銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -


「各自入れたい食材持ってきたー?」
 突然だがタコパである。
 真山宅で行われたたこ焼きパーティは金曜の夜に突如として開催された。
 普通のたこ焼きに加え、参加者が入れたい具材を持ち寄ってくるという会だ。メンバーは薫ちゃん含めいつもの四人なので多少巫山戯ても問題はないのだが、こういう場合はどうせ真山が巫山戯るので、俺はありがちな食材を選んだ。
「このタコパのために態々、このプレート買ったのかよ」
「そうだよー」
 苦学生の水元は富豪の真山の金遣いに引いている。
「事前に言ってくれたら、家にたこ焼きプレートあったのに」
「結構大きいし重いし、毎回銀木さんに持ってきてもらうのは流石に憚れるなあ。あと定期的にしたい!」
 真山が油をプレートに敷いて、その上に薫ちゃんが生地を流していく。
 ちなみに具材を入れるのは水元で、ひっくり返すのは俺である。
「トッピングは各自でよろ〜」
 ソース、マヨネーズ、青のり、鰹節などもすでに準備済みだ。
 たこ焼き用のピックでプレート全体に引かれた生地を分け、加減を確認しながら半円の中に生地を押し込みつつ焼き固める。
「え、君って料理しない割にこういうの得意だよね…」
「それは喧嘩売ってんの? この中で一番料理のイメージないのマヤセンだよ」
 薫ちゃんは作った料理も食べたことあるし、スポーツをやってる人って食事もちゃんと管理しているイメージがある。水元は節約のために自炊しているらしい。この中では俺と真山が自炊してないのは事実だろうが、俺は親に頼まれる程度の料理の手伝いもする。
「…ぐぬぬ、今度から銀木さん以外の無銭飲食どもになんか作ってもらうからな」
「お前のせいで俺まで被害喰らうのかよ」
「はいはい、焼けたから食べよーねー」
 話の流れを全てスルーした薫ちゃんが、ピック二本を器用に扱い、たこ焼きを二個ずつ俺たちの皿に盛っていく。
 十六個が一度に焼けるプレートなので一回で一人四個食べられる。
 焼きたてのたこ焼きは口内の治安を一発で破壊する熱の塊だ。しかも今回のたこ焼きは硬めではなく中がとろとろ系。フラグはともかく慎重に食べる必要がある。
「ふわふわで出汁! うまっ!」
 目を輝かせている真山に頷く俺と水元。
 生地を準備した薫ちゃんはドヤ顔で親指を立てていた。
「料理のめっちゃ上手いスポーツマン受けとか最高だろうなあ。推せる」
「お兄ちゃんが実際そうだよ」
「怪人に餌を与えない。ほら次の焼くよ」
 第二陣目は薫ちゃんが持ってきた食材で作る。エビ、たらこ、梅干しと紫蘇、塩だれ焼き鳥の四つ。
「その焼き鶏単体で食べたい」
「君は言うと思った」
「私も。だから多めに買ってきた。はいぞうぞ」
 大好き。最高。そして美味い。居酒屋の串も好きだがスーパーの惣菜コーナーで売られている焼き鳥も美味い。
「梅しそってなにかけたらいい?」
「あ、水元くん。冷蔵庫に入ってたのが」
 マヤセンの質問を聞いて、座っている配置的に一番冷蔵庫に近い水元に薫ちゃんが声をかけた。薫ちゃんは真ん中に座っていて移動しにくい場所にいるから仕方ない。
 それに心が読める水元は固有名詞を言わなくても薫ちゃんが言いたいものが分かるからな。
 水元が持ってきたのはポン酢である。
「ん! 美味いね。梅しそポン酢」
「でしょ〜」
 買ってきた酒も進む進む。
「…確かに大根おろしも合いそうだな」
「美味しいよ〜。今日は流石におろすのも片付けるのも面倒だからやめたけど」
「え、それは絶対美味いじゃん」
「じゃあ今度うちで二人でしよう」
 どんだけ俺らタコパするんだよ。お家デートは嬉しいけど。
「友達とタコパ中にタコパデートの約束のダシにされることあるんだ」
 マヤセン五月蝿いよ。


