「キミに告げたいことがあるのだが。」


それは、先日私が過去の恋愛経験を話した後のことだ。まだ彼女への想いのやり所に悩み、伝えていない言葉があった。初心なところを見せてくれる彼女はどんな反応をするだろうか？そんな思いでいっぱいだった。


「なんですか？」
「キミへ、ちゃんとワタシの想いを告げたくなったのだよ。」


彼女もそれなりに恋愛経験のある女性だろう。初心だとは言っても、生娘のような触れれば赤くなるというようなところは見られない。


「想い、ですか？」
「ワタシがキミをどう思っているか。ワタシにはキミの気持ちはわからないが、自分の気持ちくらいは多少わかるよ。」
「はぁ。」
「だからだね、」

愛している、と伝えてもいいかい？


そう言うと、途端に彼女の頬に紅が差す。いつものように軽く笑って流されるかとも思ったが、今日の彼女は少女のように赤くなってくれた。


「ワタシは、キミを、」
「待って。」
「むう？なにかね？不満だったかね？」
「不満というか、それ、私が言ってもいいですか？」
「キミが？」
「私も言いたいです。」
「そ、そうかね。」


彼女の好きにさせるのもいいか。女性に言わせるなんて紳士的ではないが、耳の縁まで赤くしている彼女を眺めているのも幸せな時間だった。
口を噤んで数分。無言の時間が流れる。正確には、彼女の躊躇うかのような言葉も聞こえるので無言ではないが。
こんな時間の愛しさも相俟って、つい「愛しているよ」と告げると、瞳に涙を浮かべた彼女の口からも「アイシテル」と告げられた。


「なんで言っちゃうんですか！」
「キミがあまりにも可愛らしくて、つい口を出てしまった。」
「私が言うって言ったのに！」
「すまなかったね。」
「もう！」


勿論、謝罪の言葉など思ってもいないことだ。彼女がぽかぽかと私を弱々しく叩いてくるのが可愛らしくて、愛おしくて、その手を捕まえて「そんなに機嫌を悪くするのなら、もう一度言ってはくれないかい？」と言うと、彼女は短く「ばか」と言った。


「ワタシを馬鹿だなんてよく言えたものだね。」
「すごく勇気がいるんですからね！『好き』とは違うんです！『好き』は誰にだって言えるけど、あ、あい、・・・もう！」


少々理不尽に怒られている気もするが、彼女の好きなようにさせよう。
彼女を知った時、彼女のまた違った一面を目の当たりにするのだが、今は初心を装った彼女の初々しい姿をこの天才の脳裏に焼き付けた。

まだ私は彼女の本質を捉えていない。




20181124