闇という名の光
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その日の夕方。
私はやっと、城の中をすべて案内してもらえた。
本当に、城の中は広かった。
昨日連れて行ってもらった書斎から始まり、目眩がするほどたくさんの本が置いてある図書室、キッチン、ダンスルームその他諸々と続き、最後は今まで見たことがないほど広い庭だった。
思っていたよりもたくさんの部屋があり、正直すべて覚えるなんて不可能だと思う。
夕焼けが眩しくなってきた庭を二人で歩きながらそう言うと、王様はくすくすと笑った。
「すぐに覚える必要なんてないよ。これからゆっくり慣れていけばいいのさ」
・・・そうか。
私はこれからずっと、この城に住ませてもらえるんだ。
何だか、実感がわかなかった。
しかし考えてみると、十二年も住んでいた街を抜け出して初めてやってきた外の世界なんだ。
そう感じるのも、無理もないかもしれない。
「あそこに座ろうか。ずっと歩きっぱなしで疲れただろう?」
王様の指差す先には、小さな噴水があった。
その周りを取り囲むように色とりどりの薔薇の花が咲き乱れている、とても綺麗な場所だ。
そこに置いてあるベンチに、私と王様は腰掛けた。
穏やかな夕暮れの風が、二人の頬を優しく撫でる。
―――本当に、綺麗な夕焼けだった。
私は思わず目を細める。
夕暮れ時は、嫌いじゃない。
一日が終わる空しさや切なさが心にのし掛かってくるのを感じると、私にも心があると実感できるのだ。
同時に、そんなことでしか心の存在を感じられない自分が、少し寂しくもなる。
「綺麗だね。僕もこんなに綺麗な夕焼けは久しぶりに見たよ」
王様が呟くように言う。
夕暮れ・・・黄昏・・・
光と闇の狭間―――
「これから、闇の時間が近づいてくるのね・・・」
「怖いのかい?」
恐怖
「・・・分からない」
そんな感情は、とうの昔に忘れてしまった。
いや、元々無かったのか。
王様は私から視線を反らすと、再び美しい夕日を見つめた。
もう大分、沈みかけている。
「僕はね、ずっと、闇は存在してはいけないものだと思っていたんだ」
私は、軽く肩を揺らす。
「闇は人の心を奪い、闇に染め、そして最後は・・・その人そのものを飲み込んでしまう。そんな恐ろしい力は絶対に存在してはいけない―――ってね」
私は、地面に視線を下ろす。
その通りだ。
闇は、存在してはいけないもの。
存在を許されないもの。
闇がある限り、光に満ちた世界は存在しない。
私は下唇を噛むと、膝の上の拳をきつく握った。
光の世界に、闇は必要ないんだ。
闇なんて―――私なんて―――。
「でも、君に会って考えが変わったんだ」
王様の言葉に、私は顔を上げる。
王様は、微笑んでいた。
「確かに、闇は人を滅ぼすかもしれない。とても恐ろしい力だ。でもね、君は闇の存在なのに、こんなにも温かい。ミキの側にいると、闇も世界には必要な力なんじゃないかって思えてくるんだ」
闇が必要?
そんなこと――――。
「私は、闇なんていらないと思ってる。暗くて、寂しくて、空しいだけ」
「でも、光があるところには必ず闇があるんだよ」
王様は続ける。
「考えてごらん。光だけが存在する世界でも、人が現れればそこに影が出来る。これが闇だ。でも、人の影を消すなんて不可能だろう? 闇の世界でも同じ。光が無かったら、闇は出来ないんだから。 ね?光と闇は絶対に切り離せない存在なんだ」
光と闇―――。
不意に、カイリのことが頭をよぎった。
でも彼女には、闇は――――私は、必要だったんだろうか?
あんなに眩しい光でも、闇は必要なのだろうか?
闇には光は必要だ。
でも、光は?
闇なんているの?
「無理に理解しようとしなくてもいいよ。君もいつかきっと、自分の答を見つけるだろうから」
私が悩んでいるのを察したのか、王様は言った。
今の私には、王様の言葉は理解できなかった。
私には、難しすぎる。
不思議な沈黙が二人を包んだ。
私から、何か話さないといけないのだろうか。
ふと、二人の周りに咲き乱れる薔薇が目に入った。
本当に、綺麗に咲いている。
「・・・昔、エアリスにミキは薔薇みたいだって言われたことがあるの」
「エアリスって、栗色の髪をしてピンクのリボンを付けた女の子だよね?」
「うん」
レイディアントガーデンで知り合ったのだろうか。
王様がエアリスの事を知っていたのは少し意外だった。
エアリスは何か不思議な力を持っているらしいが、詳しいことは私もよく分からない。
でも、とても神秘的な女性だった。
「凄く綺麗で、見ていると心が和むけど、近づきすぎるとトゲが刺さってしまう。でも、薔薇は人を傷付けるつもりなんて全く無い。逆に、誰も傷付けたくないと思っている。だから、人目に付かないところでひっそりと咲いてる薔薇は―――私そっくりだって」
何故か王様は、くすくすと笑っていた。
私は少し眉をひそめる。
「どうして笑うの?」
「ごめんごめん。その通りだなって思ったんだ」
王様はこちらを見て微笑んだ。
「ミキが薔薇なら、あのユフィって子は向日葵かな」
「ユフィも知ってるの?」
少し目を丸くする私を見ながら、王様はうなずいた。
「レイディアントガーデンでね、エアリスとユフィとスコールに会ったんだ。あの街のことを色々詳しく教えてくれたよ。彼らはミキの友達なの?」
友達、なんだろうか。
エアリスは姉のような存在だが、ユフィは?
