或る詩人の恋人は審神者である。
「誉に黙ってたことある。」
申し訳なさそうに目を伏せて、恋人がそう伝えてきた。年頃も考え、実は過去に結婚していて子どももいるが、相手の元にいるのだ、とか、そういうことかもしれない。そうだとすれば、その子どもに会いたくなったとか、引き取りたいだとか。それならば私も覚悟を決めねばならない。
「なにかね?」
努めて冷静にそう言うと、伏せていた顔を上げて「私、実は審神者なの」と言った。
審神者、聞いたことはある。こんなに身近にいるとは思わなかったが。
「審神者。」
「でね、会ってほしい人がいて。」
彼女の手には鈴が握られていた。それをチリンと鳴らすと、ふわっと花弁が舞う。桜だろうか、薄紅色をした綺麗な花弁だ。
「私の初期刀で、近侍の加州清光よ。」
「加州、清光。」
新撰組、沖田総司の愛刀の名だということは知識として頭にあったが、このような姿をしていたのか。にっこりと笑って「よろしくね、誉サン」と言うが、その瞳は私を探るような動きをしている。
「清光、失礼なことしないの。」
「はーい。」
彼女もそれに気づき止めはしたが、普段よりも彼女の表情は固い。
「ワタシは気にしていないよ。」
「ほら、誉サンも気にしてないって。」
「清光。」
「・・・はーい。」
柔らかく私を呼ぶ声よりも、はっきりとした主人のような従わせる声だ。以前から彼女には謎が多く、小出しにして色々と教えてくれはしたが、審神者という姿もまた秘密のうちの一つだったのだろう。
「彼だけかね?」
「もう一振り、心配させたくない刀がいるの。」
「ふむ。紹介してくれるのだね?」
「できれば紹介したくない。」
「どうしてだい?」
「だって、」
再び風が吹き花弁が舞うと、中から菫色をした髪の青年が現れた。
「だって、二人して私の体調管理を始めるでしょ?」
「君が自分の身体を大事にしないからだろう?僕だってそんな面倒なことはしたくないよ。」
私の姿を確認すると、「申し訳ないね」と言って一礼した。先程の加州くんとは違い、私を見る目が柔らかい。
「貴殿も彼女には手を焼いているとお見受けした。うちの主は自分を大切にしてくれなくてね。」
「それはワタシも思っていたよ。ワタシがどんなに大事にしたって、自分が大事にしなくては意味がないからね。」
「そうやって私を追い込むからぁ。」
「主ってほんと周りに心配かけすぎだよね。」
「清光まで・・・、」
先程までの固さは消え、普段の柔らかさが戻る。そうか、彼女は彼を私に紹介することに緊張していたのか。
「うちの主は無茶をするが、とても愛情深い人だ。どうか、主を捨てないでやっていただきたい。」
「わかっているよ。ワタシも捨てられないように努力しよう。」
「主に捨てられる?冗談言わないでよね。主は捨てられない人なんだからさ。」
「それは私の部屋の話かー!」
「あっはは!短刀たちが作った泥団子ですら捨てられないんだから。」
「捨てられるわけないじゃん!」
彼女と加州くんのじゃれあいを見ながら、そういえばこの彼の名を聞いていないことに気づいた。彼を見ると、「あぁ」と言って、
「僕は歌仙兼定、雅を好む文系だからあまり暴力的なことは苦手でね。」
と自己紹介をした。
「雅を好むとは、気が合いそうだね。」
「貴殿は詩人だと主から聞いているよ。是非一節聞かせていただきたい。」
「今日は時間がないよ、歌仙。そろそろ遠征部隊が帰ってくる時間だ。」
「おっと、そうかい?ではまた今度。」
「あぁ、また今度。」
彼らは再び花弁と共に去っていった。随分と賑やかだったが、彼らのように彼女を慕う者が他にも沢山いるのだろう。
「・・・どうだった?」
「どう、とは?」
「嫌な思いしなかった?特に清光はあんなだったし。」
「キミを思ってだろう?嫌な思いなどしないよ。」
「よかった。」
そう。彼らは彼女に仕える者たちだ。私が彼女の害だと思えば引き裂いただろう。彼女が心配することなど、なにもないのに。
「それよりキミ、無理して貧血で倒れたりしないようにね。月の物が来ていると言っていただろう?」
「誉の前では倒れたことないんだけどなぁ。」
「倒れたことがあったような口振りだね?」
「昔の話!」
「くれぐれも無理はしないでくれたまえよ。」
ベッドまで手を引くと大人しくついてくる。つまり、今は少しつらいのだろう。
「温かくして寝ていなさい。」
「はーい。」
また近いうち他の彼らと会える日も来るかもしれないと思うと、楽しみが増えた。彼女は本当に飽きさせない。
20190202
