闇
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真っ暗だった。
何もない。
誰もいない。
真っ暗だった、私の心。
なにも感じない。
嬉しいとも、辛いとも、悲しいとも、何も。
そんな私に話しかけてくる人たちは、みんなバカだと思う。
「ね、ミキ。今日こそ、一緒に遊ぼ? 町に行ってさ、買い物とかして・・・」
どうして、わざわざこんな場所にまで来て、私を誘おうとするのだろう。
ここは、この街で一番高い塔の一室。
今は廃墟と化していて、コンクリートや鉄の柱が剥き出しになっている。
でもなぜか、私はここが好きだった。
「ね、行こう?」
汚れのない純粋な笑みを浮かべながら、彼女はこちらに手を差し伸べてくる。
私はそれを横目で見るものの、すぐにそっぽを向いた。
どうしてろくに話も聞こうとしない私に向かって、こんなに純粋な笑顔を浮かべられるのだろう。
「・・・行かない」
私は一言だけ、そう呟くと、再び窓の外に目をやる。
彼女はさすがに少し傷ついたような表情を浮かべたが、すぐに先ほどの笑顔に戻った。
「そっか。でも、明日は絶対遊ぼうねっ!」
そう言うと、少し離れた場所で待っていた仲間の方へ駆け出す。
彼女の名は、ユフィ。
そして彼女が走って行った先にいる二人が、エアリスとスコール。
三人は、この街でも特別仲が良いようだ。
・・・まあ、私の知ったことではないが。
ユフィが二人に向かってうなだれたように軽く首を横に振ると、三人は部屋から出て行った。
再び、部屋に沈黙が訪れる。
部屋の中に入り込んでくる風が、少し長めに伸ばした黒髪を揺らした。
いつもの場所から見下ろす見慣れた街の風景は、やはりいつもと代わり映えはしなかった。
でも何故か、ここへ来てしまう。
私は、自分のことがよく分からない。
こんなにひどい態度を取る私を何度も何度も迎えに来てくれる優しい彼らを、どうしてはね除けようとするのだろう。
どうして、こんな所で景色なんか眺めているんだろう。
どうして、怒りや喜びや悲しみを感じないんだろう。
でも、答えを見つけようともしない自分が、少し不思議に思えてくる。
私はただ、マリンブルーの瞳で何の変哲もない故郷を見下ろしているだけだった。
ゆっくりと目を閉じ、何の物音もしない静かな空間に身を委ねようとする。
・・・本当に、静かだ。
どれくらいの間、そうしていただろうか。
背後に気配を感じた。
またユフィ達が誘いに来たのかと思い、私はそちらを向こうともしなかった。
しかし、
「驚いたなぁ。まさか、こんな女の子だとは思わなかったよ」
・・・それは、今まで聞いたことのない声だった。
妙に甲高い。
とっさにふり向くと、そこには小さな体の生き物が立っていた。
小さいと言っても、私の身長の半分よりは少し高いぐらいだ。
彼は赤い服に身を包んでいたが、肌は黒が基調だった。
特徴的なのは、大きな耳だ。
頭の上に、真ん丸の耳が二つ付いている。
私が驚いた表情を浮かべているのに気づいたのか、彼は優しい笑みを浮かべた。
「驚かせてごめん。でも、強い闇の気配を感じて来てみたら、君がいたんだ」
「闇?」
闇の気配?
私は首を傾げる。
何のことだろう。
闇の気配・・・私から出ている?
「うん、闇。君は闇の存在なのかい?」
「私は・・・」
そこで一度、話を切った。
軽く俯くと、自嘲めいた表情を浮かべる。
「・・・そうなのかもしれない」
すると今度は、彼が目を丸くした。
「自覚がないの?」
自覚なんてない。
でも、何となく、そんな気がしていた。
みんなと関わりを持たないのも、彼らが私には眩しすぎるからかもしれない。
「でも、君の闇は優しい闇だよ」
意味がわからず、私は首を傾げながら彼を見た。
彼は、微笑んでいた。
「闇はね、すごく怖いんだ。少しでも気を許すと、すぐに飲み込まれてしまう。でもね、君の闇はそうじゃない。とても、温かいんだよ」
私の闇が、温かい?
