MANKAIカンパニーとの出会い、運命の出会い
夢より素敵な
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「もう会えない。」
彼女とのデートの回数も両の手を過ぎようとした頃にそう告げると、彼女は苦しそうな悲しそうな表情を作った。彼女を解放しなくては、私の胸の内にあるのはそれだけ。彼女には幸せになってほしい。こんな『壊れたサイボーグ』ではなく、もっと素晴らしい人間がいるはずだ。彼女の未来を守るためだ。自分の気持ちなどには蓋をして、それだけを願った。
「稽古が忙しいのですか?」
「そうではない。」
「あ、執筆が忙しい?」
「いや、」
「じゃあ、」
「・・・深雪さん。」
彼女は逃れるかのように言葉を紡ぐ。落ち着いた少し低い声が、余所行きの高い声に変わっていた。彼女はわかっているのだろう。彼女の気持ちはわからずとも、彼女のそんな変化には気づいてしまった。
「過去の話をしよう。」
目を伏せる彼女にそう言うと、小さく静かに頷いた。それを見て私は自分の過去の話を始めた。
私には恋人がいた。
愛しく思っていたと思う。多分、きっと。今ではもう思い出の中の出来事だ。
愛しかった彼女は、次第に笑顔を失っていった。あんなにも愛しい笑顔だったのに。ころころ変わるその表情が好きだった。会話中に溜息を吐くことも増えた。愚かな私は、自分の罪に気づくことはなかった。
『・・・もういいわ。』
『?どうしたのかね?』
『あなたは私の気持ちをわかってくれない。』
『気持ち?』
『他人の気持ちがわからないなんて、あなたは欠陥品よ。壊れたサイボーグなんだわ。』
そう言う彼女の泣き顔を見ても、言葉の意味が理解できずに私の心は動かなかった。ただ、彼女を宥めなくては。そう思い、涙の伝う頬に指を這わせても振り払われてしまった。
『今、あなたはなにを考えているの?』
『キミか泣き止んでくれないかと。』
『だから!そういうところが!』
私のその言葉は、彼女が望んだものではなかったのだろう。だが、私には彼女がなにを、どんな言葉を求めていたのかわからなかった。
感情的になった彼女の柔らかい手のひらに頬を打たれ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。後を追えばよかったのか?今ではもう遅い。その時の私はそんなことも思いつかなかったのだから。
以来、他人と距離を置くようになった。元々、私の天才的な思考についてこられる者などなく、また元に戻っただけだと思っていた。あの時、彼女が言った『壊れたサイボーグ』という言葉だけ脳裏に焼きついて離れなかった。
そこまで話すと、目の前の彼女の肩が震えていることに気づいた。泣かせてしまっただろうか?だが、突き放すには好都合だと思った。なのに、そんな彼女はこちらの予想に反して笑っていた。
「・・・なにを笑っているのかね?」
「だって、『壊れたサイボーグ』だなんて語彙力がすごすぎて。」
記憶の中の彼女と同じように涙を流してはいるが、どうやら意味は真逆のようだ。そんな彼女が理解できず、恐ろしさすら感じた。
「言っときますけどね、誉さん。他人の気持ちを正確に理解できる人間なんていないんですよ。」
今、彼女の頬を伝う涙を拭っても、もう独りに戻ることはないのだろうか。
「そっちの方がサイボーグよ。」
考えるより先に、体が動いていた。彼女の冷たくなった頬を伝うのは、温かい涙だった。
「・・・サイボーグはそんなことしません。」
「?」
「サイボーグは、他人の気持ちを数値として理解することはできるでしょう。でも、」
不意に手首を掴まれた。決して強い力ではないが、動けなかった。
「こうして涙を拭うという行動はしないでしょう。」
「ッ、」
あの時動かなかった心が、今は動いているのがわかる。彼女の言葉に動かされたのか、彼女はなんでこんなに優しいのだろうか。こんな、『壊れたサイボーグ』なんかに、人間らしさをくれるのだろうか。
「あなたが他人の気持ちが理解できないなら、私が傍にいてフォローします。あなたがおかしなことを口走ったら私が力づくであなたの口を塞ぎます。」
「何故、」
「だって、あなたは他人の気持ちは理解できなくても、理解しようと寄り添う努力をしているでしょう?この手がなによりの証拠です。」
先程まで彼女の涙を拭っていた指先を、彼女の温かな手が包む。
「本当に理解できないのなら、理解しようともしていないのなら、こんな風に私の頬を撫でたりなんてしない。」
「キミは・・・、」
「だから、大丈夫。」
そう言って微笑むと、「笑って泣いたらお腹空いちゃった」と、あっけらかんと言う。なんという切り替えの早さだ。
「ねぇ。」
「なんだね?」
「今度は私の話も聞いてくださいね。」
今度、ということは、これからもこんな私とこうして会ってくれるということだろうか。かつて、こんなにも私の心を掻き乱す人間が、あの呪いの言葉を放った彼女以外にいただろうか。
「私はしつこいですよ。あなたが過去に殺人を犯していたとしても、叱りつけて警察に突き出し、罪を償って出てくるのをずっと待っていられるほど心も広いです。瀬戸内海くらい。」
「微妙な広さだね、それは。」
「タコもいますよ。」
彼女の視線は、既にキラキラと盛り付けられたパフェへと向けられている。
「そうかね。まったく、ワタシの負けだよ。」
そう言って溜息を吐けば、彼女は満足げな表情を浮かべた。
