闇
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
予想通り、彼は乗り物に乗ってきていた。
今まで見たことがない形をしたものだ。
何となく、飛行機のようにも見える。
彼がその中に入っていたのと同時に、私も隠れていた物陰から飛び出し、それに向かって走り出した。
扉は閉まりかけていたが、ぎりぎりのところで滑り込む。
中は、思っていたより広かった。
たくさんの機械がガシャンガシャンと音を立てながら忙しそうに動いており、所々から白い煙が上がっている。
今まで見たことのない機械に目を奪われていると、急に乗り物が動き出した。
軽い衝撃に、少しだけよろめく。
しかし乗り物はすぐに安定を取り戻し、前進を始めたようだった。
私はゆっくりと歩き出すと、上へと続いている梯子へ手を伸ばす。
すぐに上に着いてしまうと、様子を窺うために顔を半分だけ出し、辺りを見回す。
彼は、操縦席に座っていた。
こちらに背を向けているため、私の存在には気付いていないようだ。
私は気付かれないようにそっと上へ上がった。
その時だった。
「きゃっ!」
いきなり何かが凄い勢いで飛びついてきて、私は体勢を崩した。
そのまま床に倒れ込むと、飛びついてきたものは私の上に乗っかり、頬を舐めてくる。
それは、黄色い犬だった。
黒い鼻と耳が特徴的で、赤い首輪をしている。
犬はこちらに向かって嬉しそうに尻尾を振ると、ワン!と一度だけ咆えた。
「プルート!」
この騒ぎに気付かないはずもなく、操縦席に座っていた彼が犬の名前を呼びながら駆け寄ってきた。
私の姿を見つけ、目を丸くする。
「君は・・・! どうしてここにいるんだい!?」
「あ、えっと・・・」
ようやくプルートが退いてくれたので立ち上がったが、彼の問いに口ごもってしまう。
「君を招待した覚えはないよ?」
彼は厳しい表情で、こちらを睨んでいた。
思わず、顔を背ける。
「あの・・・ごめんなさい。でも私、街の外へ行ってみたかったの。あなたが遠いところから来たって言ってたから、連れて行ってもらおうと思って・・・」
しばらくの間、沈黙が続く。
静寂を破ったのは、彼の深いため息だった。
「外を見てごらん」
半ば諦めたような口調で、彼は言った。
私は窓の方へ歩み寄る。
「うわぁ・・・・」
目の前に広がる光景に、思わず目を見開いて歓声を上げる。
そこは、星の海だった。
たくさんの光り輝く星々が黒い空間に浮かんでおり、それぞれが異なった形をしているのがかすかに見える。
その星の海の中を、この船は進んでいた。
とても美しい、幻想的な光景だった。
「驚いたかい? あの星には一つ一つ、違う世界があるんだよ」
「世界が? 私の住んでいた街とは違う世界があるの?」
彼を見ながら尋ねる。
彼はもう、怒っていないようだった。
「そうさ。世界は一つじゃない。君の知らない世界が、まだまだ沢山あるんだ」
「これが全部、私の知らない世界・・・・」
窓の外には、本当にたくさんの星が輝いている。
これが全部、世界だなんて・・・信じられなかった。
それ以前に、自分の住んでいた場所以外にも世界があるなんて、考えたこともなかった。
「じゃあ、あなたは他の世界の人?」
「うん。ディズニーキャッスルっていう城に住んでる」
「この船もそこへ向かっているの?」
答える代わりに、彼は優しく微笑んだ。
「これはね、グミシップっていうんだ。他の世界に行くときは、これに乗らないと行けない」
「すごい・・・」
私はただ、感嘆することしか出来なかった。
外の世界。
今まで行ったことのないような素晴らしい世界。
何かが、私の中で動き出したような気がした。
「まだお互い、名前を聞いてなかったね」
彼はこちらに右手を伸ばしてくる。
「僕はミッキー。みんなには王様って呼ばれてるけどね。君は?」
私も右手を伸ばし、彼の手を握る。
「私はミキ。でも、あなた・・・王様?」
「うん、僕はディズニーキャッスルの王なんだ」
私は、疑わしげな視線を彼へ向ける。
一国の王様が、世界を渡ったりなんかするものなのだろうか。
