MANKAIカンパニーとの出会い、運命の出会い
夢より素敵な
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「この坂を下ると・・・ほら!」
恋人が幼少期に遊んでいたという場所に訪れた。途中、「あら、深雪ちゃん?」なんて声をかけられ、同級生の親御さんだと紹介されたのも一度ではない。ここには彼女の存在が根付いていた。
「随分と穏やかな流れだね。」
「子どもが遊べる場所だからね。」
ここは河原だ。昔はおじい様の自宅があったらしいが、今はもうないのだと言う。
「お祖父ちゃんが釣りをしてる間、私たち姉弟はここで池を作って遊んでたのよ。」
近くを見渡すと船が停まっている。観光用の川下りの船だそうだ。彼女の故郷は静かだが、昔から観光地だった。
「春から秋にかけて、穏やかに混んでいくのよ。」
「ほう。」
「春は桜、夏はライン下り、秋は紅葉・・・それ以外にも、花の街なんて言われてるから一年通してなんか咲いてるわ。山を登れば蝋梅とかあるし。」
「成程、詩興の湧きそうな地だ。」
「でしょー?」
彼女は故郷を語る時は誇らしげにしている。余程思い入れがあるのだろう。それもそうか。生まれてから高校を卒業するまで離れたことがないと言う。
「まだ冷たいかな?」
「冷たいと思うよ。」
今日は暖かいが、流石に川に入るには勇気がいる。だが彼女は靴と靴下を脱ぎ、よたよたと水辺に近づいていく。そろっと足を浸けると、「冷たい!」と言って笑った。
「だから言っただろう?」
「だって入りたくなっちゃったんだもん。」
「誉もおいで」と手を伸ばすので、彼女に倣って靴と靴下を脱ぎ足を浸けた。想像以上に冷たい。これは夏にはいいだろう。
「冷たい?」
「冷たいね。」
「でも楽しくない?」
「キミといると飽きないからね。」
ふふっと満足そうに笑うと、踝に届くほどだったところから少し歩いていく。
「あまり行くと危ないよ。」
「大丈夫!」
「キミはすぐに転んでしまうだろう?」
「・・・戻る。」
彼女は特別足を挫きやすいというわけではなく、単に注意力が散漫なのだと思う。なにもないところで前触れなく転ぶことが多いので、ヒールの高い靴は履かない。いつも少し底の厚いローファーを履いているのは、昔の名残だと言う。彼女は所謂ロリータだった。今でもレースやフリルのついた甘い服を好む。
「私ね、誉に会ったことがある気がするの。」
「前世の話かね?」
「ううん。この前、誉の蔵書を少し見たんだけど、誉、ゴスロリバイブルで連載持ってなかった?」
ゴスロリバイブルとは、数年前に休刊が発表されたゴシック・アンド・ロリータの乙女たちのための本だ。確かに、『乙女に捧ぐ』といった趣旨のポエムを寄せたことがある。
「あれね、高校時代からずっと読んでてね。」
「ワタシたちの出会いは運命だったわけだね。」
「それは大袈裟。」
一度でいいから、彼女があの乙女の装備をもう一度身につけた姿を見てみたい。そう思いながら、今の彼女の年齢を考慮し、あそこまで華美にならないが甘い服をプレゼントしている。女性に服を贈る理由が脱がせたいからだとよく言うが、私は彼女に永遠の乙女であってほしいのだ。
「さあ、おいで。もう上がろう。」
これ以上浸かっていると、いくら暖かいとはいえ風邪を引いてしまう。手を引こうとすると、ぐっと力が入った。危ないと感じた私は彼女を腕の中に閉じ込め、彼女がびしょびしょに濡れてしまわぬように庇った。
「ごめん!」
「大丈夫だよ。幸いなことに、ワタシの足で持ち堪えたからね。」
冷たい川の中にダイブすることは免れたが、困った。抱き締めた彼女が温かく、離し難くなってしまった。
「誉?」
「すまないね、深雪さん。このまま離したくなくなってしまった。」
「えー。」
「離さないよ。」
川の水も、ずっと浸かっていれば慣れて冷たさも感じなくなってしまった。このまま二人でいられたらいいのに、そう思うほどに離したくない。
「・・・ジャスミンティー飲んでない。」
「キミはムードを考えたまえ。」
「私はもっと暖かいところで抱き締めてほしいな。」
「・・・仕方ないね。」
なにもこんな河原で入水心中をしたいわけではない。なんなら彼女と永遠を生きたい。彼女はそれを理解しているのかいないのか、早く早くと急かす。
「カフェで温かいものを飲みましょ。」
「仰せのままに。」
彼女との出会いが運命だろうが偶然だろうが、私は変わらず彼女を愛すだけである。
