向日葵畑の向こう
翌日早朝に顕現したのは江雪だった。「兄者、兄者」と待っていた膝丸が眉を下げて笑っているのが見えて、その向こうには小夜と宗三がいた。
(やっぱり寂しいのかな。)
そう思って依頼札をもう一つ使った。来たのは鶯丸だった。
「望んだ刀ではなかったか。」
「いいえ、望まぬ刀などありませんよ。」
しょんぼりと肩を落とす膝丸を見て、朝も早い時間から向日葵畑にはしゃいでいた短刀たちがなにやら話し合いをしている。主特権で入れてもらうと、昼餉を食べたら膝丸と向日葵畑でかくれんぼをしたいと言う。
「わー、楽しそう!」
「あるじさまもどうですか?」
「是非!」
「だめだよ。」
また歌仙だ。
「主には少し話があるからね。それからだ。」
「はい・・・。」
言っておくが、歌仙は近侍というわけではない。今の私の近侍は初期刀の加州だ。
「君、今度はれひれだって?」
「ごめんなさい。」
「君に扱えるのなら僕だって文句は言わないさ。でも、ててふやれひれなんて君では扱えないだろう?」
「いいじゃん、れひれ綺麗で。」
「きよみちゅ・・・!!」
流石、初期刀で近侍の加州はわかっている。テテフは可愛いし、レヒレは綺麗なんだ。
「おや?この子、少しレベルが上がってないかい?」
「光忠ー!」
「えっ、ごめん!」
「そもそも扱えない子なのに更にれべるの上がった子なんて、宝の持ち腐れというんだよ。」
「仰る通りで・・・。」
歌仙の小言は、厨番の歌仙が昼餉の支度をする時間まで続いた。それでも長谷部の小言よりは短いのだ。
「まったく、森殿や他の刀たちが甘やかすから。」
「歌仙くんだって甘やかしてるでしょ。」
「別に、」
「ボールを取り上げてしまえばいいのに、それをしない。」
「・・・彼女の楽しみだからね。」
厨で歌仙と光忠がそんな会話をしているとは知らず、私は膝丸の隣でイーブイを出してブラッシングしていた。
「その動物は?」
「ポケットモンスターっていうの。縮めてポケモンね。」
「ぽけもん、」
「沢山いるから、仲良くしてあげてくれると嬉しい。」
「そうか。・・・愛らしいな。」
膝丸がイーブイを撫でると、先刻まで短刀たちと水遊びをしていたオシャマリが帰ってきた。オシャマリも撫でてほしいのか、膝丸に擦り寄っていく。
「よかったら撫でてあげて。」
「あ、あぁ。」
例のかくれんぼの話はまだ内緒だ。それを伝えるのは短刀たちの仕事ということになってるから。
今日の昼餉はオムライスだった。洋食が苦手な歌仙だが、私に少し言いすぎたと思うとこうして私の好物のオムライスを作る。気づかない振りをするのが大人なので、私はそれに触れない。
「ネコさん、ですか?」
「虎のつもりだったんだけどな。」
「す、すみません!」
光忠が五虎退のオムライスにケチャップで描いた絵は、私にも猫に見えた。可愛い。私のはというと、花丸だ。これも歌仙作だろう。
「ひざまるさん!」
「な、なんだ?」
「膝丸さん、昼餉を食べたらボクたちと遊ぼうよ!」
「かくれんぼしましょう!」
小さい短刀たちに囲まれる膝丸を微笑ましく見ていると、隣に三日月が座った。
「膝丸は人気者だなぁ。」
「三日月もかくれんぼしたい?」
「俺も隠れ鬼は得意だ。」
「じゃあ三日月も混ぜてもらおう。乱、私と三日月も混ぜてくれる?」
「もっちろん!」
私と乱は日焼け止めを塗って、他の刀たちも麦わら帽子を被って向日葵畑へと繰り出した。
「今日も暑いから、少しでも具合が悪くなったらすぐに戻れよー!」
「はーい!」と薬研に大きな返事をして、最初の鬼は三日月に決まった。
「主。」
「膝丸?どうしたの?隠れないの?」
「いや。・・・俺は、この本丸に来てよかった。感謝する。」
歳を取ると涙脆くなっていけない。つい目頭が熱くなってしまった。
「それだけ、主に伝えたかった。」
「・・・ありがとう。」
───────我が本丸は平和だ。
親交のある他所の審神者が羨むほど平和。そんな本丸の審神者である私は、どんなに幸せ者か。
私も、あなたたちとこの本丸で出逢えてよかった。
