MANKAIカンパニーとの出会い、運命の出会い
夢より素敵な
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彼女の住む街から電車を乗り継いで、更にバスも乗り継いで、誰もいない冬の海に辿り着いた。
もう陽も落ちた冬の海といえば駆け落ち。心中。そんなものとは無縁に思える彼女の陰が見え隠れする様が興味深かった。
「海!」
「そうだね。」
「詩興は湧く?」
「キミは先程からそればかりだね。」
天才といえど、スランプというものに陥ることがある。
『海が見たいな。』
きっかけはそれだけで、なにも持たずに(財布や鍵、携帯電話は持ったが)海へやってきた。彼女の望むことはなんでも叶えてやりたいと思う。それは、彼女がいつだって先回りして私の欠点をフォローしてくれる礼でもあるのだが、それを差し置いても私自身それが楽しいのだ。
「冬の海。陽の落ちた、二人きりの海・・・私なら一本話書けちゃうな。2000字くらいだけど。」
彼女は筆が早い。ネタが浮かべば一、二時間もあれば言う通り2000字程ではあるが書き上げることができる。浮かんだものの鮮度は落としたくないと、一気に書き上げるのが彼女の強みかもしれない。
「職業にしちゃうと難しいのかな?」
砂を蹴りながら言う。まるで独り言のように。実際、独り言なのかもしれない。そこに私はいないのかもしれない。そう思ったらなんだか恐ろしくなって、咄嗟に彼女の腕を掴んでしまった。
「誉?」
「いや、なんでもないよ。痛かったかね?」
「ううん。・・・あのね、私、海ってあんまり来たことないの。」
「なんの変哲もない海だろう?」
「海無し県生まれの海無し県育ちだから、その『なんの変哲もない海』が珍しいのよ。」
「そういうものかい?」
私は冷え性であるが、彼女に触れる時にはできるだけ手袋を外すようにしている。彼女のなにもかもを知りたいから、なのかもしれない。私の理解することができない気持ちさえも。
いつの間にか指を絡めるように手を繋いでいた。「冷えてるね」と、彼女は笑った。彼女は体温は低いくせに手のひらはやけに温かい。
「ふむ。こうするべきだろうか?」
その手を自分のコートのポケットへ入れると、だらしなく笑う彼女が可笑しくて私まで笑ってしまう。
「なにを笑っているのだね?」
「誉が、私がしてほしいことしてくれたから。」
「この方が温まるだろう?」
「そんな簡単なことさえもされてこなかった寂しい女なのよ。」
彼女も私のように過去の恋愛にトラウマを抱いているのだろうか?過去の話は以前聞いたことがあるが、恋愛については詳しくは聞いていない。こちらが訊いて、彼女を失うのが怖い。
「いつか、話してくれるかい?」
「・・・いいよ、誉なら。」
彼女はよく、「誉ならいい」と言う。彼女の中に線引きがあって、その領域に私はちゃんと入ることができているのだろう。それが酷く私を喜ばせていることを、彼女はわかっているだろうか。
陽は完全に落ち、月が顔を出す。今日は満月だった。
「ねぇ、誉。」
「なんだね?」
「・・・大好き。」
酷く優しい声だった。特別張られた声ではなかったが、少し落ち着いた低い声は、私の芯に優しく響くようだった。
「ワタシは愛しているよ。」
「あ、ズルい!」
「・・・!あぁ、詩興が湧いてきた!暫く待ちたまえ。」
彼女の膨れた頬を見ていたら、スランプが嘘のように解けていくようだった。
言われてみれば、なんの変哲もない海。冬の海。陽の落ちた二人きりの海。空には満月、そして隣には愛しい恋人。私を「大好き」だと言う愛おしい存在。こんな詩興が湧くシチュエーションで、私は何を迷っていたのか。
「キミはいつだってワタシを救ってくれるね。」
「誉だけにいい格好させられないからね。」
「どういうことかね?」
「私だっていつも誉に救われてるってこと。・・・忘れないでね?」
潮風に吹かれた髪を洗って、それを乾かすのが私の役目。それすらされたことがないのだと、彼女は言っていた。愛しい恋人の髪に触れることができるのは役得であるというのにと憤慨したが、今ではもう彼女の艶やかな髪を誰にも触れさせたくはない。
