうなんだけど……。(うーん……仕方ない。ここにいる人達は全員仕事人間だし、何事にも変えられない、か……。念の為、ロゼさんの動向に注意しなきゃ)」
「早くしないと置いて行っちゃうわよーー!?」
ジンの正論にぐうの音も出ないアルマティーニだったが、諦めと覚悟を心の中で決心した。
それと同時に、雲に隠れた月から淡く光る空に、遠くのロゼの声が響きーー、
「ハイハイ!今行きますよ!!マイハニー!、」
「さて、何があるのか楽しみだね」
「そうだね……」
キール、ジン、アルマティーニの順にそれぞれの思惑を持ちながら、幽霊船の目撃情報のある浜辺へ移動したのだった。