銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -
「さあさあじゃんじゃん飲んでくれたまえ君たち! ぜーんぶ僕の奢りだからね!」
「ソフトドリンクじゃん…」
「ウェイト! フードも頼んでいいよ! 但しコラボメニューに限る!」
真山の中で付き合っていることになっている二人組いるアニメとカラオケがコラボしたらしく、胃袋の残機として召喚されてしまった。
「お腹がいっぱいになったらこの曲を歌ってね。三人それぞれの声に合う推しカプイメソン考えてきたから」
歌ってほしいリストまでグループラインで共有されてくる始末である。
まあ、完全なタダ飯は財布に優しい。真山もランダムコースター10種から目当ての2種を当てたいだろうし、カラオケという決まったメンツしかいない室内ならばBLフラグの警戒も気にしなくていい。つまりWin-Winなのだ。推しカプイメソンは嫌だけど。
「デュエットって書いてある…」
「…おい真山、これを俺と薫ちゃんに歌わせる気か。ゴリゴリにバッドエンド曲じゃねーか」
「最近、地獄概念が僕の中でキテるんだよね…」
人差し指で鼻下を掻いて照れを表現するな、誤魔化せてないんだよカプへの異常性愛が。
「〇〇が作りすぎたパラパラ五目チャーハンってやつ頼んでいいか」
「いいよ!」
水元お前は自由人かよ。
そしてフードファイトか食べ溜めするつもりか。それ多分シェアするサイズだぞ。
「そうなのか? 取り皿とかないのか」
「注意書きとかない?」
注文用のタブレットを持っている水元の手元を薫ちゃんが覗く。
「200gだって。取り皿もあるみたい」
「そうか。助かった銀木」
「いーえ。他に食べたいの決まったら次貸してね」
そう言われてすぐに薫ちゃんへタブレットが移動する。彼女はタブレットを持ったまま今度は俺の方へ身体を傾ける。
「私、この〇〇が食べた⬜︎亭の担々麺が食べたいんだけど、他にも食べたいしシェアしない?」
「いいよ」
シェア文化最高!シェアハピである。
それにしてもコラボメニューというもの、そこそこ値の張るカラオケの食事にプラスしてかなり強気な値段をしている。真山みたいに商業で印税がある太いオタクはともかく、重課金したい一般通過オタクは大変だな。
「それじゃあ僕はこれからコラボグッズの無限購入編並び無限開封編に突入するから君たちは好きなだけ飲み食い歌ってくれたまえおほほほほ」
ほらまだドリンクもフードも届いてないのにガンギマリ顔だもの。口調もBL怪人から貴腐人になってる。
ちなみにコラボドリンクではコースター。フードではポストカードがそれぞれランダムでついてくるらしい。
レジ横のコラボグッズ売り場に財布を持って旅立った真山とほぼ入れ替わりに、最初に注文したドリンクが店員によって届けられた。
「こういうのって写真撮りたいかな?」
「えー、マーヤ先生名義だと写真あげてるけどこれ推しカプだし同人名義だよね」
「いいんじゃねーの。さっき飲み食いしてろって言ってたし」
キャラクターのイメージカラーを元に味が異なるドリンクを前に写真の有無で悩む。
以前にSNSに投稿する写真で写り込みがどうとか、滅茶苦茶文句言われたからというのが大きい。女だと思われている綾小路マーヤ先生は大変なこった。
待つのも時間がかかりそうなので諦めて先にドリンクを飲み始める。奇抜な味のドリンクはないので全体的に飲みやすいが、炭酸が強いものが多く腹に溜まりそうだ。
「三人で写真撮っとく?」
「いいけど」
「ん」
インカメ設定になった薫ちゃんのスマホの画角に入るように顔を寄せる。普段二人で撮る写真よりは控えめな距離感。反対側にいる水元も、画角に入るギリギリの距離感で近づく。
「…私と──くんが並んでる写真で──くんが真顔な写真はだいぶ珍しい。レア」
流石に水元もいるし、おそらく真山に送る写真に、普段のツーショットのような表情をする必要はない。
「心の声の物量に加えて表情もコントロールしてんのかよ俳優向いてるんじゃね」
絶対嫌だね。そんな目立つ職種。
というか凡顔に出来る役者業なんてエキストラ以外にないわ。あと俳優はBL漫画の中でもトップクラスの地雷職だし。
「なんだ地雷職って」
「なった瞬間、もしくは志した瞬間にBLルートに入る職種。所謂”少数派属性”だからな」
保育士、看護師、教師、俳優、霊媒師など、今まで出会ってきた人物で少数派属性であるほど美形説は俺の中で立証されている。
「そういえば営業も絶対嫌って言ってたね」
「銀木みたいに教員免許取ったり資格持ってたりしてない限り営業は一般の範疇だろ」
「営業は取引先に契約させられんだよ身体で」
