とりかえたい
次の日、私は気が付けば自室の万年床にいた。真逆、もう一度同じ日を繰り返しているのかと思い端末を見るが違う。日にちはちゃんと進んでいる。そして飼ったつもりもない三毛猫はまた部屋の中にいた。
私は寝癖で荒れた髪をとぎながら、昨日のことを必死に思い出そうとする。
昨日の昼までは条野と会っていた。其のあと夕飯の買い物をして家路に着いた筈。しかし家に帰ってくるまでの記憶が明確でない。立ち上がり台所を見るが昨日夕飯を食べた形跡があるため、ちゃんと生活していたらしい。お酒も飲んでいないので普通ならば記憶が飛ぶ要因などないのだ。
「にゃあ」
猫が一言鳴く。朝飯のご所望だろうか。幸いなことに私の空腹を紛らわせるための煮干しお得パックがあったため其れをあげた。他にもあたりめなのがあったのだが猫に烏賊は駄目だと訊く。
服を着替え、顔を洗い化粧を軽くして眼鏡をかけ直す。コンタクトにするという手もあるがズボラな私には眼鏡があっている。
適当に昨日の余りもので朝飯を取る。昨日なにを食べたかは覚えていないが残飯を見るに昨日は魚だったようだ。白米が残っていたので其れを茶碗に盛り、お茶漬けのもとを上に振り掛け、スーパーで買ったサラダチキンプレーン味を切ったものを乗せてお湯を掛けるとお茶漬けの完成だ。チキンがあるだけで少し豪華に思える一品だ。そして美味い。
お茶漬けを描きこみ乍、端末で今日の予定を確認する。私の予定表は端末に入っているので此れだけで大抵の事は判るようになっている。無くすと大変だが。
そして今日は、バイトである塾に行く日だった。
私は小学、中学とも真面に通っていないが通信制の高校は卒業している。なので私が教えているのは小学校を受験する幼稚園児とか、そこまで年齢の高くない生徒を担当している。
「あ、最相さん!」
塾の廊下を歩いていると先輩講師に声を掛けられた。どうやら新しく入った講師を紹介したらしい。
「彼、講師は初めてだって云うから貴女の授業を見せてあげたくて。最相さんは国語講師の中で人気だから」
新人講師は私に頭を下げると自己紹介を行った。
「東です。宜しくお願いします」
真面目そうな彼は、正直私とは合わなそうだったが、授業あとの講師同士の親睦会で顔を合わせることになる。
「最相さんはお酒飲まれるんですか?」
「まあね」
酒については決して弱いわけでない。適当に頼んだ生麦酒を飲んでいると、隣に座った東くんが私に話しかけてきた。初対面の印象とは違い、思ったより話せる相手ではあった。
親睦会もそろそろお開きになりそうな終電頃に、すっかり酒が回った顔で彼は私に再度話しかけて来た。
「最相さんは〝光の会〟を知ってます?」
「……新興宗教?」
知らないと答えると彼は自らのスマホを見せる。画面に映っているのはサイトの画面だった。
「ある偉大な教祖から発足した組織です。最相さんは誰かに願いを訊かれたことありませんか?」
心当たりが有りすぎてわたしは咄嗟に声を出してしまった。其の反応を見て東くんは怪しい程に綺麗な笑みを向けた。
「是非サイトだけでも覗いてみてください」
〝きっと貴女も幸せになれますよ〟
正直、胡散臭い話だと思った。
宗教になんて興味ないし、其れにあの願いを叶えたという女性から直接云われるならまだ判らなくもないが何故、行き成り初対面の人にわたしがあの謎の人物と逢ったことがあるなんてことを知っているのかが疑問でしかない。
しかし、彼からサイトの掲示板で是非挨拶してくださいと云われた以上、書き込みだけでもするかと、スマホを取り出した。サイト自体は何処にでもあるブログのようなサイトで、概要や集会日、チャットなどの項目があり、わたしはチャットを開いた。名前を入力する欄があったがフルネームが書かなかった。
『すみれです。今日此の団体の人に紹介されて来ました。』
わたしが書き込みをしてすぐにレスが付いたことを知らせる通知が来た。
『初めましてすみれさん!私は此のサイトの管理人であり、光の会の発足者です。以後お見知りおきを。早速ではありますが、此の会のメンバーがどの様な形式で集められたかご存知ですか?』
『ええ……何でもある人に願いを叶えてもらうとか?』
『はい。私たちは教祖と崇めるある人物に救済された者たちの寄り合いのようなものです。此れからも継続して教祖さまからの恩恵を受ける為日々活動しています。すみれさんも是非、入会されませんか?我々は入会費は勿論、活動費など一切徴収しておりませんし、集会への参加も自由ですのでもし暇があれば参加という形式でも構いません。』
別タブを開いて概要の方も確認していたが確かに、新興宗教にありがちなお布施などは一切ないと記載されており、寧ろ集会場などへの交通費は会が負担とされおり、万年金欠のわたしには大変嬉しい。其れに自由参加というのも魅力的だ。
『確かに良い会だと思いますが、其れだとどうやって活動しているのでしょうか?』
『私たちは教祖さまの恩恵を受けています。恩恵によって活動しているのです。』
発言の細かなところに怪しい部分があるが、其れでも何でも願いを叶えてもらえるようになるのは魅力的だ。対価が人生というのも確かに中毒性はありそうだが、止めようと思えば止められず筈だ。其れに此の会の参加も自由なのだから。
『判りました。一先ず、一度集会にお邪魔したいと思います。』
『ありがとうございます!集会は基本ヨコハマで行っておりますが大丈夫でしょうか?』
たまたま集会地も近く安心した。
『はい。電車でそうかかりません』
