夢と約束
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今は、夜だ。
夜中の11時。
スラムでは、時計を見ないと今が朝なのか、昼なのか、夜なのか分からない。
空が見えないので、太陽の光を浴びることも出来ない。
日の出も見られない。
夕焼けも見られない。
月も、星も見られない。
・・・スラムの上空を覆うプレートさえなければ、この時間は空に星が見えるんだろうな。
眠れない夜に、こうやって二階の窓から顔を出して、色々考えながら星を眺めることが出来るんだろうな。
でも、空を見上げても見えるのは冷たい金属で出来たプレートだけ。
だから私は、さっきからずっと下を見ている。
エアリスが育てている花が咲き乱れる庭を、ジッと見つめている。
・・・あの日のことを、思い出していた。
5年前。
私が『彼』と初めて会った、あの日のことを――――。
私は自分の武器のロッドを構えながら、お手製の敵役の人形を見据えた。
そこら辺に転がっているがらくたで作った人型の人形だが、鍛練をするときはいつも役立たせてもらっている。
その人形を敵と見立てて、そいつを倒すことだけに神経を集中させる。
ゆっくりと浅い呼吸を繰り返す。
空気と同調しているような感覚を引き出す。
・・・敵を倒すことだけ考えろ。
他のことは考えるな。
――――数秒後。
「はっ・・・!」
小さく息を吐き出しながら、一気に人形の方へ駆け寄った。
人形の横を通り過ぎる瞬間に、ロッドを横向きに力強く振る。
人形の数メートル後方で、ザザッと砂煙を上げながら急停止した。
その瞬間、人形の上半分が地面にポトリと落ちる。
・・・よしっ。
私は満足げに微笑んだ。
大分集中力が付いてきた。
「へぇ。珍しい鍛練をやってるんだな」
「!?」
突如聞こえてきた聞き慣れない声に、私は反射的にロッドを構えた。
「そんなに警戒すんなって」
その人物は、近くの物陰から姿を現した。
黒髪の、長身の男だった。
ニヤッと笑った口元に、特徴的な淡い蒼色の瞳。
歳は17,8ほど・・・エアリスと同じか、少し上ぐらいだろう。
・・・誰? この人・・・。
私は警戒を緩めなかった。
「あなた、誰?」
「んー、まぁ自己紹介の前に・・・」
男性はそう言うと、背中に背負っていた巨大な剣に手を伸ばした。
柄を両手で掴み、剣先をこちらに向けるようにして構える。
まさか――――戦う気?
「いっちょ、腕試しといきますかっ」
軽い口調でそう言ったとたん、男性は一気にこちらに接近してきた。
「わっ・・・!」
私はほぼ反射的に身をよじって男性の攻撃から逃れる。
しかし男性は攻撃の手を緩めようとはしなかった。
私は必死に避ける。
飛んで、しゃがんで、転がって、必死に・・・本当に必死に、攻撃から逃れた。
・・・てか、誰、この人。
何でいきなり攻撃してくるの?
腕試しって、何・・・?
「っ!」
あと数秒しゃがむのが遅かったら顔の上半分が無くなっていたであろう攻撃を避けると、私は男性の懐に潜り込んだ。
一瞬の隙をついてロッドを振るが・・・剣で受け止められた。
「甘い」
男性が嬉しそうな表情で言う。
その瞬間、剣にロッドを奪われた。
「あっ・・・!」
剣は絶妙の動きでロッドを絡め取り、武器は私の手を離れて、音を立てながら遠くの方に転がっていく。
慌てて取りに行こうと駆け出すが・・・顔面に剣先を突きつけられた。
私は仕方なく動きを止める。
「ある程度戦えるみたいだが、やっぱ、まだまだだな」
男性は嬉しそうに微笑みながら言うが・・・何で見ず知らずの人にそんな評価をされなきゃいけないんだ。
私は思いきり不満そうな表情で、男性を上目遣いに睨んだ。
「一体、何なの? あなた、誰?」
「ああ、悪い悪い」
男性は声を上げて笑った。
「俺、エアリスの知り合い」
「エアリスの・・・?」
「ああ。エアリスからあんたのことを聞いて、腕試ししてやろうと思って来たんだ」
私は困惑した瞳で男性を見つめる。
しかし男性は、どこか安心感を与えさせる表情で、得意げに微笑んでいた。
「あんた、ミキだろ?」
「・・・あなたは・・・」
「俺? 俺の名前は――――」
「ミキ」
名を呼ばれて、私は回想を中断した。
・・・声は下から聞こえた。
こんな時間に、誰・・・?
