銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -


「……」
「どうしたの?」
 例の如く、真山宅での飲み会。もうすっかり恒例の会である。
 酒もつまみも進んで大分アルコールが回ってきた頃に、薫ちゃんは真剣な目でテーブルに頬杖をつきながら口元を手で隠しながら考え事をしていた。
「ピアス開けたい」
 唐突すぎる発言に、豆鉄砲を喰らった鳩になる。
「いいじゃん開けなよピアッサー余ってるよ」
「なんで余るんだよ開ける分だけ買え」
 既にピアス穴ゴリゴリの真山は肯定的でピアッサーをあげるまで言うし、水元も余ってる発言に口は出すが開けること自体はいいんじゃないのかというスタンス。確かになんで余るんだよ。
 そして俺も、薫ちゃんが開けたいのならば否定はしない。本当に唐突すぎて驚きすぎただけだ。
「いいんじゃない? 俺は止めないし、どこに開けるの?」
「耳朶にもう一箇所開けて三連にしたいとは前々から思ってた」
 今、薫ちゃんのピアスホールは両方の耳朶に二箇所、右耳にインダストリアル、左耳にアンテナが開いている。三連にしたいと言うことは左右で一箇所増やしたいと言うことだろう。
 真山はいそいそと寝室からピアッサー二つを持ってくる。
「えっ今!?」
「今じゃないの? こういうのは勢いだよ」
 確かに勢いじゃないとその量のピアスは開けないわな。というか以前に聞いたが薫ちゃんはピアスをちゃんと皮膚科で開けてもらうタイプなので持ってきても使わないだろ。
「一ヶ月半は刺しっぱなのに一ヶ月後に開けたいなあって思っても、その時には今から三ヶ月後なんだよ? アニメ1クール分終わっちゃうんだよ?? だったら今開けたほうがいいよ」
 その論理、恐らくだが薫ちゃんには伝わらないと思う。ほら水元も首を横に振っている。
「よく分かんないけど、やらない理由を考えるより練習して身体動かせ理論と一緒だよね」
 アニメとスポーツで微妙に食い違っているを思われるが、薫ちゃんは分からないなりに納得している。
「でも単純にピアッサー使ったことないし、怖いや」
「じゃあ彼に開けてもらったら?」
 真山が無駄にジェスチャーで両手の人差し指で俺を指差す。
 いや。いやいやいや、そもそもピアス開けたことのない人間にピアッサーを使わせようとするな。本来ない場所に穴を開けるんだぞ、しくじったら出血するんだぞ、普通に怪我なんだが? 薫ちゃん本人が医者にかかり、開けてもらうのは一向に構わないが、俺が彼女に穴を開けるのは憚られる。
「まあそれなら」
 屈しないで薫ちゃん。俺は薫ちゃんに穴を開けるなんて無理だよ出来ないよ。
 必死に首を横に振る。
「必死すぎだろ」
「いーや、水元には分からんね。いま鳥肌やばいよ俺」
「分かるか」
 もうちょっと共感性を鍛えたらいいんじゃない。
「でも僕とか水元くんが開けるのは嫌でしょ?」
「嫌だが??」
 何度も繰り返すが、医者はいい。それが仕事の一つだからな。
 だが俺はピアス素人。俺が開けて出血などさせてみろ、俺の一生もののトラウマである。他二人は論外だ。ピアスを開けてもらうという行為は恋愛においてサブイベントのくせに重要が高い。今後、この穴あいつらが開けたんだよな…とか思っちゃう、薫ちゃんはともかく俺が。
「この人いつも以上に面倒くさくない??」
「酔ってんだろ。水飲ませとけ」
 結局その場では開けず、後日皮膚科で開けてもらった耳を薫ちゃんは嬉々として俺に見せてきた。
 ピアスの多さで可愛さは変わらないが、何かを俺に報告してくれる彼女は普段の可愛さから百万倍だ。
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