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教会に咲く花

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『・・・おい、大丈夫か?』
 ・・・?
『聞こえてるか?』
 この声は・・・何度か聞いたことがある。
 確か、魔晄炉で――――。
『大丈夫そうだな』
 ・・・ああ。
『覚えてるか? 伍番魔晄炉から落ちたんだ』
 ・・・ああ、覚えてる。
「もしも~し!」
『あの時はヒザをすりむいただけですんだけど・・・。今度はどうかな?』
 ・・・あの時?
 今度は・・・?
「もしも~し、聞こえてますかー!?」
『気にするな。体、動かせるか?』
 ・・・やってみる。
「あっ! 動いた!」
『焦らなくていい。ゆっくり、ゆっくり――――』
「もしもしっ! だいじょうぶですかーっ!」
 目を開けると、急に視界が真っ白になった。
 ・・・眩しい。
 ここは、どこだ――――?
「だいじょうぶ?」
 女性が顔を覗き込んできた。
 俺は慌てて起きあがる。
「そんなに驚かなくてもいいのに」
 そう言いながら、彼女はくすくす笑った。
 俺は、ゆっくりと辺りを見回す。
 ・・・ここは、古びた教会だった。
 以前はとても綺麗な場所だっただろうに、今はすっかり寂れてしまっている。
 ・・・ミッドガルに、教会?
 ここは一体・・・。
「ここ、5番街スラムの教会。いきなり空から降ってきたんだよ? びっくりしちゃった」
 俺は女性の方に目を向けた。
 彼女は、興味津々といった表情でこちらを見つめている。
 ピンクのワンピースに、赤いジャケット。
 栗色の髪は、大きなピンクのリボンで後ろで1つに編まれている。
 ・・・知ってる。
 彼女は、確か――――。
「お花畑、クッションになったのかな。運いいね」
「・・・花畑?」
 その時、初めて気がついた。
 俺は、花畑の真ん中に座り込んでいた。
 空から降ってきたときに踏み潰してしまったのか、何本か茎が折れてしまっている。
 俺は慌てて立ち上がり、花畑から離れた。
「・・・悪かった」
「気にしないで。このお花、けっこう強いから」
 彼女は特に怒っている様子もなく、先程まで俺が座り込んでいた辺りに歩み寄る。
 折れてしまった花を全て摘み取っているようだ。
 持って帰って花瓶にでも挿すんだろうか。
「また会ったね」
 彼女は手を動かし続けながら言った。
「・・・そうだな」
「あっ、覚えててくれたんだ!」
 嬉しそうな表情でこちらを向く。
 普通にしているときは大人っぽい印象なのに、こういう表情をすると無邪気な少女のような印象になる。
 ・・・不思議な女性だった。
「ああ。壱番街で花を売ってただろ?」
「うん! あの時はお花、買ってくれてありがとう」
 もしかしたら、あの時の花もここで育ててたんだろうか。
 いや、それよりも・・・どうしてスラムで花が育つのだろう。
 白や黄色の色鮮やかな花が、懸命に空に向かって伸びている。
 ・・・ここが神聖な場所のように感じるのは、スラムでは育つはずのない花が咲き誇っているせいかもしれなかった。
「あ、そういえば、まだだったね。」
「・・・何が?」
「自己紹介。わたし、花売りのエアリス。あなたは?」
「俺はクラウド。仕事は・・・何でも屋だ」
 神羅を辞めた後、ミッドガルで何でも屋をやろうと決めていた。
 手始めの仕事が、アバランチへの協力だった。
「何でも屋さん?」
「ああ。何でもやるのさ」
 彼女は不思議そうな目で俺の顔を覗き込んできた。
 あまりに遠慮のない仕草に、俺は少したじろぐ。
「ふ~ん・・・。ね、マテリア持ってるんだね」
「・・・マテリア?」
 突拍子のない質問に首を傾げるが、ティファに貸したのとは別に、氷のマテリアを剣にはめ込んだままだったのを思い出した。
 彼女はそれを見つけたんだろう。
「わたしもマテリア、持ってるんだよ」
「マテリアはもう珍しくも何ともない」
「まあ、ね」
 彼女はくすくす笑う。
「でも、わたしのは特別。だって、何の役にも立たないんだもん」
「・・・役に立たない? 使い方を知らないだけだろ」
「そんなこと、ないけど・・・」
 彼女は少し困った表情で微笑むと、立ち上がって空を見上げた。
 その横顔は何故か・・・少しだけ、寂しそうに見えた。
「役に立たなくてもいいの。持ってると安心できるから。お母さんが、遺してくれた――――」
 瞳を閉じ、胸の前で両手を握る仕草は、祈っているようにも見えた。
「もしよかったら、色々話さない? お花の手入れ、もうすぐ終わるから」
「・・・ああ、構わない」
 いつもなら、きっぱり断ってしまうような誘いだったのに。
 何故か俺は、二言返事で頷いてしまった。
「ありがとう! すぐ、終わらせるから・・・」
 彼女はそこで言葉を切ると、教会の扉の方へ目を向けた。
 ・・・いつの間に入ってきたのか、黒いスーツを着た男性がこちらを見つめていた。
 スーツは着崩されていて、おさげにくくった長い髪は赤い。
 道化のような姿の男だった。
「クラウド。構っちゃダメ」
 エアリスは男を見つめたまま呟くように言うと、こちらを向いた。
「ねえ。ボディーガードも仕事のうち?」
 ・・・ボディーガード?
 俺は訝しげな表情を浮かべながらも、頷いた。
「まぁ・・・そうだな」
「だったら、お願い。わたしをここから連れ出して。家まで送って」
「・・・いいだろう。ただし、安くはない」
 少し大げさな口調でそう言うと、彼女はクスッと笑った。
「じゃあねぇ・・・デート、一回!」
 ・・・デート。
 彼女とデートできることが報酬ってことか。
 まあ・・・いいだろう。
 本気で高給を請求するつもりだったわけでもない。
 俺は小さく肩をすくめると、男の方へ歩み寄った。
「どこの誰だか知らないが・・・」
 ・・・知らない?
 俺はそう言ってから、自問した。
 いや・・・そんなはずはない。
 頭の中に、ノイズが走る。
『知ってるよ』
「ああ・・・知ってる。こいつは――――」
 俺は元ソルジャーだ。
 この男を知らないはずがない――――。
「その制服は、タークスだな?」
「・・・お姉ちゃん。この男、なんか変だぞ、と」
 男は嘲るような笑みを浮かべながら、ひょうひょうとした口調でそう言った。
「黙れ! 神羅の犬が!」
 そう言ったとたん、男の顔色が変わった。
 ジッと、俺の顔を・・・というより、目を見ている。
 恐らく、俺の瞳の色を見てソルジャーだと気付いたんだろう。
 ソルジャーはみな、特徴的な輝きを放つ蒼い瞳をしている。
 タークスがそれに気付かないはずがなかった。
「・・・今日は一人なのか?」
 男は、エアリスに言ったようだった。
 エアリスは男を睨み続けている。
「ええ。残念だけど、ミキは買い物」
「いや、あいつがいない方が仕事は捗るぞ、と」
 俺は反射的に武器を構えた。
 よく分からないが、ボディーガードを引き受けたからにはエアリスを守りきらなければならない。
「待って、クラウド! ここで戦って欲しくない。お花、踏んで欲しくないの!」
 そう叫ぶと、エアリスは教会の奥へと駆けていった。
「こっち!」
 よく見ると、奥にも部屋が続いているらしく、小さな扉のようなものが付けられていた。
 俺はもう一度タークスを睨み付けると、エアリスの後を追って走った。
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