銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -
…朝だ。スマホに設定したアラームがけたたましく室内に鳴り響いている。
いつもより早い時間。自宅の俺の部屋ではなく、薫ちゃんの部屋。薫ちゃんのベッド。目の前にはアラーム音から逃れようと布団を引っ張る本人。
ひとまずアラームを止めた。
「朝だよ、起きて薫ちゃん」
「…んー」
これは……起きないパターンのようだ。肩を揺さぶっても、布団を持ち上げて顔を覗き込んでも下を向いて明るくない方へ動くのみ。
「今日は早く起きる日でしょ?」
「あーそうだった…」
返事をしているものの、まだ半分寝ているような緩い声色。
昨日今日と大学は休みで、今日は朝早く起きて出かけるという約束をしていた。レンタカーで日帰り旅行である。ゆるふわバイト勢の大学生で泊まりはなかなかきついからな。
「起きて起きて」
また優しく揺さぶる。薫ちゃんは唸り丸めていた身体を伸ばす。本当に猫のようだ。
「”あと五分”はダメだよ」
「うん…うん……」
薫ちゃんはよく『あと五分』をエンドレスしてしまうので最初に釘を刺しておく。平日にはちゃんと起きるのだが休日には気が緩んでいるのか、俺に甘えてくれているのか嬉しさもあるが、時間は大切だ。
「すー」
「嗅がないで…」
伸びをしたかと思えば俺に抱きつき、胸筋に顔を埋めて匂いを嗅いでいる。
「……──くんの匂いあんまりしない」
「昨晩に薫ちゃんから借りた俺用の部屋着だからね」
かなりの頻度で薫ちゃんの家にお邪魔するので、薫ちゃんが俺用の衣類を買ってくれた。昨日袖を通した時は新品なのに洗濯したての柔軟剤の香りがして嬉しかったのが印象深い。
腕の中で蠢いたかと思えば、目を開けた薫ちゃんと目が合い、彼女はにっこりと笑みを浮かべた。
「おはよう」
「おはよう薫ちゃん」
微笑んだ顔が近づいて頬にキスをもらう。俺もキスをお返し。
あー、出かけたいけど起きたくない。薫ちゃん曰く俺の匂いはあまりしないらしいが、ここは薫ちゃんのベッドなので彼女の匂いに包まれているわけで。変態みたいだが、ここは天国か何かだろうか。
「よし、準備しようっか」
名残惜しさとかないののだろうか。満足した薫ちゃんはスッキリ覚醒して起き上がった。スイッチが入るといつものようにキビキビ動く。
「……うん」
先ほどまでとは逆転して、今は俺の方がまだここにいたいと思ってしまっている。ここは居心地が良すぎる。何時間でも寝ていられる。
「ほらほら」
俺の腕を引いてベッドから連れ出してくれるのは好きだけど。