銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -
「推しカプ二人のフィギュアゲットするまで帰りまテン!」
と言うことで(?)
付き添いでゲームセンターにやってきた。なんでも、真山の中で付き合っていることになっている男二人がクレーンゲームのプライズとして今日から発売されているらしい。
帰”れ”まテンではなく帰”り”まテンと言うとことに、自身の財力に自信を持っている真山らしい言い回しだが、正直連れ出される俺らにはいい迷惑である。治安の良いBL漫画世界とはいえ、ゲーセン単体の店舗では不良や半グレも寄り付く、逆に商業施設内に併設されたゲーセンではそういったのは少ないが、遠距離射撃を狙ってくる子供(所謂迷子)と遭遇する確率が上がり大変厄介だ。
「太鼓叩きたい」
「うんやろう」
「ついさっきまで滅茶苦茶嫌な顔してたくせに華麗な手のひら返し、僕じゃなきゃ見逃しちゃうね」
うるさい、薫ちゃんがやりたいと言うのならやるんだよ。薫ちゃんが白といえば黒でも白だunderstand?
…ちなみに、ここまで脳内で喋っても、普段は煩い水元も今ばかりはツッコミが飛んでこない。ゲーセンほど騒音が激しい場所だと、心の声よりリアルの音で思考が聞こえ辛いらしい。元より会話が聞こえづらい場所だと、いくら脳内に直接響く声も脳の処理が間に合わないみたいだな。哀れ。
「よし! 唸れ僕の腕!」
春と夏と秋と冬に大量の本を買ってくる真山、レジか業者でしか見ないような百円の束を持ち、堂々とクレーンゲームの前にご登場である。
挑戦しようとしているのは景品が入った箱が二本のパイプによって支えられているもので、そのパイプから落とせば景品ゲットになる。よくある橋渡しタイプだがこう言うのは決まって店側に最低金額が設定されており、ある一定の金額が入れられるまでアームの強度が上がらないようになっている。
初回。まずはアームの強度確認、景品の箱が動くかを確認するため、ひとまずアームの片方を箱の地に引っ掛けてみている。
少し持ち上がり、僅かに左側に傾いた。
「お、行けるかな?」
所感は確かに悪くはなさそうだな。
ふと気がつくと、つい先ほどまでベンチで遊園地の父親よろしく疲れて座っていた水元もゲーセン初心者の薫ちゃんと一緒に真山の様子を眺めている。
「薫ちゃん、太鼓やる?」
「あ、やる」
どうせ取れるまでやるだろうし、過程を見る必要はないだろう。
なので今のうちに薫ちゃんと二人で遊んでおくことにする。
「クレーンゲーム興味ある?」
「あるけど…自分の性格的にムキになりそうで自重したいかな」
薫ちゃん、結構負けず嫌いというか、自身が勝負事だと認識したものには唐突に過激になるというか。
両替機で千円札を百円玉に変えているだけなのに、妙に心痛な表情が、申し訳ないが可愛くてにやけてしまう。
「…笑わないでよ」
「ごめん。可愛くて」
「可愛いってつけたらなんでも許されると思ってるでしょ」
全く痛くない握られた拳がぐりぐりと背中に押しつけられる。いや痛いな。可愛すぎて、心臓が。
ド平日夕方。まだ高校生も帰宅時間でもない今は、人は少ない方だろう。真山のように今日からのプライズ品を狙っている大人はいるが子供は少なく、目当ての太鼓の音ゲーは並ぶことなく始めることができた。
「結構バチ重いね」
と、言いつつ一曲目は難易度「易しい」を選択していた薫ちゃんだったが、二曲目からは難易度を上げ「難しい」に一気に上げた。彼女のポテンシャルは止まるところを知らない。俺も「難しい」ではあるが「鬼」は流石に無理。
スコアが良かったので三曲目。難易度「鬼」の出し方を教えると、薫ちゃんは本当に最高難易度に挑戦した。
天は二物を与えるどころではない。
「シューテングもいいなあ」
最大四人のゾンビと戦う系のガンシューティングゲームをみて薫ちゃんは呟いた。
「四人でやる?」
「やりたい!」
では、一旦真山のいる場所まで戻って様子を確認しよう。
「…これは?」
戻ると真山は機体の前で項垂れていた。
「動かなくなって絶望してる」
うん、見てわかったけど説明どうも。
水元のいう通り、一回目では順調そうにしていた真山だったが、何をどうしてそうなったかは知らないが、橋渡し上に置かれた二本のパイプに景品の箱が縦向きの斜め、つまり短辺を下にして引っかかってしまったのだ。アームを使って倒せそうに見えるが、なんでも重心が寄ってしまいって動かないらしい。
「店員さんに動かしてもらえるんじゃない?」
「確かに」
薫ちゃんの提案に俺は水元に視線を向けた。本人からは怪訝な顔を向けられる。
