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花が舞う頃、君をさがしに

夢を見る。


『__、__、』


夢の中の私は誰かを呼んでいて、その人は私をなんと呼んでいただろうか。その人は笑っていた?それとも怒っていた?毎晩のように見るのに、表情だって全く思い出せない。もしかしたら、まだ見ぬ運命の人なのかもしれない・・・なんて、ちょっぴり乙女チックなことを考えてみたりして。

少し低く、落ち着いた声だったような気がする。物心ついた時から、友達どころか親の声より聞いていると思う。
よく、そういったもの・・・前世の記憶だとかは子どものうちだけで、徐々に薄れていくと聞くが、私はもう成人済みだ。世の言う『結婚適齢期』などとうに過ぎた年頃だ。友達に誘われた街コンなどに参加してみても、周りの本気をどこか遠くで眺めていた。料理も美味しくない。

(__の料理は美味しかったのに。)

何故か味の記憶もあった。名前も顔も思い出せないのに料理の記憶はあるなんて、食い意地が張っているなどと笑われるだろうか。
あの人は、私に会ったら気づいてくれるのだろうか。私は気づけるのだろうか。顔も名前も思い出せないのに。あの人だけが覚えていたら、それはそれで悔しいな。

無理矢理参加させられた街コンもそろそろお開きだ。

(あぁ、今日もつまらなかった。)

友達が楽しそうにしていたのが救いか。私は退屈な場でも取り繕うのが得意だ。友達からは「運命の人を待つのもいいけど、こっちから迎えに行きたいとは思わないの?」と言われるが、だって、「待っていてほしい」と夢の中のあの人は言ったから。なんだかそれに背いてはいけない気がして。


「あ、すみません。」
「いや、こちらこそ。前を見ていなかった。」


お互いの前方不注意でぶつかった相手は、少し低く、落ち着いた声だった。顔を上げてその人を見ると、竜胆色の髪の綺麗な男性が、こちらを見つめて悲しげに微笑んでいる。その顔に何故だか胸が締め付けられるような気持ちになる。


「衣服を汚してはいないかな?」
「大丈夫です、すみません。」


何故そんな表情をしているのか、私にはわからないけれど。でも、とても気遣いのできる人だ。


「君、名前は?」
「え?」


突然、人の波が襲ってきた。何故こんな場所で・・・あぁ、今日一番の人気のあった女性に群がっているのか。向こうでは友達が私を探している。


「ごめんなさい、行かないと。」
「そうだね。引き止めてすまなかった。」


悲しげな表情は癖なのかもしれない。気にはなったが、きっとこれっきりの人だ。深入りはしない方がいいだろう。正直、タイプではあったけど。顔も声も好きだったけど。


「さようなら。」
「またいつか。」


(またいつか、か。)

社交辞令を真に受ける歳ではないだろうに、またそのうち会えたらいいなと思えた相手は初めてだった。名前もなにも知らないのに。

どこか懐かしいその声は、暫く私の耳に残った。




20190825-20190827
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