銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -
「腕の関節めちゃくちゃ痛い…」
「お前それ…」
(あー…やっぱり?)
ゲホゲホと痰が絡んだような嫌な咳と共に、隣に座っている男の思考が流れ込んでくる。
冬の乾燥した時期、インフルエンザが流行る時期だ。
(下手に水元以外の奴に体調が悪いことを悟られるのはフラグになってしまう。今のうちに早退が最良だな)
コイツはいつもこういう思考をしている。この世界はBL漫画の世界らしいので、彼女が出来でもそこが変わることはない。
十中八九風邪かインフルなので登校まもないが帰り支度を始めた。
「おはよー。…どうしたの彼」
「インフルっぽいから帰るんだと」
真山も登校してきた。コイツはある一定時期になるとおシャ糞野郎より煩くなる。今も普通に振る舞っているように側から見れば思うだろうが実際は、
(え、は、僕あとイベントに向けて線画もトーンも貼れてないのにインフルとか絶対うつされたく無いんだけど、っていうか僕も風邪という名目で休みたいけどもう出席があああああ)
こんな感じで真山も別の意味で限界を迎えている。
マジでうるせえ。
「お大事に〜」
(僕も帰りたいあと10Pもあるのにぃいい!)
「おぉ…」
(マスクも無いし、俯いて帰るか…いやいかにもな様子だと無駄に声をかけらてしまう可能性も)
コイツらの表向きの考えと、心の本音のギャップには毎度驚かされる。他の奴らも建前と本心との解離は当然あるが、この二人はもうなんか質が違う。
「次薫ちゃんと同じ講義だよな。会ったら帰ったって言って。流石にお見舞いとかも良いから」
…因みに今のに裏はなかった。銀木に関してはストレートに言葉が出される。
流石にラインしてる気力も無いようだし引き受ける。
一限目終わり、真山と一端解散して次の授業。
俺が教室に着いた時には大抵銀木もすでに着いていて、授業の準備をしている。
「…?」
しかし周りを見渡しても銀木の姿はない。
超能力で周りの声に耳を澄ませても銀木の声は聞こえないし、彼女に関しての話題も聞こえて来ない。
この授業を一緒に受けている銀木の友人に聞いてもいいが、俺から声をかけるのは嫌だ。あとあと面倒にもなる。
諦めて席に着くと、その友人の声が聞こえてきて咄嗟に神経を張り詰める。
(薫にノート見せてもらおうと思ったのに、早退しちゃったんだよねえ)
銀木も早退か。ならそもそもアイツが心配したようなことはなさそうだな。ならいいか。
昼食後、また真山と同じ講義だったので銀木も早退したことを報告した。
「えっ…! それってさ」
(それって、“驚異的な診察能力&うつすと治る”ルートじゃなくて“同時に発症することによって関係を匂わせてくる”ルートってこと…!? 推しカプで描きたくなるじゃないかふざけんなよ原稿中だぞこちとら!!)
「いや知らん…」
何を言って、いや……何を考えてるんだコイツは。