こういうのは外見の良さを発揮するべきだぞ。使えるものは使っとけ。
「俺に利点ないだろ…」
「じゃないとこいつ、一生金を溶かし続けるぞ」
いくら資産のある真山とはいえ、不毛に金を浪費するのは貧乏な水元には見ていられないだろう。
水元は大きく溜息を吐く。
薫ちゃんが通りかかった店員声をかけ、渋々水元がどうにか出来ないかお願いした。
店員は男性だったが、ここはBL漫画の世界。水元のお願いにより男性店員は頬を赤ながら、箱を”とても”落としやすそうな位置に調整して、「また何かあったら言ってください」と去っていった。しかも一プレイ無料券までくれた。
マヤセンは泣いた。
「あ゛り゛がどう゛み゛な゛も゛どぐん゛!!!!!」
「う゛っるさ…わかったわかった」
真山は手に入れた景品を大層に抱きかかえ全力で水元に謝意を述べる。そして間髪入れず付き合っていると妄想しているもう一人のフィギュアがある機体へ向かった。
「物凄く潔い不正を見た」
「あんだけやって無理なら仕方ないよ」
「そういうもの?」
「五千は使ったからな…」
「ゴッ」
水元のアンサーに薫ちゃんは固まった。
俺もまさか真山が五千円も一体に溶かすとは思わなかった。そこまで行ったら中古ショップで買った方が安いだろ。
「自分で取らないと気が済まないらしい」
覚悟キマりすぎて、ちょっと怖い。
「後でさっきの店員に絡まれたらお前のせいだからな」
「俺よりフラグ躱すの得意なくせに」
超能力で。
「水元くんも気にするところそこなんだ」
「好きでもないのに絡まれたら嫌だろ」
「それは、そうだね」
心当たりがあるのか、薫ちゃんはやけに真摯に受け止めた。
彼女も結構告白とかされるもんな…主にBLカップルの登竜門扱いで、だが。俺のことは一生モブとして属性なんぞ増やされたくないが、人の恋人に告白する男は何を考えているのか、理解に苦しむ。略奪願望とかあるんだろうか、自己陶酔と優越感で思考が汚染されてそう。
「まあ、私がいたら──くんは狙わせないけどね」
!!!!!!!!!!!!!?(不整脈)
「…………やめてやれ銀木、こいつぶっ壊れるぞ。俺の頭も壊れる」
「ごめんなさい。二人とも死なないで…」
生きます。
*
「ありがと〜〜〜〜なんとか二人ともお迎えできたよ〜!!」
真山はそれは大層満足そうに男二人のフィギュアを抱えている。
ちなみに二人目は三千円程度で取ることができた。
「待たせてごめんね。で、ガンシューティングしたいんだっけ? しようしよう!」
背負っていたリュックに箱に詰めて、ご機嫌である真山はまるでスキップするように軽快な足取りでガンシューティングの機体へ向かう。
最大四人プレイだが機体自体は二人用なので俺と薫ちゃん、水元と真山に分かれてお金を投入する。
「水元くんやったことある?」
「あるように見えるか?」
「ごめん」
最近は四人マルチでス⚪︎ラをプレイしたりはするが、ゲーセンは初めてだからな。
部活三昧で暇のなかった薫ちゃんはともかく、ぼっちの水元が一人でゲーセンに来るわけはないか。
「うるさい黙れお前」
反応が図星の人すぎるだろ。
このゲームは壁とか屋根で囲われていないタイプの機体なので、他の客や店員に様子が丸見えだ。俺や薫ちゃんはともかく、水元と真山の方にはすでに遠巻きにギャラリーがいる。先ほどの店員のようだ。
水元が大きく溜息をつく。
「銃コンって結構重たいよね」
「確かに」
銃型のコントローラーは、機械が詰まっているのか、それとも臨場感のためなのか結構な重量があり腕にすごく乳酸が溜まる。明日には腕が筋肉痛かもしれん。
ゲームの内容は、普通のシューティングだ。最初は雑魚のゾンビが大量に湧いて出て、徐々に敵の耐久も数も増えていく。
「あ、これヘッドショットだったら確一かも」
「えっ…あ! ほんとだ!」
人型のゾンビの中には腕を前脚のようにして四足で襲ってくるやつもいるのだが、その四足歩行ゾンビはどうやら頭を狙うと一発でダウンするらしいことに薫ちゃんが気がつき、多少慣れている真山がどんどん敵を殲滅していく。
というか荒い3Dモデルにグロいゾンビがマッチしすぎて普通に怖い。四足ゾンビは足も早くすぐ画面に迫ってくる。
「うわ気持ちわるッ」
ゾンビどころじゃない大型ワームが出てきた。筒形で目もなく、口の中に歯がびっしり生えている。
余裕で撃ちまくっていた薫ちゃんも流石に気持ち悪がっていた。とはいえ、手元は狂わず、レティクルは正確に相手の口の中に向けられていて流石だ。
恐らくラストの敵だろうしこういうのは撃ちまくっていたらなんとかなるだろう。
その後もひたすら撃ちまくりゲーム終了。スコアやビビリ度なんてものが表示されている。