20190321
恋人が幼少期に遊んでいたという場所に訪れた。途中、「あら、深雪ちゃん?」なんて声をかけられ、同級生の親御さんだと紹介されたのも一度ではない。ここには彼女の存在が根付いていた。
「随分と穏やかな流れだね。」
「子どもが遊べる場所だからね。」
ここは河原だ。昔はおじい様の自宅があったらしいが、今はもうないのだと言う。
「お祖父ちゃんが釣りをしてる間、私たち姉弟はここで池を作って遊んでたのよ。」
近くを見渡すと船が停まっている。観光用の川下りの船だそうだ。彼女の故郷は静かだが、昔から観光地だった。
「春から秋にかけて、穏やかに混んでいくのよ。」
「ほう。」
「春は桜、夏はライン下り、秋は紅葉・・・それ以外にも、花の街なんて言われてるから一年通してなんか咲いてるわ。山を登れば蝋梅とかあるし。」
「成程、詩興の湧きそうな地だ。」
「でしょー?」
彼女は故郷を語る時は誇らしげにしている。余程思い入れがあるのだろう。それもそうか。生まれてから高校を卒業するまで離れたことがないと言う。
「まだ冷たいかな?」
「冷たいと思うよ。」
今日は暖かいが、流石に川に入るには勇気がいる。だが彼女は靴と靴下を脱ぎ、よたよたと水辺に近づいていく。そろっと足を浸けると、「冷たい!」と言って笑った。
「だから言っただろう?」
「だって入りたくなっちゃったんだもん。」
「誉もおいで」と手を伸ばすので、彼女に倣って靴と靴下を脱ぎ足を浸けた。想像以上に冷たい。これは夏にはいいだろう。
「冷たい?」
「冷たいね。」
「でも楽しくない?」
「キミといると飽きないからね。」
ふふっと満足そうに笑うと、踝に届くほどだったところから少し歩いていく。
「あまり行くと危ないよ。」
「大丈夫!」
「キミはすぐに転んでしまうだろう?」
「・・・戻る。」
彼女は特別足を挫きやすいというわけではなく、単に注意力が散漫なのだと思う。なにもないところで前触れなく転ぶことが多いので、ヒールの高い靴は履かない。いつも少し底の厚いローファーを履いているのは、昔の名残だと言う。彼女は所謂ロリータだった。今でもレースやフリルのついた甘い服を好む。
「私ね、誉に会ったことがある気がするの。」
「前世の話かね?」
「ううん。この前、誉の蔵書を少し見たんだけど、誉、ゴスロリバイブルで連載持ってなかった?」
ゴスロリバイブルとは、数年前に休刊が発表されたゴシック・アンド・ロリータの乙女たちのための本だ。確かに、『乙女に捧ぐ』といった趣旨のポエムを寄せたことがある。
「あれね、高校時代からずっと読んでてね。」
「ワタシたちの出会いは運命だったわけだね。」
「それは大袈裟。」
一度でいいから、彼女があの乙女の装備をもう一度身につけた姿を見てみたい。そう思いながら、今の彼女の年齢を考慮し、あそこまで華美にならないが甘い服をプレゼントしている。女性に服を贈る理由が脱がせたいからだとよく言うが、私は彼女に永遠の乙女であってほしいのだ。
「さあ、おいで。もう上がろう。」
これ以上浸かっていると、いくら暖かいとはいえ風邪を引いてしまう。手を引こうとすると、ぐっと力が入った。危ないと感じた私は彼女を腕の中に閉じ込め、彼女がびしょびしょに濡れてしまわぬように庇った。
「ごめん!」
「大丈夫だよ。幸いなことに、ワタシの足で持ち堪えたからね。」
冷たい川の中にダイブすることは免れたが、困った。抱き締めた彼女が温かく、離し難くなってしまった。
「誉?」
「すまないね、深雪さん。このまま離したくなくなってしまった。」
「えー。」
「離さないよ。」
川の水も、ずっと浸かっていれば慣れて冷たさも感じなくなってしまった。このまま二人でいられたらいいのに、そう思うほどに離したくない。
「・・・ジャスミンティー飲んでない。」
「キミはムードを考えたまえ。」
「私はもっと暖かいところで抱き締めてほしいな。」
「・・・仕方ないね。」
なにもこんな河原で入水心中をしたいわけではない。なんなら彼女と永遠を生きたい。彼女はそれを理解しているのかいないのか、早く早くと急かす。
「カフェで温かいものを飲みましょ。」
「仰せのままに。」
彼女との出会いが運命だろうが偶然だろうが、私は変わらず彼女を愛すだけである。
20190321
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