そんな私の考えを読み取ったのか、王様はふふっと笑った。
「信じられない? でも、きっとすぐに分かるよ。それより―――」
先ほどとは一転し、真面目な表情に戻る。
「ミキ。君は街を出てきても大丈夫なのかい? もし、みんなが心配していたら・・・」
心配そうな顔をする彼から目をそらすと、私は再び窓の外を見た。
その瞳は、先ほどのように輝いていなかった。
「いいの。誰も、私の事なんて必要としてないから」
王様からの返事はない。
何と言えばいいか、迷っているようにも見えた。
不意に彼は、こちらを向いた。
「ミキ。君は、笑ったことはあるかい?」
普通の人にしてみたら、馬鹿げた質問かもしれない。
でも私は、しばらく考えてから俯くと、首を横に振った。
「・・・ない」
「そっか」
彼も視線を窓の外へ移すと、軽く俯いた。
思い返した過去の中に、私が笑った記憶はなかった。
もちろん、軽く笑みを浮かべたことぐらいはある。
でも、心の底から笑ったことは、一度もなかった。
「ねえミキ、僕の城へおいでよ。多分、君の心は闇に負けてるんだと思う」
彼は今までにない真剣な面持ちでこちらを見ながら、続けた。
「誰にも負けない、強い、優しい心を持ってるのに、君の心の中には感情がない。 ・・・きっと、本来感情があるべき場所が、闇で埋められちゃってるんだ」
なぜか、納得することが出来た。
私は、いつの間にか闇に染まってしまってた。
「でもそれは、君が感情を・・・・怒ったり、泣いたり、笑ったり、悲しんだりすることを知らないだけだよ。先に闇が入っちゃったからね。きっと、笑うことを覚えたらすぐに笑えるようになる。感情は、取り戻すことが出来る。後は、君がそんな場面に出会うだけだ」
そこまで言うと、彼はこちらに向かって微笑みかけた。
「僕たちの世界に来れば、きっと笑顔を覚えられるよ」
私は彼から視線をそらすと、窓の外を見た。
見渡す限り、星が――――世界が、広がっている。
きっと、素晴らしい世界が私を待っている。
きっと、本当の自分を見つけることが出来る。
「――――うん」
私は小さく頷きながら、呟くようにそう言った。
今まで見たことがない形をしたものだ。
何となく、飛行機のようにも見える。
彼がその中に入っていたのと同時に、私も隠れていた物陰から飛び出し、それに向かって走り出した。
扉は閉まりかけていたが、ぎりぎりのところで滑り込む。
中は、思っていたより広かった。
たくさんの機械がガシャンガシャンと音を立てながら忙しそうに動いており、所々から白い煙が上がっている。
今まで見たことのない機械に目を奪われていると、急に乗り物が動き出した。
軽い衝撃に、少しだけよろめく。
しかし乗り物はすぐに安定を取り戻し、前進を始めたようだった。
私はゆっくりと歩き出すと、上へと続いている梯子へ手を伸ばす。
すぐに上に着いてしまうと、様子を窺うために顔を半分だけ出し、辺りを見回す。
彼は、操縦席に座っていた。
こちらに背を向けているため、私の存在には気付いていないようだ。
私は気付かれないようにそっと上へ上がった。
その時だった。
「きゃっ!」
いきなり何かが凄い勢いで飛びついてきて、私は体勢を崩した。
そのまま床に倒れ込むと、飛びついてきたものは私の上に乗っかり、頬を舐めてくる。
それは、黄色い犬だった。
黒い鼻と耳が特徴的で、赤い首輪をしている。
犬はこちらに向かって嬉しそうに尻尾を振ると、ワン!と一度だけ咆えた。
「プルート!」
この騒ぎに気付かないはずもなく、操縦席に座っていた彼が犬の名前を呼びながら駆け寄ってきた。
私の姿を見つけ、目を丸くする。
「君は・・・! どうしてここにいるんだい!?」
「あ、えっと・・・」
ようやくプルートが退いてくれたので立ち上がったが、彼の問いに口ごもってしまう。
「君を招待した覚えはないよ?」
彼は厳しい表情で、こちらを睨んでいた。
思わず、顔を背ける。
「あの・・・ごめんなさい。でも私、街の外へ行ってみたかったの。あなたが遠いところから来たって言ってたから、連れて行ってもらおうと思って・・・」