私が『壊れたサイボーグ』などと称されたのは、もう随分昔の話だ。
20181118
彼女とのデートの回数も両の手を過ぎようとした頃にそう告げると、彼女は苦しそうな悲しそうな表情を作った。彼女を解放しなくては、私の胸の内にあるのはそれだけ。彼女には幸せになってほしい。こんな『壊れたサイボーグ』ではなく、もっと素晴らしい人間がいるはずだ。彼女の未来を守るためだ。自分の気持ちなどには蓋をして、それだけを願った。
「稽古が忙しいのですか?」
「そうではない。」
「あ、執筆が忙しい?」
「いや、」
「じゃあ、」
「・・・深雪さん。」
彼女は逃れるかのように言葉を紡ぐ。落ち着いた少し低い声が、余所行きの高い声に変わっていた。彼女はわかっているのだろう。彼女の気持ちはわからずとも、彼女のそんな変化には気づいてしまった。
「過去の話をしよう。」
目を伏せる彼女にそう言うと、小さく静かに頷いた。それを見て私は自分の過去の話を始めた。
私には恋人がいた。
愛しく思っていたと思う。多分、きっと。今ではもう思い出の中の出来事だ。
愛しかった彼女は、次第に笑顔を失っていった。あんなにも愛しい笑顔だったのに。ころころ変わるその表情が好きだった。会話中に溜息を吐くことも増えた。愚かな私は、自分の罪に気づくことはなかった。
『・・・もういいわ。』
『?どうしたのかね?』
『あなたは私の気持ちをわかってくれない。』
『気持ち?』
『他人の気持ちがわからないなんて、あなたは欠陥品よ。壊れたサイボーグなんだわ。』
そう言う彼女の泣き顔を見ても、言葉の意味が理解できずに私の心は動かなかった。ただ、彼女を宥めなくては。そう思い、涙の伝う頬に指を這わせても振り払われてしまった。
『今、あなたはなにを考えているの?』
『キミか泣き止んでくれないかと。』
『だから!そういうところが!』
私のその言葉は、彼女が望んだものではなかったのだろう。だが、私には彼女がなにを、どんな言葉を求めていたのかわからなかった。
感情的になった彼女の柔らかい手のひらに頬を打たれ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。後を追えばよかったのか?今ではもう遅い。その時の私はそんなことも思いつかなかったのだから。
以来、他人と距離を置くようになった。元々、私の天才的な思考についてこられる者などなく、また元に戻っただけだと思っていた。あの時、彼女が言った『壊れたサイボーグ』という言葉だけ脳裏に焼きついて離れなかった。
そこまで話すと、目の前の彼女の肩が震えていることに気づいた。泣かせてしまっただろうか?だが、突き放すには好都合だと思った。なのに、そんな彼女はこちらの予想に反して笑っていた。
「・・・なにを笑っているのかね?」
「だって、『壊れたサイボーグ』だなんて語彙力がすごすぎて。」
記憶の中の彼女と同じように涙を流してはいるが、どうやら意味は真逆のようだ。そんな彼女が理解できず、恐ろしさすら感じた。
「言っときますけどね、誉さん。他人の気持ちを正確に理解できる人間なんていないんですよ。」
今、彼女の頬を伝う涙を拭っても、もう独りに戻ることはないのだろうか。
「そっちの方がサイボーグよ。」
考えるより先に、体が動いていた。彼女の冷たくなった頬を伝うのは、温かい涙だった。
「・・・サイボーグはそんなことしません。」
「?」
「サイボーグは、他人の気持ちを数値として理解することはできるでしょう。でも、」
不意に手首を掴まれた。決して強い力ではないが、動けなかった。
「こうして涙を拭うという行動はしないでしょう。」
「ッ、」
あの時動かなかった心が、今は動いているのがわかる。彼女の言葉に動かされたのか、彼女はなんでこんなに優しいのだろうか。こんな、『壊れたサイボーグ』なんかに、人間らしさをくれるのだろうか。
「あなたが他人の気持ちが理解できないなら、私が傍にいてフォローします。あなたがおかしなことを口走ったら私が力づくであなたの口を塞ぎます。」
「何故、」
「だって、あなたは他人の気持ちは理解できなくても、理解しようと寄り添う努力をしているでしょう?この手がなによりの証拠です。」
先程まで彼女の涙を拭っていた指先を、彼女の温かな手が包む。
「本当に理解できないのなら、理解しようともしていないのなら、こんな風に私の頬を撫でたりなんてしない。」
「キミは・・・、」
「だから、大丈夫。」
そう言って微笑むと、「笑って泣いたらお腹空いちゃった」と、あっけらかんと言う。なんという切り替えの早さだ。
「ねぇ。」
「なんだね?」
「今度は私の話も聞いてくださいね。」
今度、ということは、これからもこんな私とこうして会ってくれるということだろうか。かつて、こんなにも私の心を掻き乱す人間が、あの呪いの言葉を放った彼女以外にいただろうか。
「私はしつこいですよ。あなたが過去に殺人を犯していたとしても、叱りつけて警察に突き出し、罪を償って出てくるのをずっと待っていられるほど心も広いです。瀬戸内海くらい。」
「微妙な広さだね、それは。」
「タコもいますよ。」
彼女の視線は、既にキラキラと盛り付けられたパフェへと向けられている。
「そうかね。まったく、ワタシの負けだよ。」
そう言って溜息を吐けば、彼女は満足げな表情を浮かべた。
私が『壊れたサイボーグ』などと称されたのは、もう随分昔の話だ。
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