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向日葵畑の向こう

「安定ー?いないのー?」


その日、非番の俺は安定を探していた。稽古場にも行ったし、厨にも行った。厨には珍しく歌仙や燭台切の姿はなく、次郎太刀がなにかを作っていた。きっと酒のあてにでもするのだろう。
広い庭に出ると、甘い香りがした。向日葵の香りではない、もっと甘ったるい香りだ。


「なんだ?」


茂みをかき分けると、なんだっけ。主のぽけもんがいた。


「お前、なんて名前だっけ?」
「カプゥフフゥ」
「かぷ、かぷ・・・ててふ?」
「フフゥ!」
「かぷ・ててふ、か。」


そうだ、確か茹だるような暑さの中で主が歌仙に叱られていた。まだ扱えないのに二匹も引き寄せるなんて、って。


「お前、出てていいの?」


名前を呼ばれたそいつは、嬉しそうに俺の周りをひらひらと飛び回る。主のれべるではまだ扱えないから、主はこいつをぼーるから出さないようにしているのを知っていた。だが、実際こいつは出ている。


「カプゥ」
「んー、なに言ってるかはわからないんだよなぁ。」


住む世界が違いすぎる。こいつの言葉は、というか、こいつらぽけもんの言葉は理解できない。


「まぁいいや、おいで。」


主に教わったようにそっと手を伸ばすと、名前を呼ばれたことで敵ではないと思ったのか擦り寄ってきた。指で顎の辺りを撫でてやると嬉しそうだ。

(そういえばこいつ、主が守り神とか言ってたような?)

そういうぽけもんは何匹かいるらしい。主も持ってるし、でもその殆どが扱えないからと大事にぼーるを撫でているのを知っている。だが、歌仙から聞いた話では、扱えはしないがぼーるから出してやるくらいなら大丈夫なのだそうだ。

(ま、主は使いたがりだしな。)

出したら使いたくなるのだろう。だから最初から出さない。


「なぁ、お前は安定知ってる?」
「フフ?」


こちらからは言葉はわからないが、こいつはわかるようだ。なにやら考える素振りをしたかと思えば、ぐるりと宙を舞った。


「カプゥフフ!」
「あっ、おい?!」


突然俺から離れて向日葵と向日葵の間を進んでいく。こちらの様子を窺いながら行くため、俺を導いているつもりなのかもしれない。


「待てよ、ててふ!」
「フフゥ!フフゥ!」


名前を呼ばれるとやはり嬉しそうだ。あとで主に教えてあげよう。ぽけもんは皆、主に呼ばれたがっているって。だからたまには出してやってくれって。
暫くついていくと、よく短刀たちが鬼ごっこをしている少し拓けた場所に出た。


「待てってば!」
「?安定?」
「ててふ!・・・ってあれ?清光?」


そうだった。うちには二匹のててふがいるのだ。ててふは二匹揃って俺たちの周りを舞っている。


「探したぞ、安定。」
「僕だって清光を探してたよ。」
「カプゥ」
「フフゥ」


主が言っていた。ててふはえすぱーたいぷなんだって。よくわからないけど、超能力?みたいなものがあるらしい。(超能力自体もよくわからないけど)


「引き寄せられたのかな?」
「かもね。」
「で?清光はなんで僕を探してたの?」
「安定こそ、なんで俺を探してたんだよ?」


どちらからともなく噴き出すと、向日葵畑の向こうで主の声がする。あと次郎太刀。


「なーにー?」
「行って直接訊いた方が早いよ。」
「だな。」


ててふはいつの間にか主の元へ飛んでいて、俺たちはそれを追いかける。主の驚いたような声と、それを笑う次郎太刀の大きな笑い声が聞こえた。

(やっぱり勝手に出ちゃったんだな。)

安定もそう思ったみたいで、顔を合わせて笑ってしまった。
俺の立場はずっと変わらない。主の初期刀で近侍だ。歌仙や長谷部に小言を言われれば主は俺に愚痴るし、ずっと待っていた明石国行が顕現すれば俺を抱き締めて喜んでくれた。そんな俺が嬉しかったのは、安定が顕現した時。主は歌仙の小言も聞かずにバタバタと駆け回って俺を探し出し、とても嬉しそうな顔で後ろに控えていた安定を呼び寄せた。・・・嬉しかった。


「なにボーッとしてるの?主たちが待ってるよ。」
「わかってるよ。」


次郎太刀が作っていたのは、十五夜に供える月見団子だった。今日は歌仙や燭台切は遠征に行っているからと、次郎太刀が厨番をしていたらしい。


「安定、清光、テテフたちの相手してくれてありがとうね。とても喜んでる。」
「どうってことないよ。」
「たまにはぼーるから出してあげなよ。」
「そうだね・・・ボールが窮屈なのかな。」


(あとはちゃんと名前を呼んであげて。俺たちが顕現した時みたいに、愛情を込めて。)

流石に照れ臭くて言えなかったけど。




20180914
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