窮鼠と子猫は、仲が悪い《シリーズ》
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私が所属するのはハンター協会の猫武会《びょうぶかい》
基本任務は十二支んの、よくいえば補佐、悪くいえばパシリ。
組織としては活動しておらず、一人一人が十二支んに指名を受けて行動をする。
メンバーは元はハンターではない強者。
ネテロ会長が直々にヘッドハンティングし、普通ならばハンター試験を受けなければ取得できないハンターライセンスを、
猫武会に入ることで試験免除で受け取れる。
の、だが、
「今週もご指名ゼロかぁ…」
ほかの猫武会の人たちと面識があるわけではないから、平均してどれくらいの仕事量なのかは知らないが、
基本給+歩合制のこの仕事は、何もしなくても生きていくのに支障はないし、指名されなければ好き勝手出来る自由さだ。
文字通り自由気ままな猫のよう。
「けど、さすがに指名ゼロはきついなぁ…」
はっきり言って暇なのだ。
まぁ私の場合、さほど目立った仕事もこなしてないし、
頭は良くないし、
暗殺ができるわけでもないし、
噂によると指名に対しての給与は十二支んのポケットマネーらしいから、使えない人材は必要とされてないのだろう。
そう、私は使えない人材であることを自覚してる。
そもそも私が猫武会の所属になっているのも、全てはアイザックのおかげ…というかアイザックのせいだ。
あの人に拾われて、
あの人にしごかれて、
あの人の人外的な強さをこの身に刻まれて…
嫁入り前の体に消えない傷をいくつも残す外道。
なんであんな人が会長なのか…
「あれ、シアさん?あははまた指名なしで暇してるんですかー?」
でた、キラキラ眩しくうざったいパリストン。
私をしょっちゅう呼び出すのはこの男くらいだ。
何を思って私を指名するのかは知りたくない
(八割型嫌がらせで間違い無いのだけれど。)
「えーえー暇ですよー!」
アイザックも大概だが、この男はこの男でだいぶやばい人種だ。
イライラするし、それを面白がって喧嘩売ってくるし、関わりたくないのだけれど、
立場上指名されたら私達は従うしかない。
「でしたら、これからランチでもいかがですか?」
「…美味しいとこ?」
「この前お話ししたイタリアン。」
「いく。」
けどたまに、指名は特になしにご飯に誘ってくる理由は全くもって理解できない。
気がついたら伝票取られてお会計終わってるし…
「んー…おいひぃ…」
連れていかれる店はどこも素敵なお店で、
目の前で一緒にランチしてる男はうざったいパリストンだけど、
美味しいご飯を食べていると自然と幸せになる。
「それは良かった…ほら、口元にソース付いてますよ。」
「んっ、」
向かい側から長い腕が伸びてきて、器用に紙ナプキンで私の口元を拭った。
「ありがとう」
「いえ、どういたしまして。」
そういえば、パリストンは意外と私に世話を焼くことが多いような…
まぁ気まぐれだろうな。
腹の底では、子供みたいですね〜あはは
とか思ってそうだよね。
「子供みたいだなぁなんて思ってませんよ?」
「心読まないで。」
「ふふっ、すみません顔に書いてあったものでつい。」
ほらね?
「こちらお下げしてもよろしいですか?」
愛想のいいウェイトレスさんがテーブルに来て、ありがとうございます、と食器を下げてもらう。
「んー美味しかった〜」
満足!と思いつつ今日もいつのまにか消えている伝票を探す。
まぁないんだけど…
こういうときは大抵正面でニコニコ笑ってるパリストンが支払いを済ませていて、割り勘にはさせてもらえない。
「パリストン…」
「僕が誘ったんですから、僕が支払うのは当然でしょう?
それに僕シアさんの上司ですし!
よく紳士だと言われますが、女性に財布を出させるなんて男の風上にも置けませんから!」
にこにこにこにこ
一番イライラするのは、
自分よりも稼ぎの低い女の子っていう見下したような評価。
「パリスト「お待たせしました〜」
今日こそは言ってやろうともう一度名前を呼びかけたとき、さっきのウェイトレスが何やらプレートを持ってくる。
「こちら水曜日限定カップルプレートです。」
「…かっぷるぷれーと。」
「こちらナイフとフォークです。」
「あ、はい、」
「コーヒーのおかわりは?」
「えっと、ありがとうございます。」
「ごゆっくりどうぞ」
「はぁ…」
真っ白な楕円のお皿には、ワッフルとベリーと生クリームと、
余白にはチョコレートで「LOVE」それを囲むようにハート。
「……」
ニコニコニコニコ
「かっぷる?」
「そうですね」
「誰と誰が。」
「僕とシアさんしか居ませんねぇ」
「ほぅ…」
確かに平日にしては男女の客が多いとは感じて居たけれど、こんなサービスがあるとは思わなかった。
それもこの顔、多分知ってて連れてきたのかこの人…
ご丁寧にナイフとフォークは1組しかなくて、私はそれを手に取った。
「あれ、食べるんですか?勘違いされてお嫌なら返してもいいと思いますけど?」
「…出されたものは、残さないの。
もったいないでしょうが。」
今は食べられるものが選べるのだから、私はきちんと残さず食べたい。
それにせっかくサービスで作ってくれたのなら、食べなければ可哀想だ。
「ん、美味しい…」
一口食べて、また幸せな気持ちになる。
ここのお店はきっとどの料理もとても美味しいのだろう。
正面で、少しだけ驚いているやうな視線を投げてくるパリストンに、一口サイズに切ったワッフルを向ける。
「はい、あーん」
「えっ?」
「え?じゃないの、知っててきたんでしょここ。流石にがっつり食べて、食後にワッフル三枚も一人じゃ食べきれないし。」
パリストンが、きょとんとした顔をして止まる。
ソースが落ちる、と、もう一度あーんって催促したら、大人しく口を開けて食べる。
「…美味しい。」
「ここの料理本当に美味しい」
ニコニコと自分の分を切り分ける。
「シアさんは、嫌ではないんですか?
僕とカップル。」
口に運ぼうとした瞬間、真面目な顔でそう問われるものだから、一度フォークとナイフをお皿の上に戻した。
「別に。
こんな日に男女二人でランチしてるんだから、勘違いされて当たり前でしょーが…あー、もしかして嫌がると思って連れてきた?
まだまだ私のことわかってないなぁふくかいちょーさん」
「ふっ、ふふっ、そうですね!」
いつもの人を舐め切ったよな笑い方じゃなくて、本当に楽しそうにくすくすけたけた笑うパリストンを見ると、
十二支んでもハンター協会副会長でもなく、
目の前にいるのはパリストン=ヒルという男なんだな、と、当たり前のことだけど、
当たり前じゃない普通を目の当たりにしたような気分になる。
「はい、ほらもう一口。あーん。」
笑うパリストンにフォークを差し出せば、今度は大人しく口を開ける。
まぁ、たまにはこんなランチもいいだろう。
スキャンダルが怖いけど。
「それにしてもここ本当に美味しいですね。」
「うん、素敵なお店だねー」
「また一緒に来ませんか?」
「気まぐれだから、その日の気分次第で」
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