ちなみに結果は、なんか死んで負けた。唐突に上から別のボス落ちてくるのは反則だと思う。盛り上がりはしたけど。
「うへぇ…腕痛いもげる、ペン持てないかも」
「筋肉痛確定だわ」
「……」無言で腕を動かしてストレッチ。
などと、重い銃コンに文句を言いつつ、定位置に戻す野郎三人に対し薫ちゃんはやり切ったと言わんばかりの満面の笑みを浮かべている。
前に四人でスポッチャに行った時も彼女だけずっと疲れ知らずでテンション高かったし、本当に身体を動かすことが好きなんだな。
「ねえ──くん、次あれやろ」
そう言って薫ちゃんが指を刺したのはダンスゲーム。前後左右の矢印を踏むタイプのやつ。
腕の腕に抱きついて引っ張る。あっやめてください! 当たってる、薫ちゃん当たってる! こんなの俺から振り解けるわけないでしょうが。
振り向いて二人の方を見ると真顔で親指を立てられていた。なーにがサムズアップだ。ふざけんな、俺の体力の無さをしかと見てろ?
「…………」
「ごめん、お水買ってくるね」
ダンスを二回、その後エアホッケーで完全にダウンしてしまった。薫ちゃんは申し訳なさそうにしながら自販機へ向かう。
ゲーセンに来たばかりの水元と同じように遊園地で疲れたおじさん状態である。ベンチって素晴らしい。
それにしても、俺体力無さ過ぎだろ。情けな。
「普段から君の方が息絶え絶えそう」
「なんの話だよ」
「真山だぞ、下ネタで言ってる」
「さいてーだよマヤセン」
「事実じゃないの?」
そこら辺はノーコメントだ。誰が好き好んで友人にそっち方面の話をしなければならないのか。
「おっほ! さっきは見逃したけど推しのぬいも景品になってる!!」
まだ金を溶かすつもりか。
真山は一心不乱に再びクレーンゲームへ吸い込まれて行った。どんだけ現金持ってきてるんだよ。
最初は真山だけが動いたが薫ちゃんが戻ってきたのが見えて水元も真山の方へ移動していく。
「お待たせ、お水買ってきたよ」
「わざわざありがと」
「ううん。初めてではしゃいじゃって…ごめんね」
ペットボトルの水を受け取って半分ぐらい飲み干した。
俺の隣に腰掛けた薫ちゃんは、反省の意を示すように身を小さくしている。
「大丈夫。楽しんでくれた方が俺も嬉しいよ」
元々怒ったりなど負の感情なんて抱いていない。確かにエアホッケーなんて目がガチになっていた薫ちゃんだったが、それは彼女が本当に楽しんでくれていたということだ。
薫ちゃんに比べ、俺が体力でかなり劣っているのも事実なわけだし。
「…ありがと」
「はい。薫ちゃんもお水飲んで」
買ってくれた水を薫ちゃんへ返して飲むように促す。彼女も水分も取らずはしゃいでいたので飲んだ方がいい。
彼女は二回ぐらい喉を鳴らして飲んだ。まだ結構残っている。
「なんかいいの見つかった?」
「へ?」
「クレーンゲーム。真山が二人目のフィギュア取ってる間に見てたでしょ」
そう口にすると薫ちゃんは少し落ち込んだ表情から、そんな感情は吹き飛んだように笑みを浮かべた。俺の方から彼女手を握って案内してもらう。
薫ちゃんが欲しがったのは猫の巨大ぬいぐるみ。
「白猫だ」
「ミーちゃんぽいよね」
「確かに」
中に綿があまり詰まっておらず重心が頭に寄りそうなタイプに見える。
真山がチャレンしていた橋渡しタイプではなくてボールプールに鎮座している状態だ。腕や足にアームを引っ掛ける場所がないので、アームで頭を狙って少しずつ穴へ寄せていくのがいいかもしれない。左右ボタンで位置を調整して何度も挑戦した。
この戦法で千円台で無事に勝利を果たした。
受けより口から取り出すと思ったよりもふもふふかふかで触り心地がいい。
「はい薫ちゃん」
「ありがとう! 触り心地いいね」
50cm級のぬいぐるみを抱っこしている薫ちゃん、滅茶苦茶可愛い。
抱っこした猫の手を持ち、俺へ手を振るように動かすのでぬいぐるみの頭を撫でておいた。
「抱き心地いいし、抱き枕にしようかな」
え、それは羨ましすぎるな。俺ですら毎日は無理なのに、この白猫ぬいぐるみは薫ちゃんと毎日一緒に寝れるのか。
「名前付ける? ──とか」
「それは…流石に、恥ずかしいかな……」
自分の名前が付けられたぬいぐるみとかどういう心境でこれから部屋で顔を合わせたらいいのか分からんので、流石に断っておく。
「残念」
俺、俺がいるって。本人。
「俺でいいじゃん」
自分で言ってとても恥ずかしかった。
でも薫ちゃんはどこか満足げ。
「二人のところ行こうか」
ぬいぐるみを見せびらかしに行く薫ちゃんの後を追う。
真山はまだぬいぐるみに躍起になっている。もしかしなくても結構下手だな?