『判りました。では集会所の地図をお送りします。集合は午後2時、ハンドルネームを受付に伝えたあと会場にお入りください』
私は寝癖で荒れた髪をとぎながら、昨日のことを必死に思い出そうとする。
昨日の昼までは条野と会っていた。其のあと夕飯の買い物をして家路に着いた筈。しかし家に帰ってくるまでの記憶が明確でない。立ち上がり台所を見るが昨日夕飯を食べた形跡があるため、ちゃんと生活していたらしい。お酒も飲んでいないので普通ならば記憶が飛ぶ要因などないのだ。
「にゃあ」
猫が一言鳴く。朝飯のご所望だろうか。幸いなことに私の空腹を紛らわせるための煮干しお得パックがあったため其れをあげた。他にもあたりめなのがあったのだが猫に烏賊は駄目だと訊く。
服を着替え、顔を洗い化粧を軽くして眼鏡をかけ直す。コンタクトにするという手もあるがズボラな私には眼鏡があっている。
適当に昨日の余りもので朝飯を取る。昨日なにを食べたかは覚えていないが残飯を見るに昨日は魚だったようだ。白米が残っていたので其れを茶碗に盛り、お茶漬けのもとを上に振り掛け、スーパーで買ったサラダチキンプレーン味を切ったものを乗せてお湯を掛けるとお茶漬けの完成だ。チキンがあるだけで少し豪華に思える一品だ。そして美味い。
お茶漬けを描きこみ乍、端末で今日の予定を確認する。私の予定表は端末に入っているので此れだけで大抵の事は判るようになっている。無くすと大変だが。
そして今日は、バイトである塾に行く日だった。
私は小学、中学とも真面に通っていないが通信制の高校は卒業している。なので私が教えているのは小学校を受験する幼稚園児とか、そこまで年齢の高くない生徒を担当している。
「あ、最相さん!」
塾の廊下を歩いていると先輩講師に声を掛けられた。どうやら新しく入った講師を紹介したらしい。
「彼、講師は初めてだって云うから貴女の授業を見せてあげたくて。最相さんは国語講師の中で人気だから」
新人講師は私に頭を下げると自己紹介を行った。
「東です。宜しくお願いします」
真面目そうな彼は、正直私とは合わなそうだったが、授業あとの講師同士の親睦会で顔を合わせることになる。
「最相さんはお酒飲まれるんですか?」
「まあね」
酒については決して弱いわけでない。適当に頼んだ生麦酒を飲んでいると、隣に座った東くんが私に話しかけてきた。初対面の印象とは違い、思ったより話せる相手ではあった。
親睦会もそろそろお開きになりそうな終電頃に、すっかり酒が回った顔で彼は私に再度話しかけて来た。
「最相さんは〝光の会〟を知ってます?」
「……新興宗教?」
知らないと答えると彼は自らのスマホを見せる。画面に映っているのはサイトの画面だった。
「ある偉大な教祖から発足した組織です。最相さんは誰かに願いを訊かれたことありませんか?」
心当たりが有りすぎてわたしは咄嗟に声を出してしまった。其の反応を見て東くんは怪しい程に綺麗な笑みを向けた。
「是非サイトだけでも覗いてみてください」
〝きっと貴女も幸せになれますよ〟
正直、胡散臭い話だと思った。
宗教になんて興味ないし、其れにあの願いを叶えたという女性から直接云われるならまだ判らなくもないが何故、行き成り初対面の人にわたしがあの謎の人物と逢ったことがあるなんてことを知っているのかが疑問でしかない。
しかし、彼からサイトの掲示板で是非挨拶してくださいと云われた以上、書き込みだけでもするかと、スマホを取り出した。サイト自体は何処にでもあるブログのようなサイトで、概要や集会日、チャットなどの項目があり、わたしはチャットを開いた。名前を入力する欄があったがフルネームが書かなかった。
『すみれです。今日此の団体の人に紹介されて来ました。』
わたしが書き込みをしてすぐにレスが付いたことを知らせる通知が来た。
『初めましてすみれさん!私は此のサイトの管理人であり、光の会の発足者です。以後お見知りおきを。早速ではありますが、此の会のメンバーがどの様な形式で集められたかご存知ですか?』
『ええ……何でもある人に願いを叶えてもらうとか?』
『はい。私たちは教祖と崇めるある人物に救済された者たちの寄り合いのようなものです。此れからも継続して教祖さまからの恩恵を受ける為日々活動しています。すみれさんも是非、入会されませんか?我々は入会費は勿論、活動費など一切徴収しておりませんし、集会への参加も自由ですのでもし暇があれば参加という形式でも構いません。』
別タブを開いて概要の方も確認していたが確かに、新興宗教にありがちなお布施などは一切ないと記載されており、寧ろ集会場などへの交通費は会が負担とされおり、万年金欠のわたしには大変嬉しい。其れに自由参加というのも魅力的だ。
『確かに良い会だと思いますが、其れだとどうやって活動しているのでしょうか?』
『私たちは教祖さまの恩恵を受けています。恩恵によって活動しているのです。』
発言の細かなところに怪しい部分があるが、其れでも何でも願いを叶えてもらえるようになるのは魅力的だ。対価が人生というのも確かに中毒性はありそうだが、止めようと思えば止められず筈だ。其れに此の会の参加も自由なのだから。
『判りました。一先ず、一度集会にお邪魔したいと思います。』
『ありがとうございます!集会は基本ヨコハマで行っておりますが大丈夫でしょうか?』
たまたま集会地も近く安心した。
『はい。電車でそうかかりません』
『判りました。では集会所の地図をお送りします。集合は午後2時、ハンドルネームを受付に伝えたあと会場にお入りください』