「でも私は、近寄ってくる人をみんな傷つけてしまう」
「それは、君の意志じゃないんだろう? 君はきっと、人と接するのに慣れてないだけだ。君の闇はね、闇の奥に必ずある光を強調している。闇本来の姿を示したものが、君の存在なのかもしれない」
ますます訳が分からなくなり、私は再び首を傾げる。
そんな私の仕草を見て、彼は微笑んだ。
「つまり、君の闇は僕が今まで会ってきた悪い闇とは違う、優しい闇なんだ。君の闇は絶対に人を傷付けたりはしない。ハートレスなんかとは違う、でもとても強い闇」
「闇・・・」
私は自分の両手を見つめる。
闇・・・闇の、力―――。
その時、何かの気配を感じ、ふっと顔を上げた。
「どうしたんだい?」
そう尋ねる彼の背後に、幾重もの黒い固まりが地面から這い出るように現れた。
「ハートレス・・・!!」
私の言葉に、彼も驚いたように後ろを向く。
ハートレス達は地面から這い出て、私たちを取り囲むように立っていた。
ハートレスの中でも一番弱いとされている、シャドウと呼ばれる種類のものだ。
数は、十体ほどだろうか。
そのすべてが、輝く黄色の瞳でこちらを見ながら、体をゆらゆら揺らしている光景は、かなり気味が悪かった。
私はとっさに、ベルトに装備してあった自分の身長より少しだけ長いロッドを抜くと、いつもと同じように構える。
「戦えるのかい?」
「ええ」
よく見ると、彼も剣を手に持っていた。
「なら、そっちの半分をお願い! 僕はこっちを―――」
彼が言い終わらないうちに、ハートレスはこちらに飛びかかってきた。
私は飛び上がって避けると、間をおかずに素早くロッドを振るう。
私のその一撃だけで、何体かのハートレスは呆気なく消え去った。
とっさに彼の方を見ると、俊敏な動きでハートレスの間を飛び回り、剣を振り回しながら一体一体着実に消し去っていた。
不意に、彼がこちらを向いた。
「危ない!」
彼の叫び声に弾かれるように振り向くと、五,六体のハートレスがこちらに飛びかかってくるところだった。
しかし私は、慌てなかった。
ロッドを持っている右腕を高々と掲げると、何もなかったところから、ハートレス達を巻き込むように竜巻が現れる。
それは勢いを緩める事なく彼の方にいたハートレスも巻き込むと、ハートレスごと消滅した。
再び、部屋に静寂が訪れる。
何事もなかったかのような顔でロッドをしまうと、再び窓に腰掛けた。
彼は、先ほどよりも目を真ん丸にして、こちらを見つめる。
「君は魔法を使えるの?」
「・・・いいえ」
魔法、とは言わないのだろう。
なにせ、風の力しか扱えない。
「うん、確かに魔法なんかよりはよっぽど強い力だったけど・・・」
「生まれつき使えるの。どうしてなのかは私にも分からない」
私は窓の外を見たまま、そう答えた。
実際、そうなのだ。
なぜ使えるのかも、どうして風の力なのかも分からない。
分かっているのは、魔法ではないということだけ。
でも私は、この能力のおかげで戦えるようになった。
ユフィとスコールも腕に自信があるようだが、ユフィはもちろん、男のスコールにも勝つ自信がある。
「そうか・・・不思議だね」
考え深げな口調で、彼は言った。
ふと私は、彼の方を向いた。
さっきからずっと、気になっていた事がある。
「ねえ、あなた、この街の人?」
「ううん、違うよ。僕は、賢者アンセムに会いに来たんだ」
「賢者アンセム・・・」
聞いたことがある。
噂程度でしかないが、彼はこの町を管理するシステムを開発した人らしい。
とても偉い人だ。
「なら、あなたはどこから来たの?」
「もっと、ずっと遠いところから」
「そう・・・」
その時、不意に思い立った。
ここじゃない所に行ってみたい。
こんなちっぽけな街から飛び出して、世界を見てみたい。
「じゃあ、僕はそろそろ行くよ。君に会えてよかった」
それだけ言い残すと、彼は部屋から出て行こうとする。
しかし私は、呼び止めなかった。
連れて行って欲しいとは言わなかった。
だって、そんなこと言ったら反対されるに決まってる。
だから、忍び込むんだ。
遠くから来たんだったら、きっと彼は乗り物に乗ってきたはず。
その中にこっそり潜り込めば―――。