「愛しているよ。」
20181202
もう陽も落ちた冬の海といえば駆け落ち。心中。そんなものとは無縁に思える彼女の陰が見え隠れする様が興味深かった。
「海!」
「そうだね。」
「詩興は湧く?」
「キミは先程からそればかりだね。」
天才といえど、スランプというものに陥ることがある。
『海が見たいな。』
きっかけはそれだけで、なにも持たずに(財布や鍵、携帯電話は持ったが)海へやってきた。彼女の望むことはなんでも叶えてやりたいと思う。それは、彼女がいつだって先回りして私の欠点をフォローしてくれる礼でもあるのだが、それを差し置いても私自身それが楽しいのだ。
「冬の海。陽の落ちた、二人きりの海・・・私なら一本話書けちゃうな。2000字くらいだけど。」
彼女は筆が早い。ネタが浮かべば一、二時間もあれば言う通り2000字程ではあるが書き上げることができる。浮かんだものの鮮度は落としたくないと、一気に書き上げるのが彼女の強みかもしれない。
「職業にしちゃうと難しいのかな?」
砂を蹴りながら言う。まるで独り言のように。実際、独り言なのかもしれない。そこに私はいないのかもしれない。そう思ったらなんだか恐ろしくなって、咄嗟に彼女の腕を掴んでしまった。
「誉?」
「いや、なんでもないよ。痛かったかね?」
「ううん。・・・あのね、私、海ってあんまり来たことないの。」
「なんの変哲もない海だろう?」
「海無し県生まれの海無し県育ちだから、その『なんの変哲もない海』が珍しいのよ。」
「そういうものかい?」
私は冷え性であるが、彼女に触れる時にはできるだけ手袋を外すようにしている。彼女のなにもかもを知りたいから、なのかもしれない。私の理解することができない気持ちさえも。
いつの間にか指を絡めるように手を繋いでいた。「冷えてるね」と、彼女は笑った。彼女は体温は低いくせに手のひらはやけに温かい。
「ふむ。こうするべきだろうか?」
その手を自分のコートのポケットへ入れると、だらしなく笑う彼女が可笑しくて私まで笑ってしまう。
「なにを笑っているのだね?」
「誉が、私がしてほしいことしてくれたから。」
「この方が温まるだろう?」
「そんな簡単なことさえもされてこなかった寂しい女なのよ。」
彼女も私のように過去の恋愛にトラウマを抱いているのだろうか?過去の話は以前聞いたことがあるが、恋愛については詳しくは聞いていない。こちらが訊いて、彼女を失うのが怖い。
「いつか、話してくれるかい?」
「・・・いいよ、誉なら。」
彼女はよく、「誉ならいい」と言う。彼女の中に線引きがあって、その領域に私はちゃんと入ることができているのだろう。それが酷く私を喜ばせていることを、彼女はわかっているだろうか。
陽は完全に落ち、月が顔を出す。今日は満月だった。
「ねぇ、誉。」
「なんだね?」
「・・・大好き。」
酷く優しい声だった。特別張られた声ではなかったが、少し落ち着いた低い声は、私の芯に優しく響くようだった。
「ワタシは愛しているよ。」
「あ、ズルい!」
「・・・!あぁ、詩興が湧いてきた!暫く待ちたまえ。」
彼女の膨れた頬を見ていたら、スランプが嘘のように解けていくようだった。
言われてみれば、なんの変哲もない海。冬の海。陽の落ちた二人きりの海。空には満月、そして隣には愛しい恋人。私を「大好き」だと言う愛おしい存在。こんな詩興が湧くシチュエーションで、私は何を迷っていたのか。
「キミはいつだってワタシを救ってくれるね。」
「誉だけにいい格好させられないからね。」
「どういうことかね?」
「私だっていつも誉に救われてるってこと。・・・忘れないでね?」
潮風に吹かれた髪を洗って、それを乾かすのが私の役目。それすらされたことがないのだと、彼女は言っていた。愛しい恋人の髪に触れることができるのは役得であるというのにと憤慨したが、今ではもう彼女の艶やかな髪を誰にも触れさせたくはない。
「愛しているよ。」
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