真山も以前描いてたし、多分メジャー。
内容の不明瞭な割のいいバイトぐらい如何わしい目に遭う。
「…俺、銀木がなんでこいつと付き合ってるのか頻繁に理解できなくなる」
そこは偶と言えや。
「私は慎重なんだと思ってるよ。不安を消すために事前に調べたりデータを頭に入れておくことはいいことだよ。私にもたまにアドバイスくれる」
薫ちゃんの解釈は本当にポジティブで長所寄りに取ってくれる。好き。
それに彼女は俺の言うことを受け入れて理解を示してくれるし、実行に移してくれるところも好感が持てる。
「じゃあ俺にもなんかアドバイスくれよ」
りんご味の炭酸を飲みながらほぼ投げやりに問いかけてくる。
唐突すぎだろ。んーそうだな…
「今新しい部屋探してるだろ」
「そうだな」
水元の下宿先はあまりに壁が薄く毎夜隣が野球部の如く音を垂れ流し、下階からは怨霊の呪詛擬きが聞こえてくるため真剣に転居先を探しているので、それに通ずる話題が分かりやすいだろうか。
「たとえばアパートとかで一部屋だけ空きがあって、しかも値段が格安な部屋は絶対に選ばない方がいい」
「なんでだよ」
「幽霊とBLになって最悪人間生活が終わる」
社会的に。
「社会的に?!」
内容はBLしたくない俺からすればあまりにも悍ましいし、薫ちゃんもいるし、水元も聞きたくないだろうから割愛するが、大抵普通の人間生活は送れない程度に心身ともに破壊される。
どうしても内容が気になるなら『BL』『事故物件』で検索すれば具体例は沢山出ると思うがおすすめはしない。
「逆になんでお前は行き着くんだよ…」
一人暮らしするにあたってBL漫画的に気にしなければならないことを考えたら、行き着くのは隣人トラブルとか大家、先住民関係。幽霊がいるBL漫画ということを加味したら地縛霊とかも調べとこう、みたいな?
BL漫画において安すぎるものと高すぎるものは見えている地雷だぞ。肝に銘じておけ。
「…なんか、深読みしすぎて一層引いた」
せっかく言われた通りアドバイスあげたのに酷くない?
「いいところなのに」
まあ薫ちゃんに受け入れられていたら問題ないな。うん。
で、そんなどうでもいいことを駄弁ってると食事と同じタイミングで真山も帰還なさった。腕いっぱいに買ってきたグッズを抱えてご満悦のようだ。しかしその大量のグッズをソファーにおいて俺たちの前に仁王立ちした。
「なに?」
「なんで僕がいない間に集合写真撮ってるのさ!! 四人で撮るよ!!!!」
撮りたかったのかよ。んじゃ今度は真山をセンターにして撮るか。
真山がインカメでスマホを構えているが流石に四人だと画角に収まりにくいのか手間取っている。
「私が三人を撮ろうか?」
「ダメダメ銀木さんも入って〜」
四人で撮りたがる真山に、薫ちゃんは一瞬目を丸くしたあと嬉しそうに笑った。珍しく水元も穏やかな表情をしている。
腕を伸ばし、一番外側にいる水元の肩を少し内側に引き寄せた。そうすると全員の顔距離感が詰まってカメラに映った。
「…」
驚いてる場合か、カメラ見てろ。
「マヤセン」
「さっすが!」
シャッター音が三回、連写で聞こえて全体的に詰まった距離から離れる。
「一番映りがいいの送るよ」
そう言われてすぐにグループラインに写真が送られた。
狭い場所に大人四人が密集した、もし薫ちゃんがいなかったらむさ苦しい写真ではあるが、これはこれで一枚ぐらいあっても良い写真だな。
「僕また半目なんだけど。写真映り終わってる」
「そうか? これぐらいあるだろ」
「連写だし仕方ないよ。一枚は成功してるし大丈夫」
「写真映りレベチの二人に言われてもなあ…」
真山のスマホを左右から覗く二人を傍目に見ると、本当によく打ち解けたもんだと思う。
初めの頃は不満もないことはなかったが、今は本当に男女の友情が成り立っているようだ。男同士が恋に落ちる世界なら異性間の方が恋愛機会の損失によって友情が成り立つのではと以前に考察したが、まさしくその通りだったと言える。
「君って本当に写真だとコピペだよね。逆に映り良いまである」
「褒めてんの? 貶してんの? どっちかにしろよ」
しかしだ、不本意ながら居心地がいいのも事実だ。
俺は薫ちゃんと一緒にいれて楽しいし、フラグを気にしない=取り繕う必要のない友人というものは、いた方が良い。
「たまーに三人で写真撮っても二人とも”無”って顔か、”苦”って顔してるしレアだよこれ」
薫ちゃんと逆のこと言ってる。
「ふっ」
「なんで水元くん吹き出した?」
「ああ、あはは」
「なんで銀木さんも笑うの???」
俺も笑っとこ。
「え、なになになに僕がいない間に何あったの?? ずるいのけものして!!」
話についていけずに拗ねた真山のために頑張ってドリンク飲むよ。