私は彼が部屋から出て行ったのを横目で確認すると、気づかれないように彼の後を追って歩き出した。
別に、この街から離れることに後悔はない。
だって私は、この街では誰からも必要とはされていないんだから。
一瞬、彼ら―――ユフィとスコールとエアリスの顔が脳裏に浮かんだが、すぐに消し去った。
そう、必要とはされていないんだ。
私なんて、いらない存在なんだ。
きっと―――。
何もない。
誰もいない。
真っ暗だった、私の心。
なにも感じない。
嬉しいとも、辛いとも、悲しいとも、何も。
そんな私に話しかけてくる人たちは、みんなバカだと思う。
「ね、ミキ。今日こそ、一緒に遊ぼ? 町に行ってさ、買い物とかして・・・」
どうして、わざわざこんな場所にまで来て、私を誘おうとするのだろう。
ここは、この街で一番高い塔の一室。
今は廃墟と化していて、コンクリートや鉄の柱が剥き出しになっている。
でもなぜか、私はここが好きだった。
「ね、行こう?」
汚れのない純粋な笑みを浮かべながら、彼女はこちらに手を差し伸べてくる。
私はそれを横目で見るものの、すぐにそっぽを向いた。
どうしてろくに話も聞こうとしない私に向かって、こんなに純粋な笑顔を浮かべられるのだろう。
「・・・行かない」
私は一言だけ、そう呟くと、再び窓の外に目をやる。
彼女はさすがに少し傷ついたような表情を浮かべたが、すぐに先ほどの笑顔に戻った。
「そっか。でも、明日は絶対遊ぼうねっ!」
そう言うと、少し離れた場所で待っていた仲間の方へ駆け出す。
彼女の名は、ユフィ。
そして彼女が走って行った先にいる二人が、エアリスとスコール。
三人は、この街でも特別仲が良いようだ。
・・・まあ、私の知ったことではないが。
ユフィが二人に向かってうなだれたように軽く首を横に振ると、三人は部屋から出て行った。
再び、部屋に沈黙が訪れる。
部屋の中に入り込んでくる風が、少し長めに伸ばした黒髪を揺らした。
いつもの場所から見下ろす見慣れた街の風景は、やはりいつもと代わり映えはしなかった。
でも何故か、ここへ来てしまう。
私は、自分のことがよく分からない。
こんなにひどい態度を取る私を何度も何度も迎えに来てくれる優しい彼らを、どうしてはね除けようとするのだろう。
どうして、こんな所で景色なんか眺めているんだろう。
どうして、怒りや喜びや悲しみを感じないんだろう。
でも、答えを見つけようともしない自分が、少し不思議に思えてくる。
私はただ、マリンブルーの瞳で何の変哲もない故郷を見下ろしているだけだった。
ゆっくりと目を閉じ、何の物音もしない静かな空間に身を委ねようとする。
・・・本当に、静かだ。
どれくらいの間、そうしていただろうか。
背後に気配を感じた。
またユフィ達が誘いに来たのかと思い、私はそちらを向こうともしなかった。
しかし、
「驚いたなぁ。まさか、こんな女の子だとは思わなかったよ」
・・・それは、今まで聞いたことのない声だった。
妙に甲高い。
とっさにふり向くと、そこには小さな体の生き物が立っていた。
小さいと言っても、私の身長の半分よりは少し高いぐらいだ。
彼は赤い服に身を包んでいたが、肌は黒が基調だった。
特徴的なのは、大きな耳だ。
頭の上に、真ん丸の耳が二つ付いている。
私が驚いた表情を浮かべているのに気づいたのか、彼は優しい笑みを浮かべた。
「驚かせてごめん。でも、強い闇の気配を感じて来てみたら、君がいたんだ」
「闇?」
闇の気配?
私は首を傾げる。
何のことだろう。
闇の気配・・・私から出ている?
「うん、闇。君は闇の存在なのかい?」
「私は・・・」
そこで一度、話を切った。
軽く俯くと、自嘲めいた表情を浮かべる。
「・・・そうなのかもしれない」
すると今度は、彼が目を丸くした。
「自覚がないの?」
自覚なんてない。
でも、何となく、そんな気がしていた。
みんなと関わりを持たないのも、彼らが私には眩しすぎるからかもしれない。
「でも、君の闇は優しい闇だよ」
意味がわからず、私は首を傾げながら彼を見た。
彼は、微笑んでいた。
「闇はね、すごく怖いんだ。少しでも気を許すと、すぐに飲み込まれてしまう。でもね、君の闇はそうじゃない。とても、温かいんだよ」
私の闇が、温かい?
