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おさとうの箱庭


窓から差し込む優しい光で目が覚めた。
キャラメル色の天井。レモン色の布団。テーブルの上の空になったマグカップ。見慣れた光景。
頭がぼんやりして、上手く思考が回らない。私は朝に弱い。
コンコンコン、と部屋のドアがノックされる。

「起きてるー?朝ごはんできてるよ!早く降りておいで、ミナ!」
「………わかった。ありがとう、サクリ」

ドア越しに会話をしながら、昨晩用意しておいた着替えに袖を通す。ミルク色のパフスリーブブラウス、いちごミルク色のジャンパースカートに同じ色のベスト。これがうちの正服。
鏡の前で着崩れていないか確認して、最後に胸元にゴジアオイのついたリボンを結んで部屋を出た。
今日も一階からは甘い匂いがする。


- - - - - - - - -▷◁.。


「あ、ミナやっと降りてきた!ほんと朝弱いね、先輩たち皆ごはん食べ終わっちゃったよ」
「……おはよう、サクリ」
「ん、おはよ!ほら座って座って!今日は朝からご馳走だよ!」

席に座ると、サクリが手際よく食事の用意をしてくれる。今日の朝ごはんはパンケーキと、シュクルドールがひとり。

「え、シュクルドール?いいの?」
「うん!先輩がくれたんだー!」
「すごい、朝からご馳走だ」
「だから言ったでしょー!あたしも早く食べたかったけど、ミナが起きるの待ってたんだ!一緒に食べたくて!」
「ごめんねサクリ、待たせちゃって」
「いーのいーの!じゃ、食べよっか!」

向かいの席にサクリが座り、ティーポットの蓋を開ける。ポットの中には紅茶が入っている。

「あ、ドールは紅茶に入れる感じでいいよね?」
「うん、任せるよ」
「おっけー!」

テーブルの上のドールはちょこんと正座し、柔らかい微笑みを浮かべて私たちを見上げている。
サクリはドールを両手でそっと掬いあげ、ポットのふちに座らせた。ドールはサクリを真っ直ぐ見上げ、口を開く。

『ここに入るの?』
「そうよ。よろしくね」
『わかったわ。わたしを咀嚼するあなたが、どうか幸せでありますように』

ドールは微笑みを絶やすことなく、ポットの中へ溶けていった。
サクリと私はドールが溶けるのを見守り、紅茶をカップへ注ぐ。

「ドール食べるの久しぶりー!すっごく嬉しい!」
「私たちにはまだ創れないし、買おうにもなかなか手が出せない値段だもんね」
「ね!もっと安価にならないかなーって思っちゃう。凄腕の魔法使いしか創れないから仕方ないのはわかってるんだけどさー」
「私たちも早く創れるようになりたいね」
「うん!もっともっと特訓しなきゃ!」

他愛ない話をしながら、私は紅茶をくるくるとスプーンでかきまぜ、サクリはスライスレモンを浮かべる。
そう、「シュクルドール」は一般には手が出せないほど高価な、手のひらサイズの少女の形をした砂糖菓子。自分の意思があり、自分の力で動く、砂糖菓子。
私たちはそれを創れる魔法使いになるため、師匠の弟子としてここで暮らしている。

「ん…!おいしい〜〜!やっぱり普通の砂糖とは全然違うね!!」
「ミントフレーバーだね。爽やかでパンケーキと合う……そう言えば髪色がミントだったね、あの先輩の子?」
「そう、師匠に見せたら「魔法のかけ方が稚拙」って言われちゃったんだって!創りなおすから食べていいよってくれたの」
「そっか……こんなに美味しいのに」
「ねー!お店で売ってもいいレベルだよね?!」

頬をぷくっと膨らませ、ふてくされるサクリ。彼女は先輩とも仲が良いから、肩入れしたくなるのもわかる。
でも、確かに師匠の言う通り魔法のかけ方がまだ甘い。溶け方や最期の言葉に品がなかった。シュクルドールはもっと、高貴で、甘美で、儚く散っていくゴジアオイのようなものでなければならない。と、思う。

「……早く飲まないと、せっかくのレモンティーが冷めちゃうよ」
「あ、そうだね!早く食べて師匠のお手伝いしに行かなきゃ!」
「うん、今日はお昼から研究の続きするって言ってたもんね」

我らが師匠…この国一番の魔女である、メリ・アルーム様はお忙しいのだ。
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