スコールは?
そもそも、友達って何だろう。
「・・・分からない」
俯く私を、王様は少し心配そうな瞳で見つめる。
「ごめん、嫌な事を聞いちゃったかな」
ううん、違うの―――。
私は、声には出さずに呟いた。
王様が謝る事、ないのに。
・・・認めたく、なかったのかもしれない。
あの街で、私は友達という存在がいなかったことを。
「王様は、友達っている?」
彼は、少し驚いたみたいだった。
「うん、沢山いるよ。この城に住んでる人はみんな友達さ。あっ、でも、ミニーはちょっと違うかな」
そう言いながら、少し照れたように頬を掻く。
そっか・・・
王様に、友達がいないわけがない。
「ごめんなさい。変な質問しちゃった」
「ううん、気にすることないよ。それより、そろそろ城に戻ろう。日も沈んじゃったみたいだしね」
確かに、もう夕日は見えなくなっていた。
先に歩き出した王様の後を追うために、私も立ち上がる。
「あっ、ミキ」
不意に王様は立ち止まり、こちらを振り向いた。
「僕のこと、王様じゃなくてミッキーって呼んでくれないかな? 城のみんなは恐縮してそう呼んでくれないんだ。君なら、呼んでくれるよね?」
ミッキー。
そう呼んだら、彼はもう私の友達と呼べる存在なのだろうか。
なにせ、友達というのが何なのかをよく分かってないのだから、分かるはずがない。
でも、きっと
「うん・・・ミッキー」
きっとこれを、友達って言うんだ。
そう考えると、少しだけ胸が温かくなったような気がした。
私はやっと、城の中をすべて案内してもらえた。
本当に、城の中は広かった。
昨日連れて行ってもらった書斎から始まり、目眩がするほどたくさんの本が置いてある図書室、キッチン、ダンスルームその他諸々と続き、最後は今まで見たことがないほど広い庭だった。
思っていたよりもたくさんの部屋があり、正直すべて覚えるなんて不可能だと思う。
夕焼けが眩しくなってきた庭を二人で歩きながらそう言うと、王様はくすくすと笑った。
「すぐに覚える必要なんてないよ。これからゆっくり慣れていけばいいのさ」
・・・そうか。
私はこれからずっと、この城に住ませてもらえるんだ。
何だか、実感がわかなかった。
しかし考えてみると、十二年も住んでいた街を抜け出して初めてやってきた外の世界なんだ。
そう感じるのも、無理もないかもしれない。
「あそこに座ろうか。ずっと歩きっぱなしで疲れただろう?」
王様の指差す先には、小さな噴水があった。
その周りを取り囲むように色とりどりの薔薇の花が咲き乱れている、とても綺麗な場所だ。
そこに置いてあるベンチに、私と王様は腰掛けた。
穏やかな夕暮れの風が、二人の頬を優しく撫でる。
―――本当に、綺麗な夕焼けだった。
私は思わず目を細める。
夕暮れ時は、嫌いじゃない。
一日が終わる空しさや切なさが心にのし掛かってくるのを感じると、私にも心があると実感できるのだ。
同時に、そんなことでしか心の存在を感じられない自分が、少し寂しくもなる。
「綺麗だね。僕もこんなに綺麗な夕焼けは久しぶりに見たよ」
王様が呟くように言う。
夕暮れ・・・黄昏・・・
光と闇の狭間―――
「これから、闇の時間が近づいてくるのね・・・」
「怖いのかい?」
恐怖
「・・・分からない」
そんな感情は、とうの昔に忘れてしまった。
いや、元々無かったのか。
王様は私から視線を反らすと、再び美しい夕日を見つめた。
もう大分、沈みかけている。
「僕はね、ずっと、闇は存在してはいけないものだと思っていたんだ」
私は、軽く肩を揺らす。
「闇は人の心を奪い、闇に染め、そして最後は・・・その人そのものを飲み込んでしまう。そんな恐ろしい力は絶対に存在してはいけない―――ってね」
私は、地面に視線を下ろす。
その通りだ。
闇は、存在してはいけないもの。
存在を許されないもの。
闇がある限り、光に満ちた世界は存在しない。
私は下唇を噛むと、膝の上の拳をきつく握った。
光の世界に、闇は必要ないんだ。
闇なんて―――私なんて―――。
「でも、君に会って考えが変わったんだ」
王様の言葉に、私は顔を上げる。
王様は、微笑んでいた。
「確かに、闇は人を滅ぼすかもしれない。とても恐ろしい力だ。でもね、君は闇の存在なのに、こんなにも温かい。ミキの側にいると、闇も世界には必要な力なんじゃないかって思えてくるんだ」
闇が必要?