「でも私は、近寄ってくる人をみんな傷つけてしまう」
「それは、君の意志じゃないんだろう? 君はきっと、人と接するのに慣れてないだけだ。君の闇はね、闇の奥に必ずある光を強調している。闇本来の姿を示したものが、君の存在なのかもしれない」
ますます訳が分からなくなり、私は再び首を傾げる。
そんな私の仕草を見て、彼は微笑んだ。
「つまり、君の闇は僕が今まで会ってきた悪い闇とは違う、優しい闇なんだ。君の闇は絶対に人を傷付けたりはしない。ハートレスなんかとは違う、でもとても強い闇」
「闇・・・」
私は自分の両手を見つめる。
闇・・・闇の、力―――。
その時、何かの気配を感じ、ふっと顔を上げた。
「どうしたんだい?」
そう尋ねる彼の背後に、幾重もの黒い固まりが地面から這い出るように現れた。
「ハートレス・・・!!」
私の言葉に、彼も驚いたように後ろを向く。
ハートレス達は地面から這い出て、私たちを取り囲むように立っていた。
ハートレスの中でも一番弱いとされている、シャドウと呼ばれる種類のものだ。
数は、十体ほどだろうか。
そのすべてが、輝く黄色の瞳でこちらを見ながら、体をゆらゆら揺らしている光景は、かなり気味が悪かった。
私はとっさに、ベルトに装備してあった自分の身長より少しだけ長いロッドを抜くと、いつもと同じように構える。
「戦えるのかい?」
「ええ」
よく見ると、彼も剣を手に持っていた。
「なら、そっちの半分をお願い! 僕はこっちを―――」
彼が言い終わらないうちに、ハートレスはこちらに飛びかかってきた。
私は飛び上がって避けると、間をおかずに素早くロッドを振るう。
私のその一撃だけで、何体かのハートレスは呆気なく消え去った。
とっさに彼の方を見ると、俊敏な動きでハートレスの間を飛び回り、剣を振り回しながら一体一体着実に消し去っていた。
不意に、彼がこちらを向いた。
「危ない!」
彼の叫び声に弾かれるように振り向くと、五,六体のハートレスがこちらに飛びかかってくるところだった。
しかし私は、慌てなかった。
ロッドを持っている右腕を高々と掲げると、何もなかったところから、ハートレス達を巻き込むように竜巻が現れる。
それは勢いを緩める事なく彼の方にいたハートレスも巻き込むと、ハートレスごと消滅した。
再び、部屋に静寂が訪れる。
何事もなかったかのような顔でロッドをしまうと、再び窓に腰掛けた。
彼は、先ほどよりも目を真ん丸にして、こちらを見つめる。
「君は魔法を使えるの?」
「・・・いいえ」
魔法、とは言わないのだろう。
なにせ、風の力しか扱えない。
「うん、確かに魔法なんかよりはよっぽど強い力だったけど・・・」
「生まれつき使えるの。どうしてなのかは私にも分からない」
私は窓の外を見たまま、そう答えた。
実際、そうなのだ。
なぜ使えるのかも、どうして風の力なのかも分からない。
分かっているのは、魔法ではないということだけ。
でも私は、この能力のおかげで戦えるようになった。
ユフィとスコールも腕に自信があるようだが、ユフィはもちろん、男のスコールにも勝つ自信がある。
「そうか・・・不思議だね」
考え深げな口調で、彼は言った。
ふと私は、彼の方を向いた。
さっきからずっと、気になっていた事がある。
「ねえ、あなた、この街の人?」
「ううん、違うよ。僕は、賢者アンセムに会いに来たんだ」
「賢者アンセム・・・」
聞いたことがある。
噂程度でしかないが、彼はこの町を管理するシステムを開発した人らしい。
とても偉い人だ。
「なら、あなたはどこから来たの?」
「もっと、ずっと遠いところから」
「そう・・・」
その時、不意に思い立った。
ここじゃない所に行ってみたい。
こんなちっぽけな街から飛び出して、世界を見てみたい。
「じゃあ、僕はそろそろ行くよ。君に会えてよかった」
それだけ言い残すと、彼は部屋から出て行こうとする。
しかし私は、呼び止めなかった。
連れて行って欲しいとは言わなかった。
だって、そんなこと言ったら反対されるに決まってる。
だから、忍び込むんだ。
遠くから来たんだったら、きっと彼は乗り物に乗ってきたはず。
その中にこっそり潜り込めば―――。
私は彼が部屋から出て行ったのを横目で確認すると、気づかれないように彼の後を追って歩き出した。
別に、この街から離れることに後悔はない。
だって私は、この街では誰からも必要とはされていないんだから。
一瞬、彼ら―――ユフィとスコールとエアリスの顔が脳裏に浮かんだが、すぐに消し去った。
そう、必要とはされていないんだ。
私なんて、いらない存在なんだ。
きっと―――。
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