失いたくない光
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城に来てから、あっという間に2ヶ月が過ぎた。
城の暮らしにも慣れてきたし、ここでの生活も悪いものではない。
問題と言えば、相変わらず増えない表情と、あの夢だ。
特に夢の方は深刻だった。
近頃、毎晩のように見るようになってしまったのだ。
同じ夢を、何度も、何度も――――。
朝 起きる度に、カイリを守れなかった悲しみに思い悩んでしまう。
しかし、このことを城の人には打ち明ける気になれなかった。
伏せていた顔を上げると、綺麗に整備された広い庭を見つめる。
ここは、城で一番高い塔のてっぺんの部屋。
普段は使われていないらしく、ほとんど物置と化している。
しかし私は、よくここに来ていた。
やっぱり私は、高いところが好きなのかもしれない。
ゆっくりと目を閉じると、心地よい風が頬をなぞってゆくのを感じる。
ふと、レイディアントガーデンを思い出した。
どこに行っても、風は同じなのかもしれない。
こうして目を閉じていると、今もレイディアントガーデンにいるような、そんな気がしてくる。
エアリスは元気にしてるだろうか。
ユフィや、スコールは・・・。
故郷を長い間離れている内に、少しずつ気づいてきた。
私にとって、彼らは大切な存在だったのではないだろうか。
毎日、迎えに来てくれる彼らを、心のどこかで、私は待っていたのかもしれない。
誰かに必要とされてるって、感じたかったのかもしれない。
そう考えると、急に胸が締め付けられるように苦しくなった。
私は、自分の居場所が欲しかったんだ。
でも、彼らが伸ばしてくれた、優しく温かい手を振り払い続けていた。
なのに、私は、怖かった。
いつか彼らが、迎えに来てくれなくなるんじゃないかって。
迎えに来て欲しいのに、一緒には行かない。
私は、なんて――――
なんて、わがままだったんだろう――――。
胸の痛みが増した。
カイリを失ってからの私は、ボロボロだった。
彼女だけが、私の全てだったから。
でも、いなくなってしまった。
私が、守れなかったから。
胸をかき抱くように体を丸める。
何で、こんなに痛いんだろう。
この痛みは、何?
「ここにいたんですね」
突然、ドアの方から声が聞こえた。
驚いてそちらを見ると、ミニーだった。
優しい微笑みを浮かべながら、こちらに歩み寄ってくる。
「ずいぶん探したんですよ。部屋にもいないし、庭にもいないし」
「・・・ごめんなさい」
なんだか、謝らなきゃならないような気分になった。
だが、すぐに考え直す。
別に、私がどこにいようが勝手ではないか。
「ここから、こんなに綺麗な景色が見られるんですね。全然知らなかった」
窓の外を眺めながら、ミニーは呟く。
私は、その横顔をジッと見つめる。
「ミニー。私に何か用?」
「いいえ。そういうわけではないんですが・・・・何となく、話したくなって」
話したい?
私と?
「ミキは高いところが好きなんですね。王様と初めて会ったのも、高い場所だったんでしょう?」
「ええ」
私なんかと話して、何が面白いんだろう。
無理に気を遣ってるなら止めて欲しい。
こっちだって、話してても、疲れるだけだ。
「ミキは、一人になるのが好きなの?」
ミニーはこちらを見上げて、少し首を傾げながら尋ねてくる。
私は、思わず顔を背けた。
・・・何だか、眩しい。
「別に。ただ、誰かといるのが面倒くさいだけ」
「面倒くさい?」
ミニーは怪訝そうな顔をする。
彼女には、分からないのかもしれない。
でも私は、みんなといるのが嫌だ。
「変に気を遣わなきゃいけないし、面白くもないのに作り笑いもしなきゃいけない。面倒くさいだけじゃない。それなら一人でいる方がずっと楽でしょ?」
そう。
作り笑いなんて器用な事、私に出来るわけがない。
眩しすぎるみんなと一緒にいたって、私は目を背けているだけだ。
面白くも何ともないじゃないか。
ミニーは私から目を背けると、ため息を吐いた。
その表情は、少し寂しそうに見えた。
「ミキ」