「久しぶりだな」
この声は――――。
声の主を見つけ、私は小さくため息を吐いた。
燃えるような赤い髪。
かなり着崩した黒いスーツは、似合ってはいるものの、少し近寄りがたいオーラを振りまいている。
「・・・何の用?」
「つれないな」
男性は唇の端を緩めた。
彼と最後に会ったのは一週間ほど前だ。
久しぶりというほど懐かしみも感じない。
「今日も残業? それとも仕事上がり?」
「後者だぞ、と」
「そう・・・」
なら、安心だ。
私は少しだけ微笑んだ。
「で? 何の用?」
「様子を見に来ただけだ」
「・・・」
「体は・・・もう大丈夫なのか?」
「・・・どうしてそんなことを聞くの?」
大事なサンプルだから?
その言葉は、グッと飲み込んだ。
「・・・ごめん。帰って」
「ミキ・・・」
男性は、傷ついたような表情を浮かべる。
だけど――――だめだ。
また、涙が出そうになった。
「ごめん――――」
少し涙声になってしまったかもしれない。
私は窓から離れると、ベッドに倒れ込んだ。
唇を強く噛む。
・・・彼の気配が消えた。
きっと帰ったんだろう。
・・・ごめんなさい。
私は、心の中で呟いた。
夜中の11時。
スラムでは、時計を見ないと今が朝なのか、昼なのか、夜なのか分からない。
空が見えないので、太陽の光を浴びることも出来ない。
日の出も見られない。
夕焼けも見られない。
月も、星も見られない。
・・・スラムの上空を覆うプレートさえなければ、この時間は空に星が見えるんだろうな。
眠れない夜に、こうやって二階の窓から顔を出して、色々考えながら星を眺めることが出来るんだろうな。
でも、空を見上げても見えるのは冷たい金属で出来たプレートだけ。
だから私は、さっきからずっと下を見ている。
エアリスが育てている花が咲き乱れる庭を、ジッと見つめている。
・・・あの日のことを、思い出していた。
5年前。
私が『彼』と初めて会った、あの日のことを――――。
私は自分の武器のロッドを構えながら、お手製の敵役の人形を見据えた。
そこら辺に転がっているがらくたで作った人型の人形だが、鍛練をするときはいつも役立たせてもらっている。
その人形を敵と見立てて、そいつを倒すことだけに神経を集中させる。
ゆっくりと浅い呼吸を繰り返す。
空気と同調しているような感覚を引き出す。
・・・敵を倒すことだけ考えろ。
他のことは考えるな。
――――数秒後。
「はっ・・・!」
小さく息を吐き出しながら、一気に人形の方へ駆け寄った。
人形の横を通り過ぎる瞬間に、ロッドを横向きに力強く振る。
人形の数メートル後方で、ザザッと砂煙を上げながら急停止した。
その瞬間、人形の上半分が地面にポトリと落ちる。
・・・よしっ。
私は満足げに微笑んだ。
大分集中力が付いてきた。
「へぇ。珍しい鍛練をやってるんだな」
「!?」
突如聞こえてきた聞き慣れない声に、私は反射的にロッドを構えた。
「そんなに警戒すんなって」
その人物は、近くの物陰から姿を現した。
黒髪の、長身の男だった。
ニヤッと笑った口元に、特徴的な淡い蒼色の瞳。
歳は17,8ほど・・・エアリスと同じか、少し上ぐらいだろう。
・・・誰? この人・・・。
私は警戒を緩めなかった。
「あなた、誰?」
「んー、まぁ自己紹介の前に・・・」
男性はそう言うと、背中に背負っていた巨大な剣に手を伸ばした。
柄を両手で掴み、剣先をこちらに向けるようにして構える。
まさか――――戦う気?