そんなこと――――。
「私は、闇なんていらないと思ってる。暗くて、寂しくて、空しいだけ」
「でも、光があるところには必ず闇があるんだよ」
王様は続ける。
「考えてごらん。光だけが存在する世界でも、人が現れればそこに影が出来る。これが闇だ。でも、人の影を消すなんて不可能だろう? 闇の世界でも同じ。光が無かったら、闇は出来ないんだから。 ね?光と闇は絶対に切り離せない存在なんだ」
光と闇―――。
不意に、カイリのことが頭をよぎった。
でも彼女には、闇は――――私は、必要だったんだろうか?
あんなに眩しい光でも、闇は必要なのだろうか?
闇には光は必要だ。
でも、光は?
闇なんているの?
「無理に理解しようとしなくてもいいよ。君もいつかきっと、自分の答を見つけるだろうから」
私が悩んでいるのを察したのか、王様は言った。
今の私には、王様の言葉は理解できなかった。
私には、難しすぎる。
不思議な沈黙が二人を包んだ。
私から、何か話さないといけないのだろうか。
ふと、二人の周りに咲き乱れる薔薇が目に入った。
本当に、綺麗に咲いている。
「・・・昔、エアリスにミキは薔薇みたいだって言われたことがあるの」
「エアリスって、栗色の髪をしてピンクのリボンを付けた女の子だよね?」
「うん」
レイディアントガーデンで知り合ったのだろうか。
王様がエアリスの事を知っていたのは少し意外だった。
エアリスは何か不思議な力を持っているらしいが、詳しいことは私もよく分からない。
でも、とても神秘的な女性だった。
「凄く綺麗で、見ていると心が和むけど、近づきすぎるとトゲが刺さってしまう。でも、薔薇は人を傷付けるつもりなんて全く無い。逆に、誰も傷付けたくないと思っている。だから、人目に付かないところでひっそりと咲いてる薔薇は―――私そっくりだって」
何故か王様は、くすくすと笑っていた。
私は少し眉をひそめる。
「どうして笑うの?」
「ごめんごめん。その通りだなって思ったんだ」
王様はこちらを見て微笑んだ。
「ミキが薔薇なら、あのユフィって子は向日葵かな」
「ユフィも知ってるの?」
少し目を丸くする私を見ながら、王様はうなずいた。
「レイディアントガーデンでね、エアリスとユフィとスコールに会ったんだ。あの街のことを色々詳しく教えてくれたよ。彼らはミキの友達なの?」
友達、なんだろうか。
エアリスは姉のような存在だが、ユフィは?
スコールは?
そもそも、友達って何だろう。
「・・・分からない」
俯く私を、王様は少し心配そうな瞳で見つめる。
「ごめん、嫌な事を聞いちゃったかな」
ううん、違うの―――。
私は、声には出さずに呟いた。
王様が謝る事、ないのに。
・・・認めたく、なかったのかもしれない。
あの街で、私は友達という存在がいなかったことを。
「王様は、友達っている?」
彼は、少し驚いたみたいだった。
「うん、沢山いるよ。この城に住んでる人はみんな友達さ。あっ、でも、ミニーはちょっと違うかな」
そう言いながら、少し照れたように頬を掻く。
そっか・・・
王様に、友達がいないわけがない。
「ごめんなさい。変な質問しちゃった」
「ううん、気にすることないよ。それより、そろそろ城に戻ろう。日も沈んじゃったみたいだしね」
確かに、もう夕日は見えなくなっていた。
先に歩き出した王様の後を追うために、私も立ち上がる。
「あっ、ミキ」
不意に王様は立ち止まり、こちらを振り向いた。
「僕のこと、王様じゃなくてミッキーって呼んでくれないかな? 城のみんなは恐縮してそう呼んでくれないんだ。君なら、呼んでくれるよね?」
ミッキー。
そう呼んだら、彼はもう私の友達と呼べる存在なのだろうか。
なにせ、友達というのが何なのかをよく分かってないのだから、分かるはずがない。
でも、きっと
「うん・・・ミッキー」
きっとこれを、友達って言うんだ。
そう考えると、少しだけ胸が温かくなったような気がした。