銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -


「薫ちゃんおはー」
「おはよー」
 朝イチの授業で、独り教室にいる薫ちゃんを見かけた。
 いつものように最前席で授業の準備をしている彼女は今日も可愛い。今日の一限は違う講義なのだが見かけたら声を掛けずにはいられない。
「違う教室でしょ?」
「話したいじゃん」
「今朝もラインしたよね」
 文字列だけでは呆れた言葉だが抑揚と笑みは柔らかい。
 そりゃもちろん朝もほぼ毎日メッセージのやり取りをして、休日のデートのない日には通話もするが、会える時には話したい。
「今日はピアスシンプルだね」
 よくつけているガラスの飾りが揺れるピアスではなくシンプルで小さなピアス。
「体育あるから。わざわざ取るのも面倒だし」
 薫ちゃんはたまに効率を取って物臭になる。
「というか今日寒いね。服装ミスちゃった」
「あらま」
 確かに今日は今週の中で一番寒いと予報があった。
 暖房は効いているが講義室の扉が開くたびに冷気が流れ込んでくる。
 あ、そうだ。
「じゃあ薫ちゃんにはこれをあげよう」
 自分のコートの中に腕を入れて、インナーに触れる。
 キョトンとする薫ちゃんの背中に俺の腹から取ったものを貼り付ける。
「えっ暖かい。カイロ?」
「そうだよ」
「いいの? ありがとう」
「まだいっぱいあるから」
 トートバックの中から個包装のカイロを取り出すと薫ちゃんはクスリと笑った。
「じゃあ貰うね」
 あとでね〜、と手を振る薫ちゃんの笑顔を見て、俺の心が温まった。
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