「いっちょ、腕試しといきますかっ」
軽い口調でそう言ったとたん、男性は一気にこちらに接近してきた。
「わっ・・・!」
私はほぼ反射的に身をよじって男性の攻撃から逃れる。
しかし男性は攻撃の手を緩めようとはしなかった。
私は必死に避ける。
飛んで、しゃがんで、転がって、必死に・・・本当に必死に、攻撃から逃れた。
・・・てか、誰、この人。
何でいきなり攻撃してくるの?
腕試しって、何・・・?
「っ!」
あと数秒しゃがむのが遅かったら顔の上半分が無くなっていたであろう攻撃を避けると、私は男性の懐に潜り込んだ。
一瞬の隙をついてロッドを振るが・・・剣で受け止められた。
「甘い」
男性が嬉しそうな表情で言う。
その瞬間、剣にロッドを奪われた。
「あっ・・・!」
剣は絶妙の動きでロッドを絡め取り、武器は私の手を離れて、音を立てながら遠くの方に転がっていく。
慌てて取りに行こうと駆け出すが・・・顔面に剣先を突きつけられた。
私は仕方なく動きを止める。
「ある程度戦えるみたいだが、やっぱ、まだまだだな」
男性は嬉しそうに微笑みながら言うが・・・何で見ず知らずの人にそんな評価をされなきゃいけないんだ。
私は思いきり不満そうな表情で、男性を上目遣いに睨んだ。
「一体、何なの? あなた、誰?」
「ああ、悪い悪い」
男性は声を上げて笑った。
「俺、エアリスの知り合い」
「エアリスの・・・?」
「ああ。エアリスからあんたのことを聞いて、腕試ししてやろうと思って来たんだ」
私は困惑した瞳で男性を見つめる。
しかし男性は、どこか安心感を与えさせる表情で、得意げに微笑んでいた。
「あんた、ミキだろ?」
「・・・あなたは・・・」
「俺? 俺の名前は――――」
「ミキ」
名を呼ばれて、私は回想を中断した。
・・・声は下から聞こえた。
こんな時間に、誰・・・?
「久しぶりだな」
この声は――――。
声の主を見つけ、私は小さくため息を吐いた。
燃えるような赤い髪。
かなり着崩した黒いスーツは、似合ってはいるものの、少し近寄りがたいオーラを振りまいている。
「・・・何の用?」
「つれないな」
男性は唇の端を緩めた。
彼と最後に会ったのは一週間ほど前だ。
久しぶりというほど懐かしみも感じない。
「今日も残業? それとも仕事上がり?」
「後者だぞ、と」
「そう・・・」
なら、安心だ。
私は少しだけ微笑んだ。
「で? 何の用?」
「様子を見に来ただけだ」
「・・・」
「体は・・・もう大丈夫なのか?」
「・・・どうしてそんなことを聞くの?」
大事なサンプルだから?
その言葉は、グッと飲み込んだ。
「・・・ごめん。帰って」
「ミキ・・・」
男性は、傷ついたような表情を浮かべる。
だけど――――だめだ。
また、涙が出そうになった。
「ごめん――――」
少し涙声になってしまったかもしれない。
私は窓から離れると、ベッドに倒れ込んだ。
唇を強く噛む。
・・・彼の気配が消えた。
きっと帰ったんだろう。
・・・ごめんなさい。
私は、心の中で呟いた。