【延長戦】
あらすじ。ゲーセンの店員に水元が目をつけられる。以上。
「大丈夫ですか? 調整します?」
「…どうする?」
「えっお願いします!」
店員は真山の隣で無言の水元に話しかけ、水元は頑なに店員と目を合わせず真山にしか話しかけない。そして真山は推しに必死すぎて今の状況に気が付いていない。
そして俺はこの状況に巻き込まれたくない。今のうちに薫ちゃんと二人で帰るか。
「…」
水元から物凄く鋭い睨みを向けられた。そんなに睨んだって俺から話しかけるのは絶対嫌だぞ。
すると薫ちゃんが動いた。
「ねえ見てみて、──くんに取ってもらった」
白猫巨大ぬいぐるみ見せびらかし彼女。可愛い。
だが的確に店員と水元の間に入り込んで視線を背中で防いでいる。
「へえ、よかったな。…もうお前がこれ取ってやれよ」
「は、嫌ですけど」
この野郎、いつもなら適当に理由をつけて逃げる手が使えないからって意地でも俺になんとかさせようとしてるな。
だが、勘違いされるのは勘弁頂きたいが、こういう相手には付け入る隙を見せないためには同行の友人との仲を見せるのが効果的だ。「こんな仲のいい友人がいたら俺なんて目に入らないよな…」みたいな。あ、いま目線だけで頷きやがった。マジかよ嬉しくないことが当たった。
というかアウトオブ眼中に決まってるだろ。この世界の住民は些細なことで相手のこと好きになりすぎ。まあ今回の水元の場合はほぼ顔が原因だと思う。どうせ一目惚れだろうし。
「頭が大きいので首を方引っ掛けるといいですよ」
「なるほど〜」
店員は間に入り込んだ薫ちゃんを大袈裟に避けつつ、水元に近づきながら真山にアドバイスするという側から見て面白い状況である。さらに水元は薫ちゃんのぬいぐるみに関心を向ける作戦のようだ。
先ほど俺に向けて薫ちゃんがしていたようにぬいぐるみの手を持って水元の方に伸ばしている。羨ましい。水元は控えめに手を伸ばして、状況は完全にETの指を合わせるシーンだな。触るならちゃんと触れ。そうだ握手して、そのあと感触を確かめるようにぬいぐるみを撫でる。そして「触り心地いいでしょ」と笑みを向けられつつ会話をしている。全くもって羨ましいふざけんな。
だが物理的な壁はなかなかな効果を発揮しているようだ。
「取れたー!!」
真山がようやく二頭身ぬいぐるみをゲット。一体幾らこれに溶かしたんだ。末恐ろしい。
「良かったです。また何かあったら言ってくださいね」
めげないな。意地でも水元に視線を向けている。だがこうなれば流石に店員は離れるしかなく下がっていった。作戦的撤退だな。多分次また詰まっても来る。
「…もう帰るぞ」
「このぬいと同じ規格の受けちゃんもいるんだから取るよ当然」
ダメだ真山の目は完全に据わっている。ここまで投資したら途中で辞めるなんて選択肢はこの怪人にはない。
逆に水元は当然だが物凄く帰りたそう。
「マヤセン、さっきの店員水元狙いみたいだから帰したげて」
「エッ」
マジで気付いてなかったのか。なんで普段BL事案探してる奴が気が付かないんだよ、運で済まない世界の強制かかってない?
「ちょっと…それは…みたいっ、なんで教えてくれないの!」
真山の中で友情と節操とオタクとしての性がせめぎ合っている。
「そのぬいぐるみに必死になってるからだろ」
「くそ〜〜〜〜〜!」