銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -
『今度のデートの時、そのコート借りてもいい?』
『いいけど…?』
というのが、前回のデート終わりの会話だ。
それからちょうど一週間が経ち今日が次のデート。俺は車で彼女の家まで迎えに行く。言われた通り先日俺が着ていたコートも持ってきた。
別にブランドものとかではない普通にベージュ色のロングコートだが形が気に入ったのだろうか。
マンション前に車を停め連絡すると薫ちゃんはすぐに降りてきた。ハイウエストパンツで元々良いスタイルがさらに良く見える。
「おはよ。コート持ってきたよ」
「おはよ〜。ありがと〜」
薫ちゃんは車を発進させる前に後部座席に置いていたコートを手に取った。膝の上に置いて大事そうにポンポンと手を乗せている。はい、今日も可愛い。
今日はショッピングである。元々行きたいお店もあるとのことだがメインはウィンドウショッピングだ。
「運転ありがとう」
目的地に着き車から降りる。手に持っていたコートを羽織って歩き始めたところで違和感を持った。
横に並んで手を繋いだところでそれは確信になる。
「えっ、背たか」
「えへへ今日は同じ身長だよ」
俺と薫ちゃんの身長はだいたい10cm差だ。彼女の足元を見るとしっかりしたヒールのショートブーツを穿いていた。なるほど、俺のコートを所望したのはこの状態の背丈で似合うと思ったからか。
いや…いいなこれ。長身故のかっこよさもワンランクアップだが、俺のコートを着こなしている様子が可愛い、愛しい。
「似合ってる」
「よかったぁ」
俺に見せるように一度くるりと回ってみせる。ファンサがえぐい。
一度話した手を握り直すのではなく、俺の腕に薫ちゃんの腕が絡む。綺麗な顔がいつもより近くてドキドキする。
「どこか見に行きたいところある?」
「俺? んー、俺も少し服見ようかな」
この前部屋の整理のために何着か捨てたし、買い足すのはありだな。
とはいえ、今日はウィンドウショッピング。施設の端から端まで見て周るのが目的だ。
コスメ・アクセサリー・服・雑貨、他にも色々。コスメはよくわからないが、アクセサリーは俺も薫ちゃんに似合いそうなのを選んでプレゼントした。服は俺の服も薫ちゃんが似合いそうなのを選んでくれて、俺も薫ちゃんの選んだ服のうちの託を任させたり。
「結構買ったね〜」
施設内のレストランに入って食事が来るのを待つ。両手一杯になる紙袋を見て笑う彼女が満足げで微笑ましい。
「今のうちに渡しとくね」
アクセサリーショップで買ったシンプルなピアス。最近ピアスホールが増えた彼女にシンプルなものを選んだ。
「ありがと! 今つける」
「いま??」
嬉しいが照れる。
新品のピアスのポストをアルコールのウェットティッシュで拭き取ってから今つけているものと付け替える。小ぶりでシンプルな星型のジルコニアが輝くピアス。やはり何つけても可愛いんだよなこの子。
「ごめんね付き合わせちゃって。今度は──くんが行きたいところに行こう」
「むしろ薫ちゃんとのデートが出来て幸せだが?」
「あはは…うれし」
照れて口元を手で隠す仕草が良い。薫ちゃんは吊り目だけど眉が垂れるから相対して可愛いが勝る。
「でも私の行きたいところばかりだから言ってね」
「わかった」
本当に薫ちゃんが楽しいなら俺も楽しいと思って彼女の行きたいところに賛同してきたが、こういうのは俺も多少は意見を出す方が薫ちゃんにとってはいいだろうか。
二人で行けるところ…何か考えておくべきだな。
デートが終わって帰り、行きと同じようにマンションの前に車を停める。交通費を押し付けてくる薫ちゃんから半額を渋々受け取った。
「コートありがとね」
「それあげようか?」
左袖から腕を抜きかけたところで静止する。
別に一着ぐらいあげても俺は困らないし、薫ちゃんが気に入っているならまた着てくれた方が嬉しいし有意義だと思う。
「いいよ? いいよっ、このコート好きだけど自分が着るより──くんが着てる方が格好良くて好きだし」
ん?
「…………え」
「またね、安全運転で帰ってね」
ドアを閉められ、言い逃げされてしまった。
あーやばい顔熱い。薫ちゃんに褒められると嬉しすぎて表情筋の我慢が効かなくてハンドルに突っ伏した。