銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -
「捗ってる?」
「…これがそう見える?」
「見えないね残念ながら」
またしても俺の課題進捗度は終わりを迎えている。
持ち込み可の筆記はなんとかなるにしても課題提出型の講義に関してはほぼ死が見えている。今日中に終わらせなければ落単だ。
薫ちゃんは俺のように限界スケジュールではないので課題は終えているし、筆記も深夜に詰め込みとかしない。
売店に行ってきたのかビニール袋を手に持っている。
「そんな限界学生なきみに良いものをあげよう」
その袋の中から薫ちゃんはパンの袋を取り出した。
よく見ればそれはただのパンではない。
「”単位パン”……」
「そう、単位クリームパン。キャッチフレーズは『単位はこのパンのように甘くない』」
「世知辛ぇ」
パン生地にデカデカと「単位」と焼印が押されているクリームパンが俺の手の腕に置かれる。
「頑張れ」
「ありがと…」
まだ食べていないのに、薫ちゃんの甘い優しさが疲れ切った脳に染みる。
「あと、真山くんがグループ会議室取れたからそこで勉強しない?って言ってたよ」
「んじゃ行く」
*
約二時間後、グループ会議室。
「うお〜〜〜〜〜〜出来た〜〜〜〜〜〜〜〜!」
「おめでとー」
薫ちゃんから細やかな拍手を受け、俺は堂々ゴール。
ノートをまとめている水元から一瞬睨まれたが今の俺には全く効かない。
「印刷して提出してくるわ」
「あ、私も行くゼミの先生に直接聞きたいことあるし」
「僕も〜カフェイン切れちゃってさ。水元くんはどうする?」
水元は頭を上げることなく「いい」とだけ答えた。と思えば、薫ちゃんが三人分買っていた単位パンを食べ始める。
というわけで会議室に水元を残し、三人でまず最寄りのプリントスポットまで向かう。
「…あ、ステイ」
三人で並んで歩いていると真ん中にいる薫ちゃんが腕を上げて俺と真山を静止する。俺らは犬か。いやバレーでも「止まれ」は「ステイ」か。
何かと思えば薫ちゃんの視線はこの先にあるプリンターに向けられている。スポットと呼ぶぐらいには複数台完備されている場所だが、一台は故障中なのか人が隣の機械に集中しているのだが、その先頭であたふたとしている人物がいる。
いるのは疫病神こと小賀。
「コガちゃんがいるということはこの付近の印刷機はダメ、別の館に行こう」
経験則なのか薫ちゃんの緊急回避により別の場所を探すことに。
「じゃあ先に売店行かない?」
真山の提案でルートの変更だ。本日中の提出にはまだ時間があるので無問題だ。他のプリンターの位置的に売店、教授の研究室、その後に印刷になる。
…三人で練り歩き各々目的は果たした。あとは俺のレポート印刷のみである。先ほど小賀が詰まっていたプリンターから一番遠い場所にある機械に学生証をかざしてクラウドに保存されたデータを確認する。
「…ん?」
画面が止まった。
「どうしたの?」
二人が俺の左右からプリンターについているタッチパネルを覗き込む。
『他のユーザーからの印刷を受け付けています。時間をおいて再度印刷してください。』
「……これサーバーエラーだね」
ということはつまり…
「コンビニへダッシュかな」
全力で走って印刷した。