壱番街は騒然としていた。
　突如聞こえてきた爆発音に驚いた人々が、街の中を走り回っている。
　きっと彼らの大半は、何が起こったのかまだ分かっていないのだろう。
　ただ不安に駆られて、どこかへ逃げようとしているだけだ。
　俺はふと歩みを止めた。
　混乱の中で、一人だけ魔晄炉を見つめたままジッと佇む女性を見つけたのだ。
　・・・何故か分からない。
　だが、何となく引きつけられるような感覚を覚えた。
　女性がこちらを向いた。
　小さく微笑んでから、歩み寄ってくる。
「ねぇ、何かあったの？」
　女性は翡翠色の瞳を不安げに曇らせながら尋ねてきた。
　ピンクのワンピースに赤いジャケット。
　栗色の長い髪は後ろで一つに編まれ、ピンクのリボンで結ばれている。
　俺は肩をすくめた。
「何でもない。気にするな」
「そう・・・」
　女性の顔から不安が消えることはなかった。
　ふと、女性の左腕に掛けられている花籠が目に入った。
　色とりどりの花が、籠から溢れ出しそうなほどたくさん入れられている。
　・・・花、か。
「花なんて珍しいな」
「えっ？　ああ、これ？」
　女性は優しげな笑みを浮かべながら花を見つめると、こちらを向いた。
「よかったら買わない？　１つ１ギルなんだけど」
　花なんかには興味がない。
　買っても邪魔になるだけだろう。
「・・・１つもらおう」
「ありがとう！」
　だが、何故かそう言ってしまった。
　女性は嬉しそうに微笑みながら、黄色い花を一輪、差し出してくる。
　俺は金を支払ってからそれを受け取った。
「じゃあ、ね。買ってくれてありがとう」
　そう言うと、女性は去っていった。
　その後ろ姿から目を逸らすと、右手に握られた花を見つめる。
　・・・何故買ってしまったんだろう。
　花なんて、俺には似合わない。
　潰さないようにそっと花をしまうと、再び歩き出した。