そう言うと、私の顔を見る。
「どうしてそんなことを言うの? あなたは友達といて、楽しいと思ったことは無いのですか?」
友達―――
友達なんて―――
「友達なんて・・・いないもの」
そう言うと、ミニーから顔を反らす。
彼女は、どんな顔で私を見ているのだろうか。
きっと、哀れみや同情・・・そんなものに違いない。
いらない。
そんなもの、いらない。
どうでもいいんだ。
友達がいようが、いまいが・・・。
ミッキーは友達かもしれないと思ったことはあった。
でも、それだって私が勝手に思い込んでいただけかもしれない。
いや、きっとそうだ。
でも・・・それでも、いい。
私は、一人でも、いい。
「どうして?」
ミニーは、そう尋ねてきた。
思いもしなかった質問に、私は思わず彼女の方を見る。
「え?」
「どうして友達がいないの?」
「どうしてって言われても・・・・」
いないものはいないんだ。
どうしてって言われても困る。
「ミキ」
ミニーは、微笑んだ。
「この城のみんなが、もうあなたの友達ですよ」
『この城に住んでいる人はみんな友達さ』――――――。
前に、そう言われたことがあった。
「友達というのは、お互いのことをそう呼び合う事じゃないの。心が、感じるものなのですよ」
心―――。
じゃあ、私には無理だ。
私は俯くと、自嘲めいた笑みを浮かべる。
心・・・無いもの。
「無理だよ。私には心が無いから――――」
「ねえ、ミキ」
ミニーは、いつになく強い口調で私の言葉を遮った。
強く、それでいて静かな言葉だった。
「ミキは、心を取り戻したいと、本気で思っていますか? 心の中の闇に打ち勝ちたいと、本気で願っていますか?」
「それは・・・・」
言葉が詰まった。
私は、心が欲しい?
感情を取り戻したい?
笑いたい?
「私は――――」
私は、願っていないのかもしれない。
心なんていらない―――。
そう、思っているのかもしれない。
だって、傷つきたくないもの。
心が無ければ、何があったって傷つくことはない。
そう、それで良いんだ。
友達なんていらない。
仲間なんていらない。
他人と深く馴れ合わなければ、傷つくことなんて無いんだから。
だから私は、友達なんて、心なんて、笑顔なんて―――。
いらない。
「・・・ミキ。どんな物でも、求めなければ・・・・強く願わなければ、手に入れることは出来ませんよ」
分かってる。
分かってるよ――――!
「うるさい!!」
なのに、どうして・・・。
どうして、私は――――。
「私は心が欲しいなんて言ったことは一度もない! ここに来たのだって、ただ外の世界が見てみたかっただけなの! あなたに助けて欲しいなんて思っていない! むしろ、迷惑なの! 私は、今のままで良いの! もう、放っておいてよ!!」
どうして、こんな事を叫んでしまうのだろう。
本当は、違うのに。
助けて欲しいのに。
ねえ、助けて。
私を、闇から救い出して。
光の世界へと―――手を差し伸べて。
お願い。
本当は、違うの。
放っておいて欲しくない。
一人にして欲しくない。
ずっと、側にいて欲しい。
いなくなっちゃったから。
私が、守れなかったから。
・・・怖かった。
失うことが、怖かった。
もう、何も、失いたくないの。
もう誰も―――私の前からいなくなって欲しくないの――――!
ミニーが、静かにこちらを見つめている。
でも、もう、遅い。
きっとミニーだって、私の前からいなくなる。
当然・・・だよね。
あんな酷いこと言ったら、誰だって――――。
その時、急に抱き寄せられた。
ミニーが、小さな体を精一杯伸ばして私の体に手を回している。
私を―――包み込んでくれている。
どうして?
きっとあなたを傷付けたはずなのに・・・。
私が、あなたを―――。
「泣かないで・・・」
ミニーは、そう言った。
その時、初めて気がついた。
私の瞳からこぼれ落ちる、たくさんの雫を。
これは・・・涙?
私は、泣いてるの?
・・・・止まらない。
止まってくれない。
心が無いのに――――
どうして涙なんて流れるの?
どうして、
どうして――――!
