猫は極彩色の夢を見るか
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事務所で一人になって煙草に手を伸ばす瞬間が、いつも笑えてしまう。
オネーサンたちの前では可愛らしい甘い煙草を吸っているが、一人になるとどこか品のいい箱を出す。吸い方が下手なやつには味がわからないような銘柄だ。これに関しては馬鹿みたいにパカパカ吸わず、クールスモーキングを貫く。この吸い方がこの煙草の味がわかる吸い方だ。
「今日は声、かけられなかったな。」
俺と話す時と違い、楽しそうに話していた。奥歯で飴を噛み砕きそうになったが、幻太郎がいたから抑えた。あのオネーサン・・・卯ノ花雪華のこととなると、俺は平常心でいられない。いっそ攫って傍に置いておきたいが、それこそ人形のようになってしまうだろう。
「・・・それもいいか。」
人形のように表情を失った彼女のために、人形のような服を着せる。・・・あぁ、でもお喋りできないのは嫌だ。
スマホを引き寄せて鍵のついたフォルダを開くと、彼女の写真ばかりだ。偶然の再会から何度も通って、こっそり撮ったものばかり。こんな風に閉じ込めたところで俺に笑いかけてくれることはない。
口に広がるミルクのような甘さ。俺がこの煙草に手を出したのも、彼女と初めて出会った頃だった。当時は大して美味くもないくせにやけに高いと思ったが、吸い方を覚えてしまえばなかなか美味かった。女の味は未だに美味いとは思えない。面倒臭さも感じるが、まぁ隠れ蓑にはよかった。今のこの世の中、女に媚びるのは一つの手段だ。その中で卯ノ花雪華という女には若干崇拝のような感情を持っている。それがこの執着の正体だろう。崇拝だから、山田二郎とのツーショットを見ても心は穏やかだ。
「・・・んなわけねーだろ。」
胸の内でドス黒いものが蠢く。俺にも笑えよとか、そんな不審なものを見るような目で見るなとか。こんな気持ちは知らないし、知りたくもなかった。声が聴きたい、お喋りしたい、ボクにも笑いかけて。そんなことを考えながら乾いた笑いが出る。スマホに登録した卯ノ花雪華の名前。それを眺めるだけでよかったのに、ここ最近は声を聴きたくて仕方ない。なのに通話をタップするのが何故か怖かった。後ろで山田二郎の声が聞こえたら・・・?俺は平常心でいられないのだ、あの女のことになると。ツーショットを見て心が乱れるくらい執着している。
「面白くねーな。」
大分短くなった煙草を灰皿に押し付けて『S』のファイルを開く。この世界の何よりもキラキラと輝いて見える。これは大事なもの、俺の宝物。卯ノ花雪華の痕跡を撫でていると、スマホが震えた。今は俺の癒しの時間だというのに誰だ?と表示を見ると、『卯ノ花雪華』の名前。丁寧にファイルを置いて声を整えて電話に出ると、少し低い声で「こんばんは」と聞こえた。ずっと聴きたかった落ち着いた声だ。
「やぁやぁ、オネーサン。待ってたよ?」
『すみません、本業もありますので。』
「そんな緊張しないでよー!もっと気楽に話して!」
(山田二郎と話すように、もっと優しい声を聴かせて。)
油断すると声に出してしまいそうな願望。きっと電話の向こうのオネーサンは優しいから困ってしまう。今、俺は彼女の夢を利用して自分の欲を満たしているのだ。
『これはビジネスですので。』
「ッ、そうだね。ビジネスだったね。」
彼女が俺と話してくれるのはビジネス。わかってはいたが、これはもう一本、今度は馬鹿みたいにパカパカと吸わないとやってられない。
「で?描けたの?」
『はい、あれから色々練りましたけどなんとか。』
「ふんふん。見たいなぁ、今すぐ。」
『今すぐ!?』
「うん、オネーサンに会いたいし!お喋りしたい!」
『・・・どこに行けばいいですか?』
「ボクの事務所わかる?」
『まぁ、名刺に書いてありましたし。』
「タクシー代は出すからさ、今から来てよ。」
『・・・私はあなたの周りの女性たちのように楽しいお喋りはできませんよ?』
「えー?今お喋りしてて楽しいよー?」
『・・・そうですか。』
品のいい煙草の箱は引出しに隠して、オネーサンは珈琲派かな、紅茶派かな、なんて、まるで初めて恋人が遊びに来るみたいだなとまた笑ってしまった。
