銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -
四人で出かけることになり駅で待ち合わせすることになった。
公共交通機関は人が多く、心の声を否応にも聞いてしまう俺は正直なところ使いたくない移動手段だが、今回の出先は車よりも電車の方が便利ということで電車移動に決定した。で、出来るだけ人混みの中にいる時間を減らすために待ち合わせ時間ギリギリに到着するように家を出たのだが、どうやらすでに家を出ているアイツらに何かあったのかグループラインがやかましい。
『俺の乗ってる電車止まったまま動かないんだが?』
『https://……』
『僕はタクシーで行ったほうが速そうだから大丈夫そう』
真山はタクシーで来るらしいが、──は運転見合わせ中の電車に乗り合わせてしまったようだ。一緒に送られてきたURLによると信号機トラブルと書かれているからそう時間は掛からないだろう。
…そういえば銀木からは何も来ていない。前に聞いた記憶のある駅だと運転見合わせ区域ではなさそうだが。
『ごめんいま見た! 私は大丈夫そう』
どうやら銀木は無事に電車に乗ることが出来たらしい。
となると俺と銀木で先に同流して待っていた方がいいか。
『俺はもうすぐ駅着く』
『なぜスタパのギフト?』
『いま送ったギフチケでお茶をしばいて待ってて。薫ちゃんの出る路線から一番近いから』
個人でやれカップルども。
『俺のは?』
『なんで俺がお前に奢るんだよ』
『仕方ない、水元くんには僕が奢ってあげるよ』
スタパの場所を検索している間に真山から七百円分のギフトチケットが送られてくる。これで一杯飲める。
銀木が乗っているのは地下鉄。振替もしているはずなので人は多いだろう。波もあるだろうが途中で落ち合うよりはカフェで待った方が都合が良い。
駅に到着。ターミナルになっていて商業施設もある大きな駅は、運転見合わせもあり、ただの土曜でもいつも以上に混んでいる。
(運転見合わせとか最悪)
(これからデートなのに)
(打ち合わせに遅れんじゃねえかふざけんな)
(アイツ待ってるかな…)
(くそ、早く返信しろよな)
うるっせぇなクソが。
次は何なんでも絶対に電車移動はしない。車がいい。
それで、この駅のスタパは地下にあるので俺も地下階に向かう。エレベーターは乗れたもんじゃないのでエスカレーターで降りると、人混みの中を上手く分け入りながら歩いていく銀木を見かけた。
俺も追うように歩くが距離があり声は掛けづらい。しかも銀木は移動中にながらでスマホを見ない。
(おっ、めっちゃ可愛い子歩いてんじゃん)
地下街になっている通路の交差点から一際デカい心の声が聞こえてくる。
こんなに人がいる場所でナンパなんてよくやる、と呆れる。しかも小走りで走るので人の流れから浮いていてその男が、デカい声の張本人だと分かった。
俺の横を抜け、その男は俺が追いかける銀木に駆け寄った。
「ねえ君可愛いね」
一歩が大きく回転も早い。だから銀木は単純に歩くのが早い。そんな彼女に合わせるように男も常時はやあしになっている。
「どこにいくの? よかったら一緒にお茶しない?」
(やっぱめっちゃ美人! 大学生か?)
「待ち合わせがあるので」
(声もいいじゃん)
「えぇ、異性? それとも同性? 電車遅延してるしまだ来ないんでしょ? 来るまでお話ししようよ」
(距離近い…)
薄く愛想笑いを浮かべるもんで、男は引く気配もない。別に銀木の表情が俺から見えているわけではないが、イメージとして初対面のナンパ師だとしても銀木が冷淡な顔を向けているとは考え難い。
(断るの苦手そうだし押したらいけんじゃね)
(もう目の前までカフェ見えてるけど、足遅くしたら肯定って思われかねないなあ)
「ねえいいじゃん。ねっ、ちょっと喋るだけ!」
諦めなさそうな様子に俺は足を早めた。
もう一歩で横に並ぶというところで「銀木」と声をかけた。
「水元くん!」
下を向きながら歩いていた銀木が、俺の方へ顔をあげた。案の定、困った顔がそこにある。
(げっ男)
男の薄ら笑いが歪む。
睨みつけると、男は心の中で文句を言いながら散っていった。
*
「お前が普段、家まで銀木を送ったり、迎えにいく理由が良くわかった」
「酷い時は俺が隣にいても寄ってくるから解せん」
一時間ほどして俺は漸く目的の駅に到着した。
見合わせ中の電車内で体感型BLドラマCDを聞かされるのは、もう仕方ないとして、待たせてしまっている間に薫ちゃんがナンパにあったと水元から報告を受け、次からは電車以外で遊びに行こうと決意したところだ。
「銀木はもう少し塩対応っていうのを身につけたらいい」
「ちゃんと断ってるのに食い下がってくるんだもん」
「水元くんぐらいの眼光で睨む勢いじゃないと」
薫ちゃんの優しさ穏やかさに勘違いを起こす人間は男女ともに存在する。もちろん彼女がちゃんとNOを示しているのは分かっている。が、真山の言う通り水元ぐらい露骨でいい。そうじゃないと食い下がってくる。
だから絡まれないようにカフェに避難してもらいたかったのにこの短距離の移動ですらナンパされるなんて思うまい。
「…次は電車以外で出かけるぞ」
珍しく水元の意見に賛同した。