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終わらぬ星巡り

2017年12月下旬、それはカルデアにいる者たちにとって慌ただしい時期。七つの特異点に聖杯探索に出ていた時よりは幾分か落ち着いていたが、違う意味で室内を歩く者たちの足取りは慌ただしいものだった。
 生き残ったマスター、カルデアスタッフ、そしてサーヴァントたちにとって最後の10日間だからだ。クリスマスを過ぎればサーヴァントたちはとうとう完全に退去を終え、年を越す頃にはマスターもカルデアから出ているに違いないからだ。
 最後のクリスマスを何の悔いも無いように過ごそう。そう言ったのは誰だったか。恐らく殆どの者がそう思った。
 ――――ある一人の少女も、そう思った一人だった。

「やば、インクが切れそう」

クリスマスカードにメッセージを書くために使っていた万年筆のインクが切れかかり、斎藤は椅子から立ち上がった。彼女はいま、自身が召喚したサーヴァントたちに贈るお菓子に付けるメッセージカードの準備をしていた。
 魔術で書いてしまっても良いものなのだが、折角だからと手書きにしていたのが祟ってしまい、肝心なところでインクが無くなってしまった。それに詰め替えようのインクすら彼女の部屋には既に無かった。どうせ12月には出ていくのだからと補充を怠っていたのだ。
 斎藤は仕方なく、脱いでいた靴を履き直してマイルームから出る。面倒なので髪も結ばず、レザーの手袋も付けなかった。
 小走りで購買に向かうと、道の合流場所でサーヴァントに声を掛けられた。

「マスター、廊下で走ってはいけませんよ」
「はーい」

声を掛けた人物の顔を見ずとも分かったが故に、斎藤は表情をぱあっと明るくさせた。彼女に声を掛けたのはベディヴィエールだ。

「お急ぎですか?」
「まあちょっとね」

判り切ったプレゼントに添える在り来たりなカードだが、少しでも驚いた顔を見たいと思うのは、彼女も年相応の少女ということだろう。
 足を止めた斎藤にベディヴィエールは歩み寄り、彼女の頭に手を伸ばそうとするが、途中で自分を律するように顔を背けたあと、手を下した。

「あの、髪が跳ねています……」
「あ、」

彼が触れてくることを期待していた斎藤は内心、肩を落としたが、彼が触れようとしてた左側頭部触れる。確かに彼女の髪は重力に逆らいぴょこんと跳ね、存在を主張している。

「身だしなみはちゃんとしてくださいね。最近乱れ気味ですよ」
「わかった」

斎藤が頷くと彼は元来た道を戻っていく。どこかに行くつもりだったのでは、と斎藤は小首を傾げるも霊体化したため姿が見えず、一緒に行こうとも言えなかった。

「えぇ……」

最近、明らかにベディヴィエールから避けられていた。本格的に避けられていることに気が付いたのは二週間前、要因はいつでも来ていいと言っていたマイルームに彼が来なくなり、代わりに他の円卓の騎士たちが交代で通うようになったことだ。彼らがマイルームに訪れることも不思議なことではなく、斎藤は自分のサーヴァントには寝ているとき以外なら大体いつでも訪ねて来ていいと言っていたので可笑しいことでもない。
 円卓の騎士たちが毎日交代で来るようになってからベディヴィエールだけが訪ねてこなくなってきたのは流石に違和感を感じていた。
 他にも戦闘以外での会話も減った。食堂でも顔を合わせなくなった。先ほどのように偶然顔を合わせれば挨拶はされるし多少の会話ならある。だが矢張りそそくさとどこかに行ってしまう。そのくせ、ベディヴィエールとの会話が減ったあとに乱れ始めた生活習慣を指摘してくるなど、彼のしていることや思っていることが斎藤には謎過ぎた。
 何か気に障ることを言ったか、もしくはしてしまったのか、と考えながら購買で目当ての替えのインクを購入し、マイルームに戻る。
 礼装とセットのブーツを脱ぎ、先ほど指摘された髪をブラシで梳いたあと、再び椅子に座り、机に向かってカードに英霊それぞれに向けたメッセージを綴っていく。
 英霊は現代で渡されたものを座に持っていけない。だからこれは渡してすぐにゴミとなってしまう。だから渡すプレゼントは消費品である食べ物にした。料理は、彼女がカルデアに来て初めて褒められた個性だったからだ。

「ケーキ、喜んでくれるかな……」

最後の一枚はベディヴィエールへ向けたメッセージカード。緊張で手汗が溢れたので何度もスカートで拭って書いた。
 どれだけ避けられても、彼に伝える言葉は決まっている。
 彼のおかげで自覚した甘い感情はどうしても直接、言葉で伝えたい。だからカードには25日の11時45分に会いたいとだけ書いた。
 たとえどんな返事をもらっても、伝えられたことに満足して、この想いは終焉を迎えると決意し、最後の一文字を書き終えた。
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