銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -
「家族以外と年越しは初だなぁ」
「あっそうなんだ?」
「言ってたね」
四人で初詣にやってきた。と言っても未だ時間は11時37分で大晦日である。
人混みが能力故に無理な水元も付いてきたのは意外だったな。真山の冬コミ打ち上げをすると言うのもあるが。
「ごめんね〜お邪魔虫二人は別で並ぼうか??」
セリフも表情もやかましい。ほら水元の眉間の皺が深くなったろ。
「せっかく来たんだから四人で行こうよ」
「年越しは毎年あるし」
年一の特別なイベントではあるが、年越しはクリスマスほど恋愛に関したイベントでもないし、ここで「じゃあ二手に分かれるか」と言った方が薫ちゃんの顰蹙を買う。
余計なフラグに遭遇することは相変わらず警戒しなければならないが、二人でいるよりも四人でいた方が絡まれづらいしメリットの方が強い。
「とっとと列並んで甘酒飲んで帰るぞ…」
「せっかく来たんだからもうちょっと楽しみなよ雰囲気とか。おみくじも引こう」
「甘酒を飲んでみたいから来ただけだ」
ムードの無いやつ。帰るつってもこのあと打ち上げなんだから水元の家じゃないし。
「フラグ云々言ってる奴にムードがないとか言われたくねえ」
俺のは心の中だけだが? 駄目だこいつ頭痛すぎて薄っすら機嫌悪い。まあ甘酒飲んで落ち着けよ。参拝の列はまだ動いてないけど先行くのもありだと思う。
「さっき自販で白湯買ったけど飲む? まだ開けてないよ」
「ん、悪い。いくら?」
「あげる」
薫ちゃんが道中の自販機で買っていた白湯を水元に渡した。ホットのレパートリーが良いのがなくて白湯にしたようだったが確かに丁度いいな。
だがカイロ代わりにしていたのもあり、白湯を手放すと彼女の手先がじわじわと冷えて赤くなっていく。
「はい、カイロ持ちなね」
「ありがと〜」
持っていたカイロを渡す。俺もこれで暖をとっていたので渡してしまうと寒いが、薫ちゃんの笑顔で心はホットなので無問題だな。
「…」
「なんだよ、無言で見るな怖いマヤセン」
「ごめんいま僕が渡せるホットなものは一次BLエロ漫画の売上しかなくて…」
「打ち上げで暖かくなれるならOKです」
何言ってんだ俺。
「そうだぞ。真山まで何か渡したら俺まで返す流れになるだろ」
「一周しちゃった」
ツボにハマった薫ちゃんをみて心は更にポカポカである。
さて、時間は進みもうすぐ新年。11時59分50秒。
カウントダウンのためにスマホで秒針を確認する。
57、58、59…
「「あけましておめでとう」」
隣にいる薫ちゃんに視線を向けて言うと、彼女も同じようにしてハモった。
「今年もよろしくね」
「よろしくお願いします!」
続く俺の言葉に薫ちゃんが応える。
白い息で霞む笑みすら可愛い。これはもう初笑いだな。彼女に福がありますように。
(あめ〜砂糖吐きそうだよ水元くん)
(分かる)
絶対二人俺らの悪口言ってるだろ。視線で分かる。
まあ目で訴えかけてくる二人は無視しておいて進み始めた流れに乗る。動き始めてしまえばあとは早い。正直俺も早く甘酒飲みたい。
「そういえばこの神社って何系の神様?」
「え、知らん…薫ちゃん知ってる?」
「知らない。調べよっか」
「……恋愛の神らしい」
誰かから傍受したか。さすが読心。グーグル&AI要らず。それにしてもシチュが下手すぎる。こんなの初詣中にフラグに遭遇しろと言っているようなものだ。
俺は別に神は調子の良い時には居ると思うし、都合の悪い時は居ないと思うので信仰心のかけらもないが、ここは神にフラグとの遭遇率を下げてもらえないかとお願いするか。薫ちゃんとの恋愛だけ上手く行くようにとか、ダメっすかね?
「真山は甘酒いいのか」
「おみくじ引きたいらしい」
参拝を終えて真山はおみくじを買う列、俺と薫ちゃんと水元は甘酒の列に並び、いま甘酒の入った紙コップを渡された。配っている神社の人? がやけに美形に無難にやり過ごしたが俺のすぐ後に別のイケメンに絡まれててやっぱりこのBL漫画の世界抜け目無いなと思う。
「…まじで甘い」
「甘酒だからな」
「たまにあまり甘くないのに当たるよね。今年はあたりだね」
熱い甘酒に対して薫ちゃんがふーふーと息を吹きかけている。可愛い。
それでも少ししか飲めてないけどでも美味しそうにしている。それも可愛い。もうなんなのこの子。
「みんな〜おみくじ引けたよー!」
テンションの高い真山がおみくじ列からやってきた。テンションが高いと言うことはいい結果だったのか。
「みんなも引いてきなよ」
「別にいい」
「悪いと引き摺るし」
一日ぐらい。
「私も気にしちゃうから」
「ちぇ」
真山の後ろでカップル♂がイチャイチャしながら「〇〇のはなんて書いてあった?」「ナイショ」なんて言って片方が紙を枝に括りつけ、もう片方はひっそりと隠し持つ様子なんてもの見ていたら、引く気にもならん。
「よぉし、じゃあこれら僕ん家で打ち上げ&新年会するよー!」
「おー」
やはりイベントに託けて飲み会を行うのが一番の楽しみだな。