20180801
(やっぱり寂しいのかな。)
そう思って依頼札をもう一つ使った。来たのは鶯丸だった。
「望んだ刀ではなかったか。」
「いいえ、望まぬ刀などありませんよ。」
しょんぼりと肩を落とす膝丸を見て、朝も早い時間から向日葵畑にはしゃいでいた短刀たちがなにやら話し合いをしている。主特権で入れてもらうと、昼餉を食べたら膝丸と向日葵畑でかくれんぼをしたいと言う。
「わー、楽しそう!」
「あるじさまもどうですか?」
「是非!」
「だめだよ。」
また歌仙だ。
「主には少し話があるからね。それからだ。」
「はい・・・。」
言っておくが、歌仙は近侍というわけではない。今の私の近侍は初期刀の加州だ。
「君、今度はれひれだって?」
「ごめんなさい。」
「君に扱えるのなら僕だって文句は言わないさ。でも、ててふやれひれなんて君では扱えないだろう?」
「いいじゃん、れひれ綺麗で。」
「きよみちゅ・・・!!」
流石、初期刀で近侍の加州はわかっている。テテフは可愛いし、レヒレは綺麗なんだ。
「おや?この子、少しレベルが上がってないかい?」
「光忠ー!」
「えっ、ごめん!」
「そもそも扱えない子なのに更にれべるの上がった子なんて、宝の持ち腐れというんだよ。」
「仰る通りで・・・。」
歌仙の小言は、厨番の歌仙が昼餉の支度をする時間まで続いた。それでも長谷部の小言よりは短いのだ。
「まったく、森殿や他の刀たちが甘やかすから。」
「歌仙くんだって甘やかしてるでしょ。」
「別に、」
「ボールを取り上げてしまえばいいのに、それをしない。」
「・・・彼女の楽しみだからね。」
厨で歌仙と光忠がそんな会話をしているとは知らず、私は膝丸の隣でイーブイを出してブラッシングしていた。
「その動物は?」
「ポケットモンスターっていうの。縮めてポケモンね。」
「ぽけもん、」
「沢山いるから、仲良くしてあげてくれると嬉しい。」
「そうか。・・・愛らしいな。」
膝丸がイーブイを撫でると、先刻まで短刀たちと水遊びをしていたオシャマリが帰ってきた。オシャマリも撫でてほしいのか、膝丸に擦り寄っていく。
「よかったら撫でてあげて。」
「あ、あぁ。」
例のかくれんぼの話はまだ内緒だ。それを伝えるのは短刀たちの仕事ということになってるから。
今日の昼餉はオムライスだった。洋食が苦手な歌仙だが、私に少し言いすぎたと思うとこうして私の好物のオムライスを作る。気づかない振りをするのが大人なので、私はそれに触れない。
「ネコさん、ですか?」
「虎のつもりだったんだけどな。」
「す、すみません!」
光忠が五虎退のオムライスにケチャップで描いた絵は、私にも猫に見えた。可愛い。私のはというと、花丸だ。これも歌仙作だろう。
「ひざまるさん!」
「な、なんだ?」
「膝丸さん、昼餉を食べたらボクたちと遊ぼうよ!」
「かくれんぼしましょう!」
小さい短刀たちに囲まれる膝丸を微笑ましく見ていると、隣に三日月が座った。
「膝丸は人気者だなぁ。」
「三日月もかくれんぼしたい?」
「俺も隠れ鬼は得意だ。」
「じゃあ三日月も混ぜてもらおう。乱、私と三日月も混ぜてくれる?」
「もっちろん!」
私と乱は日焼け止めを塗って、他の刀たちも麦わら帽子を被って向日葵畑へと繰り出した。
「今日も暑いから、少しでも具合が悪くなったらすぐに戻れよー!」
「はーい!」と薬研に大きな返事をして、最初の鬼は三日月に決まった。
「主。」
「膝丸?どうしたの?隠れないの?」
「いや。・・・俺は、この本丸に来てよかった。感謝する。」
歳を取ると涙脆くなっていけない。つい目頭が熱くなってしまった。
「それだけ、主に伝えたかった。」
「・・・ありがとう。」
───────我が本丸は平和だ。
親交のある他所の審神者が羨むほど平和。そんな本丸の審神者である私は、どんなに幸せ者か。
私も、あなたたちとこの本丸で出逢えてよかった。
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