「佳奈さん？」
「？」
「佳奈さんじゃん！」


三人組の男たちが近づいてくる。私の深雪さんの元へ。


「あぁ、久しぶり！」
「佳奈さん、元気してた？」
「幼馴染ちゃんには去年お世話になったけど。」
「うん、体は元気。」
「佳奈さんはそうだろうねー。」


「じゃあ」と言って別れはしたが、はて、『カナサン』とは？


「深雪さん、」
「ん？あぁ、小中の同級生。高校と大学は女子校だったけどね。」
「いや、そうでなく。」


彼女にとっては慣れてしまい、もう気にならないのかもしれないが、名前に掠ってもいない呼び方だった。私の知らない彼女がいることに、なんだか落ち着かない。


「どしたの？」
「いや、『カナサン』とは？」
「あぁ！そのことね！私の中学時代のニックネームよ。ドラマで『佳奈さん』って登場人物がいてね、雰囲気が似てるからって。顔は似ても似つかないんだけどねー。」


懐かしいなーと笑う。どんなドラマかと訊けば、OLを主人公にしたコメディドラマらしい。


「その『佳奈さん』はどんな人物なんだい？」
「役員たちの愛人。」
「・・・は？」
「誕生日は忙しいのよ、社長を始めとする何人もの役員たちと会わなきゃだから。」


そんな愛人ポジションの登場人物に、私の深雪さんが？彼女は一人の人物に、一人の人物を、大切に愛し愛されることを望む女性だ。決して他人のものを強請る女性ではない、と思うのだが、その学友たちは彼女を愛人だと思っていたのだろうか。


「雰囲気って言ったでしょ？」
「そのような雰囲気があったのかね？」
「こう、魔性の女？みたいな？モテはしなかったけど、前に男友達の方が多かったって話したでしょ？その中から、自然と『佳奈さん』が生まれたの。」
「ふむ？」


それはモテていたのではないかね？とは思うものの、口に出せば笑い飛ばされることが目に見えている。


「なんかね、笑い方とか、振る舞い方が似てたんだって。」
「魔性の女とかい？」
「そ。面白い話でしょ？まぁ、上品な笑い方するね、とは高校の同級生にも言われたことあるけど。」


大口を開けて馬鹿笑いをすることはない。いつも口に手を当て「ふふっ」と笑うところを好ましく思っている。愛人呼ばわりはいただけないが、彼女の幼少期から培われた品の良さを評価されるのは私も嬉しくはある。


「久々に呼ばれたなぁ。」
「高校では呼ばれなかったのかね？」
「姫ちゃん。」
「？」
「高校の一部同級生からつけられたニックネームは『姫』よ。」
「それは・・・、」
「冗談みたいな本当の話。」


魔性の女だったり、姫だったり。私の恋人は少々上流階級の匂いのする渾名をつけられてきたらしい。魔性の女の本領を発揮されたら、私は心配で仕方がない。


「品がいいのはワタシもわかるよ。」
「あら、ありがとう。」
「だが、あまり色気を振り向かないようにね。」


品の良さから見え隠れする色に、どうか誰も気づかないでほしい。そんなことを考えていれば、案の定、笑い飛ばされた。




20181211