そうか、俺は彼女を、─────
20190331
オネーサンたちの前では可愛らしい甘い煙草を吸っているが、一人になるとどこか品のいい箱を出す。吸い方が下手なやつには味がわからないような銘柄だ。これに関しては馬鹿みたいにパカパカ吸わず、クールスモーキングを貫く。この吸い方がこの煙草の味がわかる吸い方だ。
「今日は声、かけられなかったな。」
俺と話す時と違い、楽しそうに話していた。奥歯で飴を噛み砕きそうになったが、幻太郎がいたから抑えた。あのオネーサン・・・卯ノ花雪華のこととなると、俺は平常心でいられない。いっそ攫って傍に置いておきたいが、それこそ人形のようになってしまうだろう。
「・・・それもいいか。」
人形のように表情を失った彼女のために、人形のような服を着せる。・・・あぁ、でもお喋りできないのは嫌だ。
スマホを引き寄せて鍵のついたフォルダを開くと、彼女の写真ばかりだ。偶然の再会から何度も通って、こっそり撮ったものばかり。こんな風に閉じ込めたところで俺に笑いかけてくれることはない。
口に広がるミルクのような甘さ。俺がこの煙草に手を出したのも、彼女と初めて出会った頃だった。当時は大して美味くもないくせにやけに高いと思ったが、吸い方を覚えてしまえばなかなか美味かった。女の味は未だに美味いとは思えない。面倒臭さも感じるが、まぁ隠れ蓑にはよかった。今のこの世の中、女に媚びるのは一つの手段だ。その中で卯ノ花雪華という女には若干崇拝のような感情を持っている。それがこの執着の正体だろう。崇拝だから、山田二郎とのツーショットを見ても心は穏やかだ。
「・・・んなわけねーだろ。」
胸の内でドス黒いものが蠢く。俺にも笑えよとか、そんな不審なものを見るような目で見るなとか。こんな気持ちは知らないし、知りたくもなかった。声が聴きたい、お喋りしたい、ボクにも笑いかけて。そんなことを考えながら乾いた笑いが出る。スマホに登録した卯ノ花雪華の名前。それを眺めるだけでよかったのに、ここ最近は声を聴きたくて仕方ない。なのに通話をタップするのが何故か怖かった。後ろで山田二郎の声が聞こえたら・・・?俺は平常心でいられないのだ、あの女のことになると。ツーショットを見て心が乱れるくらい執着している。
「面白くねーな。」
大分短くなった煙草を灰皿に押し付けて『S』のファイルを開く。この世界の何よりもキラキラと輝いて見える。これは大事なもの、俺の宝物。卯ノ花雪華の痕跡を撫でていると、スマホが震えた。今は俺の癒しの時間だというのに誰だ?と表示を見ると、『卯ノ花雪華』の名前。丁寧にファイルを置いて声を整えて電話に出ると、少し低い声で「こんばんは」と聞こえた。ずっと聴きたかった落ち着いた声だ。
「やぁやぁ、オネーサン。待ってたよ?」
『すみません、本業もありますので。』
「そんな緊張しないでよー!もっと気楽に話して!」
(山田二郎と話すように、もっと優しい声を聴かせて。)
油断すると声に出してしまいそうな願望。きっと電話の向こうのオネーサンは優しいから困ってしまう。今、俺は彼女の夢を利用して自分の欲を満たしているのだ。
『これはビジネスですので。』
「ッ、そうだね。ビジネスだったね。」
彼女が俺と話してくれるのはビジネス。わかってはいたが、これはもう一本、今度は馬鹿みたいにパカパカと吸わないとやってられない。
「で?描けたの?」
『はい、あれから色々練りましたけどなんとか。』
「ふんふん。見たいなぁ、今すぐ。」
『今すぐ!?』
「うん、オネーサンに会いたいし!お喋りしたい!」
『・・・どこに行けばいいですか?』
「ボクの事務所わかる?」
『まぁ、名刺に書いてありましたし。』
「タクシー代は出すからさ、今から来てよ。」
『・・・私はあなたの周りの女性たちのように楽しいお喋りはできませんよ?』
「えー?今お喋りしてて楽しいよー?」
『・・・そうですか。』
品のいい煙草の箱は引出しに隠して、オネーサンは珈琲派かな、紅茶派かな、なんて、まるで初めて恋人が遊びに来るみたいだなとまた笑ってしまった。
そうか、俺は彼女を、─────
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