流石元財閥だという豪華な応接室に通された。
彼女を真ん中に座って、雲雀と奏斗が横に座り、四季凪とセラフが後ろに立った。
そこに依頼人である、彼女の父親が入って来た。

依頼人：「本当にありがとう。娘が無事に帰って来てくれて良かったよ。」
雲雀：「無事任務完了って事で！」
四季凪：「あなたにお伝えしないといけない事があります。」
依頼人：「何だ？」
四季凪：「娘さんは、耳が聞こえないのと声が出ない状態です。」
依頼人：「何だと！？」
奏斗：「その前にアキラ、パソコン貸してくんない？」
四季凪：「えっ、あっどうぞ。」
奏斗：「サンキュー。」

奏斗がパソコンのメモを開いて、彼女に画面を見るようにジェスチャーをした。

四季凪：「ここに来る前に、医師に診てもらいました。恐らく精神的な物からで、一時的だろうと。」

奏斗が要約してパソコンに打ち込んでいく。

依頼人：「そんなに辛い思いをさせてしまったのか…」
四季凪：「安心できる環境にいれば、元に戻るだろうと言われています。」

依頼人は少し考えてから、おもむろに話し始めた。

依頼人：「私どもの家系は、代々この社長の座を引き継いできたんだ。しかし、キャリアを積んだ社員からしてみれば、全くの素人が社長になっていくのが面白くないのだろう。苦労も多い。」
四季凪：「そうでしょうね。」
依頼人：「私も凄く苦労した。この家に生まれた事を心底呪った日もあった。それを娘に同じ思いをして欲しくないと思っている。」
セラフ：「と言いますと？」

依頼人：「美弥、この家を出ないか？」
奏斗：「は？」

奏斗が打つ手を止めてしまった。
彼女がツンツンと服を引っ張った。

奏斗：「あぁ、ゴメン。」

慌てて奏斗が打ち込んだ。
それを見て一瞬驚いた顔をしたが、すぐに打ち始めた。

美弥：『確かにこの家は居辛いかもしれません。社員の方も、私の事を冷たい目で見る方もいますし、母が死んでからは、お手伝いの方々はいつも跡取りだからと常に仰っていますし。』
奏斗：「気持ち分かる気がする…」
依頼人：「美弥が良かったらだが、この家を離れて暮らすのも、精神的に落ち着くのではないかと思うんだ。別に縁を切る訳では無い。美弥が企業を継ぎたいと思うならそうすればいいし、嫌なら別の世界で過ごせばいい。」

今まで黙っていた雲雀が口を開いた。

雲雀：「すげぇ良い案だとは思うけどよぉ…」
四季凪：「どうかしましたか？」
雲雀：「ただの勘だけど、また相手が狙ってこないかなって。」
セラフ：「確かに。相手は後継者を消して、会社を衰退するのが目的のようですが、この話は相手は知らない。だから、また同じ手段を取って来てもおかしくないって事ですよね。」
四季凪：「その問題はすぐに解決できますよ。」

四季凪が不敵な笑みを浮かべている。
セラフは直感で嫌な予感がよぎった。

四季凪：「うちのエージェントが期間限定でお嬢様をお守りしては如何でしょうか？」
セラフ：「やっぱり…ｗ」
四季凪：「と言う事は、セラ夫もお察しだったようですね。」

美弥：『流石に申し訳なさ過ぎです。これ以上ご迷惑おかけするわけにはいきません。』
依頼人：「あなた達は皆娘と同じ学校でしたよね。友達と一緒にいるような感覚で良いのではないか？」
セラフ：「学校でお話しさせて頂いた事はないですが、私は同じ学年でした。」
雲雀：「だから、聞いた事がある名前って言ってたんか！」
セラフ：「数日間娘様と一緒にいて、もしも何もなさそうであれば、一人暮らしを検討してみてはいかがでしょうか。まぁ、あなたが、私で良ければ…の話しですが。」

彼女は困っているようだ。

依頼人：「彼がそう言ってくれてるんだ。少し甘えさせて貰ったらどうだ？それに、この家にいる方が危険だ。また狙ってくるかもしれないし、最悪うちの社員になりすまして侵入してくることも考えられる。」
美弥：『分かりました。ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。』