銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -


 薫ちゃんの家に猫がいる。
 歩いたり鳴いたり、動いたりしない。なぜなら本物の猫ではないからだ。
「これ暖かいね」
「いいでしょ〜可愛いから買っちゃった」
 蓄熱式の湯たんぽらしい。成猫サイズのぬいぐるみの中に機械が入っており、充電することで熱を発するようになるというものだ。
 白猫の見た目をしているそれを、薫ちゃんは本物の猫を撫でるかのように優しく撫でる。彼女は今まで動物を飼ったことはないらしいが、俺の家のミーコに会いに来てくれるし、薫ちゃんが住むこのマンションはペット可で住民のペットとも挨拶程度に触れ合ったりすると言うし、動物自体に興味がないとかではない。
「白と黒と茶があったんだけど、白かなあと思って」
「ミーコ?」
「そうミーちゃん。可愛いよねえ、また会いに行きたい」
 好きなものを共有できるということはとても良いことだ。
 薫ちゃんが猫、そも動物が苦手とかだったら家に呼びにくいし、アレルギーとかはどうしようもない。そうではなく、俺の好きな猫、もとい愛猫を薫ちゃんが同じように大事に思ってくれているのが嬉しい。
「うん、また来て。ミーコも薫ちゃんのこと気に入ってると思う」
「よかった」
 逆に俺は、薫ちゃんと出かけたり今日みたいに家にお邪魔することが増えて、寂しがられるどころかそっけないのが悲しい。猫はそういうところも好きだが。
 で、この湯たんぽ。サイズ感もそうだが適度な重みもまた心地よい。足の上に重みがあると落ち着くんだよな。ふかふかの生地で、流石に本物には敵わないが撫で心地も良い。
 ピッタリと身を寄せて俺と薫ちゃんの足の両方に乗るように置き直して、上から更にブランケットをかけることで暖かさが増す。しかもほんのり薫ちゃんの香りまでする。圧倒的セラピー効果。
「ギュッとしていい?」
「いいよ……?」
 俺の唐突な質問に首を傾げながらも、薫ちゃんは全身被ったブランケットの中から腕を出して広げる。俺から抱きしめに行き強すぎない程度に抱きしめたあと、俺の方に引っ張るように体重を乗せると、俺の上に乗るように薫ちゃんを寝かせた。湯たんぽを落ちないように回収して俺の顔近くに置き直す。
「もーびっくりした」
「ごめんごめん」
 怒っている様子はなく笑っている薫ちゃんに俺も笑い返す。
 俺の上で少しモゾモゾと蠢いたかと思えば、顔を近づけてキス……ではなく頬擦り。大きい猫ちゃんみたいで可愛い。
「くすぐった」
「えぇ?」
 薫ちゃんの髪が首に当たってくすぐったい。彼女は分かって頬擦りをやめない。かと思えば唐突に、置き直した湯たんぽに頬擦り相手を変えていた。
「暖かぁ」
「頬擦りするなら俺にしな」
「くすぐったいんでしょ?」
「無問題」
 落ちかけていたブランケットを掛け直し、その上から薫ちゃんの背中を撫でる。
 猫のゴロゴロという鳴き声とは全く違うが「ふふ」と満足げな笑い声が聞こえてくる。
「んー可愛い」
「唐突」
 今度は俺から頬擦り、からの頬にキス。
 仕方ない。薫ちゃんの可愛いは飽和状態だ。言葉に出さなくては俺のキャパが爆発する。気がする。
「じゃあここにして」
 そう言うと微かに唇を差し出しながら、人差し指で唇を指す。
 そんな魅力的なお誘いがあるんですか??
「それこそ唐突」
「しないの?」
「する」
 分かり切った問いに、言葉と同時にご所望通りのキスで答えた。
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