しばらくの間、沈黙が続く。
静寂を破ったのは、彼の深いため息だった。
「外を見てごらん」
半ば諦めたような口調で、彼は言った。
私は窓の方へ歩み寄る。
「うわぁ・・・・」
目の前に広がる光景に、思わず目を見開いて歓声を上げる。
そこは、星の海だった。
たくさんの光り輝く星々が黒い空間に浮かんでおり、それぞれが異なった形をしているのがかすかに見える。
その星の海の中を、この船は進んでいた。
とても美しい、幻想的な光景だった。
「驚いたかい? あの星には一つ一つ、違う世界があるんだよ」
「世界が? 私の住んでいた街とは違う世界があるの?」
彼を見ながら尋ねる。
彼はもう、怒っていないようだった。
「そうさ。世界は一つじゃない。君の知らない世界が、まだまだ沢山あるんだ」
「これが全部、私の知らない世界・・・・」
窓の外には、本当にたくさんの星が輝いている。
これが全部、世界だなんて・・・信じられなかった。
それ以前に、自分の住んでいた場所以外にも世界があるなんて、考えたこともなかった。
「じゃあ、あなたは他の世界の人?」
「うん。ディズニーキャッスルっていう城に住んでる」
「この船もそこへ向かっているの?」
答える代わりに、彼は優しく微笑んだ。
「これはね、グミシップっていうんだ。他の世界に行くときは、これに乗らないと行けない」
「すごい・・・」
私はただ、感嘆することしか出来なかった。
外の世界。
今まで行ったことのないような素晴らしい世界。
何かが、私の中で動き出したような気がした。
「まだお互い、名前を聞いてなかったね」
彼はこちらに右手を伸ばしてくる。
「僕はミッキー。みんなには王様って呼ばれてるけどね。君は?」
私も右手を伸ばし、彼の手を握る。
「私はミキ。でも、あなた・・・王様?」
「うん、僕はディズニーキャッスルの王なんだ」
私は、疑わしげな視線を彼へ向ける。
一国の王様が、世界を渡ったりなんかするものなのだろうか。
そんな私の考えを読み取ったのか、王様はふふっと笑った。
「信じられない? でも、きっとすぐに分かるよ。それより―――」
先ほどとは一転し、真面目な表情に戻る。
「ミキ。君は街を出てきても大丈夫なのかい? もし、みんなが心配していたら・・・」
心配そうな顔をする彼から目をそらすと、私は再び窓の外を見た。
その瞳は、先ほどのように輝いていなかった。
「いいの。誰も、私の事なんて必要としてないから」
王様からの返事はない。
何と言えばいいか、迷っているようにも見えた。
不意に彼は、こちらを向いた。
「ミキ。君は、笑ったことはあるかい?」
普通の人にしてみたら、馬鹿げた質問かもしれない。
でも私は、しばらく考えてから俯くと、首を横に振った。
「・・・ない」
「そっか」
彼も視線を窓の外へ移すと、軽く俯いた。
思い返した過去の中に、私が笑った記憶はなかった。
もちろん、軽く笑みを浮かべたことぐらいはある。
でも、心の底から笑ったことは、一度もなかった。
「ねえミキ、僕の城へおいでよ。多分、君の心は闇に負けてるんだと思う」
彼は今までにない真剣な面持ちでこちらを見ながら、続けた。
「誰にも負けない、強い、優しい心を持ってるのに、君の心の中には感情がない。 ・・・きっと、本来感情があるべき場所が、闇で埋められちゃってるんだ」
なぜか、納得することが出来た。
私は、いつの間にか闇に染まってしまってた。
「でもそれは、君が感情を・・・・怒ったり、泣いたり、笑ったり、悲しんだりすることを知らないだけだよ。先に闇が入っちゃったからね。きっと、笑うことを覚えたらすぐに笑えるようになる。感情は、取り戻すことが出来る。後は、君がそんな場面に出会うだけだ」
そこまで言うと、彼はこちらに向かって微笑みかけた。
「僕たちの世界に来れば、きっと笑顔を覚えられるよ」
私は彼から視線をそらすと、窓の外を見た。
見渡す限り、星が――――世界が、広がっている。
きっと、素晴らしい世界が私を待っている。
きっと、本当の自分を見つけることが出来る。
「――――うん」
私は小さく頷きながら、呟くようにそう言った。