向日葵畑の向こう
「忙しい、忙しい。・・・忙しい!」
「どうしたの歌仙くん。」
「明石国行が働かない!」
うちの主はどうも甘く、燭台切も苦笑を浮かべる。そんな主は今日は頭が痛いと朝から部屋に籠っていた。
「あるじさま、だいじょうぶでしょうか?」
「大丈夫じゃないよ。これからまたすごく忙しくなるみたいだし。」
「森殿に診てもらっていないのかい?」
「最近は森殿のとこにも行けてないみたいだよ。」
森殿とは、医者をしている主のいい人のことだ。ならばせめて、と、薬研藤四郎はどうかと訊けば、既に診てもらって薬を処方してもらったらしい。
「せっかくのおおみそかなのに。」
「大晦日だからこそ、主も忙しいんじゃないかな?」
他所の本丸の連中が、現世での合戦に出陣するらしい。そんな話を聞いた主は、大晦日は体調を万全にしないとと言っていたのにも関わらず、きっと持病の偏頭痛だろう。
「元日からも忙しいみたいなんだ。」
「元日から?」
「ほら、ぱん祭りが開催されるって。」
「あぁ、次は日本号を呼ぶんだったね。」
ぱん祭りとは、引換券と刀剣を交換する祭りのことだ。前回は確か髭切と交換していた。その際、次回は日本号をと言っていた気がする。
「あ、そうだ。明石国行を主の看病にあてたら?」
「明石国行を?」
「働かないから忙しいんでしょ?」
「それだけではないのだが・・・。」
「そうだね、彼に主を任せてみよう。主も彼を気に入っているし。」
果たしてあの明石国行が看病なんてできるのか。一応、来派の保護者だと言ってはいるが、任せていいものだろうか。
「歌仙って実は過保護だよね。」
「あるじさまだいすきですよね。」
「聞かれたら大変だ。」
そんな会話は僕の耳には入らず、主に出す粥を拵えた。卵を落とし掻き混ぜて、塩を少々入れた簡単なものだが、彼女は喜んで食べる。
「そういえばさ、うちの本丸はいつまで向日葵が咲いてるんだろうね。」
「確か歌仙くんのためにって菊もあったはずだけど。」
「僕のためを思うなら、体調管理くらいしてほしいね。」
「それはどうにもならないって歌仙も知ってるじゃん。」
「そうだけれども。」
主の持病は他にもあった。決して病弱というわけではないが、人間はあまりにも脆いものだ。
「じゃあ俺、明石国行探してくる。」
「明石国行なら先刻、他の来派に連れられて畑へ行ったぞ。」
「おっと長谷部くんのお出ましだ。」
「間の悪い。」
「明石国行になにか用があったのか?」
「主の看病させようと思って。」
「それなら鶯丸と三日月宗近が向かった。」
「それ、看病する気ある?」
出来たての湯気の立つ熱い粥を盆に乗せ、主の茶碗とれんげを探した。茶碗はすぐに見つかったが、れんげは何処だろうか。
「どうしたんだい?」
「れんげが見つからなくてね。」
「・・・歌仙、疲れてる?」
「その右手にあるものはなんだ?」
自分の右手を見ると、れんげが握られていた。こんなこともあるのかと思ったが、「かせんさんもあるじさんがしんぱいなんですね!」と今剣に言われ、この苛立ちが心配から来るものなのだとやっと気づいた。
「歌仙・・・。」
「・・・笑いたければ笑えばいいだろう。」
「歌仙くん、ここはいいから主の看病頼んだよ。」
「適任だな。」
「俺はまだ事務仕事があるから」と言って、長谷部は早々に去っていった。
「三日月と鶯丸には別の仕事当てなきゃだね。」
「・・・仕方ないな。」
皆に押し付けられたのだと言えば、主は笑うだろうか。
20181231
「どうしたの歌仙くん。」
「明石国行が働かない!」
うちの主はどうも甘く、燭台切も苦笑を浮かべる。そんな主は今日は頭が痛いと朝から部屋に籠っていた。
「あるじさま、だいじょうぶでしょうか?」
「大丈夫じゃないよ。これからまたすごく忙しくなるみたいだし。」
「森殿に診てもらっていないのかい?」
「最近は森殿のとこにも行けてないみたいだよ。」
森殿とは、医者をしている主のいい人のことだ。ならばせめて、と、薬研藤四郎はどうかと訊けば、既に診てもらって薬を処方してもらったらしい。
「せっかくのおおみそかなのに。」
「大晦日だからこそ、主も忙しいんじゃないかな?」
他所の本丸の連中が、現世での合戦に出陣するらしい。そんな話を聞いた主は、大晦日は体調を万全にしないとと言っていたのにも関わらず、きっと持病の偏頭痛だろう。
「元日からも忙しいみたいなんだ。」
「元日から?」
「ほら、ぱん祭りが開催されるって。」
「あぁ、次は日本号を呼ぶんだったね。」
ぱん祭りとは、引換券と刀剣を交換する祭りのことだ。前回は確か髭切と交換していた。その際、次回は日本号をと言っていた気がする。
「あ、そうだ。明石国行を主の看病にあてたら?」
「明石国行を?」
「働かないから忙しいんでしょ?」
「それだけではないのだが・・・。」
「そうだね、彼に主を任せてみよう。主も彼を気に入っているし。」
果たしてあの明石国行が看病なんてできるのか。一応、来派の保護者だと言ってはいるが、任せていいものだろうか。
「歌仙って実は過保護だよね。」
「あるじさまだいすきですよね。」
「聞かれたら大変だ。」
そんな会話は僕の耳には入らず、主に出す粥を拵えた。卵を落とし掻き混ぜて、塩を少々入れた簡単なものだが、彼女は喜んで食べる。
「そういえばさ、うちの本丸はいつまで向日葵が咲いてるんだろうね。」
「確か歌仙くんのためにって菊もあったはずだけど。」
「僕のためを思うなら、体調管理くらいしてほしいね。」
「それはどうにもならないって歌仙も知ってるじゃん。」
「そうだけれども。」
主の持病は他にもあった。決して病弱というわけではないが、人間はあまりにも脆いものだ。
「じゃあ俺、明石国行探してくる。」
「明石国行なら先刻、他の来派に連れられて畑へ行ったぞ。」
「おっと長谷部くんのお出ましだ。」
「間の悪い。」
「明石国行になにか用があったのか?」
「主の看病させようと思って。」
「それなら鶯丸と三日月宗近が向かった。」
「それ、看病する気ある?」
出来たての湯気の立つ熱い粥を盆に乗せ、主の茶碗とれんげを探した。茶碗はすぐに見つかったが、れんげは何処だろうか。
「どうしたんだい?」
「れんげが見つからなくてね。」
「・・・歌仙、疲れてる?」
「その右手にあるものはなんだ?」
自分の右手を見ると、れんげが握られていた。こんなこともあるのかと思ったが、「かせんさんもあるじさんがしんぱいなんですね!」と今剣に言われ、この苛立ちが心配から来るものなのだとやっと気づいた。
「歌仙・・・。」
「・・・笑いたければ笑えばいいだろう。」
「歌仙くん、ここはいいから主の看病頼んだよ。」
「適任だな。」
「俺はまだ事務仕事があるから」と言って、長谷部は早々に去っていった。
「三日月と鶯丸には別の仕事当てなきゃだね。」
「・・・仕方ないな。」
皆に押し付けられたのだと言えば、主は笑うだろうか。
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