「どうして、止まらないのよ・・・!」
涙で顔がぐちゃぐちゃになる。
声がまともに出せない。
それでも涙は、こぼれ落ちてゆく。
「止めなくてもいいんですよ」
ミニーはささやいた。
まるで、歌うような口調だった。
「辛いことは隠さないで。自分で自分を傷付けないで。苦しみを、あなただけのものにしないで。苦しみを分け合える。喜びを分け合える。 ・・・それが、『友達』ですよ」
・・・もう、限界だった。
私は、涙が枯れるまで、声をあげて泣き続けた。
大切な、大切な『友達』の温もりを、ずっと側に感じながら――――。
城の暮らしにも慣れてきたし、ここでの生活も悪いものではない。
問題と言えば、相変わらず増えない表情と、あの夢だ。
特に夢の方は深刻だった。
近頃、毎晩のように見るようになってしまったのだ。
同じ夢を、何度も、何度も――――。
朝 起きる度に、カイリを守れなかった悲しみに思い悩んでしまう。
しかし、このことを城の人には打ち明ける気になれなかった。
伏せていた顔を上げると、綺麗に整備された広い庭を見つめる。
ここは、城で一番高い塔のてっぺんの部屋。
普段は使われていないらしく、ほとんど物置と化している。
しかし私は、よくここに来ていた。
やっぱり私は、高いところが好きなのかもしれない。
ゆっくりと目を閉じると、心地よい風が頬をなぞってゆくのを感じる。
ふと、レイディアントガーデンを思い出した。
どこに行っても、風は同じなのかもしれない。
こうして目を閉じていると、今もレイディアントガーデンにいるような、そんな気がしてくる。
エアリスは元気にしてるだろうか。
ユフィや、スコールは・・・。
故郷を長い間離れている内に、少しずつ気づいてきた。
私にとって、彼らは大切な存在だったのではないだろうか。
毎日、迎えに来てくれる彼らを、心のどこかで、私は待っていたのかもしれない。
誰かに必要とされてるって、感じたかったのかもしれない。
そう考えると、急に胸が締め付けられるように苦しくなった。
私は、自分の居場所が欲しかったんだ。
でも、彼らが伸ばしてくれた、優しく温かい手を振り払い続けていた。
なのに、私は、怖かった。
いつか彼らが、迎えに来てくれなくなるんじゃないかって。
迎えに来て欲しいのに、一緒には行かない。
私は、なんて――――
なんて、わがままだったんだろう――――。
胸の痛みが増した。
カイリを失ってからの私は、ボロボロだった。
彼女だけが、私の全てだったから。
でも、いなくなってしまった。
私が、守れなかったから。
胸をかき抱くように体を丸める。
何で、こんなに痛いんだろう。
この痛みは、何?
「ここにいたんですね」
突然、ドアの方から声が聞こえた。
驚いてそちらを見ると、ミニーだった。
優しい微笑みを浮かべながら、こちらに歩み寄ってくる。
「ずいぶん探したんですよ。部屋にもいないし、庭にもいないし」
「・・・ごめんなさい」
なんだか、謝らなきゃならないような気分になった。
だが、すぐに考え直す。
別に、私がどこにいようが勝手ではないか。
「ここから、こんなに綺麗な景色が見られるんですね。全然知らなかった」
窓の外を眺めながら、ミニーは呟く。
私は、その横顔をジッと見つめる。
「ミニー。私に何か用?」
「いいえ。そういうわけではないんですが・・・・何となく、話したくなって」
話したい?
私と?
「ミキは高いところが好きなんですね。王様と初めて会ったのも、高い場所だったんでしょう?」
「ええ」
私なんかと話して、何が面白いんだろう。
無理に気を遣ってるなら止めて欲しい。
こっちだって、話してても、疲れるだけだ。
「ミキは、一人になるのが好きなの?」
ミニーはこちらを見上げて、少し首を傾げながら尋ねてくる。
私は、思わず顔を背けた。
・・・何だか、眩しい。
「別に。ただ、誰かといるのが面倒くさいだけ」
「面倒くさい?」
ミニーは怪訝そうな顔をする。
彼女には、分からないのかもしれない。
でも私は、みんなといるのが嫌だ。
「変に気を遣わなきゃいけないし、面白くもないのに作り笑いもしなきゃいけない。面倒くさいだけじゃない。それなら一人でいる方がずっと楽でしょ?」
そう。
作り笑いなんて器用な事、私に出来るわけがない。
眩しすぎるみんなと一緒にいたって、私は目を背けているだけだ。
面白くも何ともないじゃないか。
ミニーは私から目を背けると、ため息を吐いた。
その表情は、少し寂しそうに見えた。
「ミキ」
そう言うと、私の顔を見る。
「どうしてそんなことを言うの? あなたは友達といて、楽しいと思ったことは無いのですか?」
