銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -


 これは薫ちゃんと付き合いたての頃の話。
「え、お前って彼女出来たの?」
「そう。良いでしょ〜」
 カップル♂ばかりで逆に安心な飲み会メンツ。当人たちは付き合っていることを隠してはいるものの実はバレバレというチキンレースを続けているわけだが、とうとう俺にも春が来た。ようやく彼らの恋人いない嘘に紛れた、俺の恋人いない真実が覆されたのだ。 
「だれ? 同じ学科?」
「教育学部の銀木薫さん」
「あー……一年の時ちょっと有名だった人じゃね?」
「そーなん?」
 初耳だ。いや女子で有名と言っても俺は女の顔は基本的にぼんやりで、それは彼女も例外なく当てはまる。なので過去に聞いたことがあっても名前と顔が一致することはないので、判っていないだけの場合もある。
「新歓後に五人に告られて全員振ったあと、サークルも速攻抜けたらしい」
「まじ?」
「オレも聞いた話だけど。コガちゃんと同校らしいし詳しいかもよ?」
 知らない話すぎて驚いた。自分からそんな強烈な武勇伝を語るような子ではなさそうだし、付き合いたてにそんな話するわけもないか。
 BL漫画の世界でメインキャラのイケメンなら有り得るようなことになる女子もいるのだろうか。
 …もしかして俺、ものすごい子に告られて付き合い始めちゃった…? 小賀との接点を大きくはしたくないが、これから交際を続けるためにも彼女のことは知っておきたい。もちろんベターは本人から聞くことだが、事前にある程度第三者から聞いておくことも必要だろう。
「呼んだー?」
 外の廊下から男一人が顔をひょっこりと出す。
 まだ呼んでないのに小賀のご登場である。
「小賀って教育学部の銀木薫と高校一緒だよな?」
「薫? うん。あっ駄目だよ、最近彼氏出来たらしいし」
 やたら挙動不審に彼女のことは紹介しない意思を見せている。こいつは疫病神ではあるが人格的にはいい人間には違いない、それが明確に不可というのは意外だな。まあその最近出来た彼氏は俺だがな。
「大丈夫大丈夫、その彼氏ここにいるから」
 涼太が俺を指さしたので、俺は適当に首をすくめておいた。
「えっ!? そうなの!!?」
 反応的に俺であることは聞いていなかったようだが、そこまで驚かれるのはちょっとショックだぞ(棒読み)
「で、なんで薫の話?」
「一年の時の上級生五人斬り」
「言い方。単に告白拒否ってただけだよ」
「事実は事実なんだ」
 俺は彼女の顔を認識していないが、今日まで見た仕草や立ち振る舞いもそうだが、彼らの反応から銀木さんは可愛い部類なのだろう。…言い方最低か?
「あとは確か……付き合うことがゴールな人は嫌だって言ってた」
 カッケェ…


 *


「銀木さんってそんなBL漫画の攻めみたいな武勇伝持ってるんだ」
「武勇伝ではないよ。こっちとしては普通に怖いし嫌だからね」
 でもって現在、その薫ちゃんの話が真山にも伝わってしまった。
 確かに。男が男に急に告白されるのも怖いのだから、女子ならば更に恐怖体験だろう。
 今の俺の感想といえば、こんなに可愛い薫ちゃんがモテるのは仕方ない。もちろんそんなベリベリキュートな薫ちゃんの彼氏で居続けるため努力している。
「もし相手が、刹那的じゃなかったらそのうちの誰かと付き合ってた?」
「……それコガちゃんに聞いたでしょ」
 薫ちゃんの眉尻がぴくりと動く。すまん小賀。黙祷はしてやるよ。
「ただの断り文句だよ。私が入学前から好きだったことは知ってるくせに」
 痛くないパンチが俺の肩にクリーンヒット。押し付けられた拳がぐりぐりと動く。可愛すぎて肩は痛くないが心臓が痛い。
 知ったと言っても、本当に最近だ。二年近く薫ちゃんの好意に気づかなかったのは俺の不徳の致すところ。
「でも確かに。付き合うまでにフォーカスを当てた漫画と、付き合った後にフォーカスする漫画だと同じカプでも旨みが全然違うよな…」
 このBL怪人は何を言っているんだ。
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