 *


「たこ焼きロシアンルーレットー! はい拍手〜!」
 すまんマヤセン、それはもう以前にガキどもとやった。
 が、この強引な家主に逆らえるわけもなくタコパ中に罰ゲームが開催された。
 中身はR -18激辛チップス。
 十六個のたこ焼きにハズレが四つ。焼き上がったものを四人でシャッフルしたのちに四つずつ分配。運がないと四つ全てが当たってしまうという地獄の完成である。
「激辛のチョイスが気になり過ぎる」
「考えるだけ無駄だよ。絶対パケ買いだから」
 大方年齢制限がつくもの全てをエロに変換したのだろう。成人済みの癖に思考が思春期かよ。
 水元も頷いてるしそうだと言っている。
「名前の後ろにカッコ付きで年齢入れたらエロく見えるじゃん! それと一緒だよ!」
「「「ならねえよ/ないよ」」」
 三人に全否定を喰らった真山は地団駄を踏む。
「ムキー! ほら一個目いくよ!」
 一つ目。全員が一斉に口に含むが反応なし。普通に美味しいたこ焼きである。
 この平和を味わう感じ、デスゲーム感があるな。
 引き続き二つ目。……俺のは問題ない。
「ウ゛ッ」
 薫ちゃんが口を押さえ奇声をあげた。
「大丈ぶ──」
「が、…ブッ」
 お前もか水元。
 辛すぎて涙目になっている二人に水を渡して落ち着くまで待機。
「あのチップスやっぱり辛いんだね」
「ひと…っごとみたい、に…い、言いやがって……」
「でも二人が同時に当てたからかなり確率は低いよ」
 確かに。
 残りは八つのたこ焼きにハズレは二つなわけだし、俺とマヤセンは当たらない可能性だってある。水元はともかく、薫ちゃんに当たるのは可哀想だが。
「水元くん、透視能力とかないの…」
「流石にない」
 激辛に当たった二人はすでに満身創痍のようだ。
「大丈夫? 無理そうならやめる?」
「大丈夫大丈夫」
 本当にダメそうなら止めるのだが、薫ちゃんはあくまで乗り気のようだ。
 ジョッキに水を注ぎ直して三つ目。
 全員が口に含み、数秒の沈黙が走るが、なにもない反応。これにより最後の四つ目で二人に激辛が当たることが確定してしまった。
「一日に感じていいストレス量じゃない…」
 流石にこの嫌な緊張に生唾を飲まざる得ない。
「い、いくよ…せーの」
 真山の声に合わせ全員が最後の一個を口にする。咀嚼のために沈黙。
「…かッッッら!」
 真山が叫んだ。
 そして俺は激辛に当たっていない。と言うことは薫ちゃんか水元のどちらか。
「あっおい、」
 水元が驚いたように声をあげた。悶絶の声ではなかったので不思議に思い視線を向けていると、乱雑に肩を掴まれ引き寄せられた。
 きっと手加減する余裕もなく、肩に爪が食い込む痛みを感じながら、その瞬間だけ時間の流れがゆっくりに思えた。
 水元が普通の反応ってことは、そうだよな──。
「〜〜〜〜〜〜〜ッ」
 俺の口内に薫ちゃんの口移しにより固形の物体が押し込められた。
 やばいやばいやばい、舌の上にあるだけですでに辛い。というか痛い。めっちゃ痺れるタイプの辛さだ。
 これ最悪の場合、四個当たる場合があったとかダメだろ。

「…ごめん、なんか瞬間的にカッとなって……」
「うん、大丈夫…」
 二個食べた薫ちゃんの声はまるで酒焼けのようになっていた。俺も少し喉に違和感を感じている。
 だが、この世で最も嬉しくない口移しではあったが、いつもは反応が五月蝿い真山は完全にダウンしているのでそこまで気にしていない。
 しかしマヤセンは自分で耐えられないものを二度と買わないでほしい。
「出汁入れてない生地で甘いの作ろ…」
「具なし具なし」
「ベビーカステラ?」
 三人でベビーカステラもどきを突いていると、ようやくマヤセンも復活を果たす。
 甘い酎ハイと一緒に食べると心も癒される気がする。
「ね〜え…余ったチップスどうしよう〜!」
 絶対に助けないからな。と言う視線を一心に受ける真山は、項垂れながら甘い生地を口にした。
 盛り上げるためのゲームで盛り下がることなんて、よくあることだからな。一時は全体的にげっそりとした満身創痍な空気だったがすぐに室内は騒々しさを取り戻していた。
「ワンナイト人狼しながらべく杯しようよ。負けた人はテキーラショット一杯」
 人狼用のカード。べく杯のための天狗・ちょっとこ・おかめの盃と高そうなワイン。そしてテキーラと塩やライムを次々と出してくる。
「えげつない…」
「よし、とりあえず水元を潰す作戦で行くぞ薫ちゃん、マヤセン」
 常にワインを飲みつつ、更にテキーラを入れた状態で人狼は無理だ。シラフでの人狼なら適当なことを考えるだけで撹乱になるが、酔っている状態では難しい。しかし、一番初めに水元にテキーラを煽らせれば三人の心の声を聞き分けることも難しいはずなのだ。
「お前ら全員に潰される前に潰してやるからな」

 勝負の結果は記憶にないが、頭痛と共に目覚めると翌日の昼になっていた。
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