友達―――
友達なんて―――
「友達なんて・・・いないもの」
そう言うと、ミニーから顔を反らす。
彼女は、どんな顔で私を見ているのだろうか。
きっと、哀れみや同情・・・そんなものに違いない。
いらない。
そんなもの、いらない。
どうでもいいんだ。
友達がいようが、いまいが・・・。
ミッキーは友達かもしれないと思ったことはあった。
でも、それだって私が勝手に思い込んでいただけかもしれない。
いや、きっとそうだ。
でも・・・それでも、いい。
私は、一人でも、いい。
「どうして?」
ミニーは、そう尋ねてきた。
思いもしなかった質問に、私は思わず彼女の方を見る。
「え?」
「どうして友達がいないの?」
「どうしてって言われても・・・・」
いないものはいないんだ。
どうしてって言われても困る。
「ミキ」
ミニーは、微笑んだ。
「この城のみんなが、もうあなたの友達ですよ」
『この城に住んでいる人はみんな友達さ』――――――。
前に、そう言われたことがあった。
「友達というのは、お互いのことをそう呼び合う事じゃないの。心が、感じるものなのですよ」
心―――。
じゃあ、私には無理だ。
私は俯くと、自嘲めいた笑みを浮かべる。
心・・・無いもの。
「無理だよ。私には心が無いから――――」
「ねえ、ミキ」
ミニーは、いつになく強い口調で私の言葉を遮った。
強く、それでいて静かな言葉だった。
「ミキは、心を取り戻したいと、本気で思っていますか? 心の中の闇に打ち勝ちたいと、本気で願っていますか?」
「それは・・・・」
言葉が詰まった。
私は、心が欲しい?
感情を取り戻したい?
笑いたい?
「私は――――」
私は、願っていないのかもしれない。
心なんていらない―――。
そう、思っているのかもしれない。
だって、傷つきたくないもの。
心が無ければ、何があったって傷つくことはない。
そう、それで良いんだ。
友達なんていらない。
仲間なんていらない。
他人と深く馴れ合わなければ、傷つくことなんて無いんだから。
だから私は、友達なんて、心なんて、笑顔なんて―――。
いらない。
「・・・ミキ。どんな物でも、求めなければ・・・・強く願わなければ、手に入れることは出来ませんよ」
分かってる。
分かってるよ――――!
「うるさい!!」
なのに、どうして・・・。
どうして、私は――――。
「私は心が欲しいなんて言ったことは一度もない! ここに来たのだって、ただ外の世界が見てみたかっただけなの! あなたに助けて欲しいなんて思っていない! むしろ、迷惑なの! 私は、今のままで良いの! もう、放っておいてよ!!」
どうして、こんな事を叫んでしまうのだろう。
本当は、違うのに。
助けて欲しいのに。
ねえ、助けて。
私を、闇から救い出して。
光の世界へと―――手を差し伸べて。
お願い。
本当は、違うの。
放っておいて欲しくない。
一人にして欲しくない。
ずっと、側にいて欲しい。
いなくなっちゃったから。
私が、守れなかったから。
・・・怖かった。
失うことが、怖かった。
もう、何も、失いたくないの。
もう誰も―――私の前からいなくなって欲しくないの――――!
ミニーが、静かにこちらを見つめている。
でも、もう、遅い。
きっとミニーだって、私の前からいなくなる。
当然・・・だよね。
あんな酷いこと言ったら、誰だって――――。
その時、急に抱き寄せられた。
ミニーが、小さな体を精一杯伸ばして私の体に手を回している。
私を―――包み込んでくれている。
どうして?
きっとあなたを傷付けたはずなのに・・・。
私が、あなたを―――。
「泣かないで・・・」
ミニーは、そう言った。
その時、初めて気がついた。
私の瞳からこぼれ落ちる、たくさんの雫を。
これは・・・涙?
私は、泣いてるの?
・・・・止まらない。
止まってくれない。
心が無いのに――――
どうして涙なんて流れるの?
どうして、
どうして――――!
「どうして、止まらないのよ・・・!」
涙で顔がぐちゃぐちゃになる。
声がまともに出せない。
それでも涙は、こぼれ落ちてゆく。
「止めなくてもいいんですよ」
ミニーはささやいた。
まるで、歌うような口調だった。
「辛いことは隠さないで。自分で自分を傷付けないで。苦しみを、あなただけのものにしないで。苦しみを分け合える。喜びを分け合える。 ・・・それが、『友達』ですよ」
・・・もう、限界だった。
私は、涙が枯れるまで、声をあげて泣き続けた。
大切な、大切な『友達』の温もりを、ずっと側に感じながら――――。