申し訳なさそうに目を伏せて、恋人がそう伝えてきた。年頃も考え、実は過去に結婚していて子どももいるが、相手の元にいるのだ、とか、そういうことかもしれない。そうだとすれば、その子どもに会いたくなったとか、引き取りたいだとか。それならば私も覚悟を決めねばならない。
「なにかね?」
努めて冷静にそう言うと、伏せていた顔を上げて「私、実は審神者なの」と言った。
審神者、聞いたことはある。こんなに身近にいるとは思わなかったが。
「審神者。」
「でね、会ってほしい人がいて。」
彼女の手には鈴が握られていた。それをチリンと鳴らすと、ふわっと花弁が舞う。桜だろうか、薄紅色をした綺麗な花弁だ。
「私の初期刀で、近侍の加州清光よ。」
「加州、清光。」
新撰組、沖田総司の愛刀の名だということは知識として頭にあったが、このような姿をしていたのか。にっこりと笑って「よろしくね、誉サン」と言うが、その瞳は私を探るような動きをしている。
「清光、失礼なことしないの。」
「はーい。」
彼女もそれに気づき止めはしたが、普段よりも彼女の表情は固い。
「ワタシは気にしていないよ。」
「ほら、誉サンも気にしてないって。」
「清光。」
「・・・はーい。」
柔らかく私を呼ぶ声よりも、はっきりとした主人のような従わせる声だ。以前から彼女には謎が多く、小出しにして色々と教えてくれはしたが、審神者という姿もまた秘密のうちの一つだったのだろう。
「彼だけかね?」
「もう一振り、心配させたくない刀がいるの。」
「ふむ。紹介してくれるのだね?」
「できれば紹介したくない。」
「どうしてだい?」
「だって、」
再び風が吹き花弁が舞うと、中から菫色をした髪の青年が現れた。
「だって、二人して私の体調管理を始めるでしょ?」
「君が自分の身体を大事にしないからだろう?僕だってそんな面倒なことはしたくないよ。」
私の姿を確認すると、「申し訳ないね」と言って一礼した。先程の加州くんとは違い、私を見る目が柔らかい。
「貴殿も彼女には手を焼いているとお見受けした。うちの主は自分を大切にしてくれなくてね。」
「それはワタシも思っていたよ。ワタシがどんなに大事にしたって、自分が大事にしなくては意味がないからね。」
「そうやって私を追い込むからぁ。」
「主ってほんと周りに心配かけすぎだよね。」
「清光まで・・・、」
先程までの固さは消え、普段の柔らかさが戻る。そうか、彼女は彼を私に紹介することに緊張していたのか。
「うちの主は無茶をするが、とても愛情深い人だ。どうか、主を捨てないでやっていただきたい。」
「わかっているよ。ワタシも捨てられないように努力しよう。」
「主に捨てられる?冗談言わないでよね。主は捨てられない人なんだからさ。」
「それは私の部屋の話かー!」
「あっはは!短刀たちが作った泥団子ですら捨てられないんだから。」
「捨てられるわけないじゃん!」
彼女と加州くんのじゃれあいを見ながら、そういえばこの彼の名を聞いていないことに気づいた。彼を見ると、「あぁ」と言って、
「僕は歌仙兼定、雅を好む文系だからあまり暴力的なことは苦手でね。」
と自己紹介をした。
「雅を好むとは、気が合いそうだね。」
「貴殿は詩人だと主から聞いているよ。是非一節聞かせていただきたい。」
「今日は時間がないよ、歌仙。そろそろ遠征部隊が帰ってくる時間だ。」
「おっと、そうかい?ではまた今度。」
「あぁ、また今度。」
彼らは再び花弁と共に去っていった。随分と賑やかだったが、彼らのように彼女を慕う者が他にも沢山いるのだろう。
「・・・どうだった?」
「どう、とは?」
「嫌な思いしなかった?特に清光はあんなだったし。」
「キミを思ってだろう?嫌な思いなどしないよ。」
「よかった。」
そう。彼らは彼女に仕える者たちだ。私が彼女の害だと思えば引き裂いただろう。彼女が心配することなど、なにもないのに。
「それよりキミ、無理して貧血で倒れたりしないようにね。月の物が来ていると言っていただろう?」
「誉の前では倒れたことないんだけどなぁ。」
「倒れたことがあったような口振りだね?」
「昔の話!」
「くれぐれも無理はしないでくれたまえよ。」
ベッドまで手を引くと大人しくついてくる。つまり、今は少しつらいのだろう。
「温かくして寝ていなさい。」
「はーい。」
また近いうち他の彼らと会える日も来るかもしれないと思うと、楽しみが増えた。彼女は本当に飽きさせない。
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