銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -


 肌寒さを感じれば文化祭の季節である。
 俺はサークルにも参加していなし、ゼミでも何か出し物をするとは聞いていないので別に来ても来なくてもどちらでも良いのだが、薫ちゃんが友人のいるバレーサークルに顔を出すという約束をしているようで、同行することになった。
「唐揚げ一つください」
「薫来てくれたんだー!」
「ライン連投で呼んだくせによく言うよ…」
「はいはい売上に貢献してね〜、彼氏さんもどうですか?」
 俺はすでに別の屋台で購入した焼きそばと餃子を抱えていたが、まあこういう学生がする屋台の唐揚げなんて業務用だし失敗はしないだろう。と言うわけでもう一つ追加で購入。
 誰にでも露骨に態度を変えない人の出来た薫ちゃんだが、付き合いの長い同性の友人にはかなり気安く接しており、普段は見れない新鮮な様子だ。
「薫、お願いしてたフリーのイケメン手配してくれた?」
「本人に断られたからその話は無かったことに」
「えぇ〜」
 そう言えば薫ちゃん、この文化祭までに知り合いの男友達にこのサークル屋台のこと宣伝してたな。なるほど頼まれて宣伝していたわけか。
 声をかけられた水元が苦虫を潰したような顔をしていた理由が良く分かった。薫ちゃんも「知ってた」みたいな悟り顔してたし。
「じゃ、約束は果たしたからね。あとは自分で頑張って」
「そんなぁ〜…」
 薫ちゃんって他人の恋愛関連の話題に結構ドライだよな。それで良いと思う。仲人も巻き込まれも無駄に体力を消費するだけだから。
「去年は実行員してたんだよ」
「ね、そうだったの? 大変だったんじゃない?」
「うん。だからやめた」
 流石の体力とフィジカルともつ薫ちゃんでも大変だと思うんだなあ。
「インカム付けてキャンパス内を歩き回って、」
 インカムから薫ちゃんの喋り声を聞けるとか、それはもうご褒美なのでは。
「大学のゆるキャラの着ぐるみを先導したり」
「あぁ…あの変なキャラね」
「学外者の人にナンパされた子を助けたり、ナンパされたり。疲れたからもう二度としない」
 なんだか今聞きづてならない言葉を聞いた気がする。
「ナンパの救助とか女子にさせちゃダメでしょ」
「近くにいたのが私だったから仕方ないよ。されてたの男子だし」
 流石はBL漫画の世界。学園祭でナンパされるのも男だったか。いやどちらにしてもダメだろ。
「…薫ちゃんが軽率にナンパされた真山とかを助けちゃう理由がよく分かった」
 これからは自分の安全を最優先に動いて欲しいものである。
 さて、休憩場所で食事だ。
 具材の少ない焼きそば、ちょっと水っぽい餃子にしっとり唐揚げ。うむ、屋台飯って感じで嫌いではない。
「ちょっと食べる?」
「うん、ちょーだい」
 焼きそばと、俺が使っていた箸を渡すと一口啜った。咀嚼し、飲み込んだ薫ちゃんはグッと親指を立てて美味しさをアピールした。可愛い。
 大学では最低限のいちゃつきしか出来ないし、フラグも気にしなければならなく気は休まらないが、薫ちゃんとこう言う買い食いは数回しかないので楽しい。
「…ん、やばいかも」
「どうしたの?」
 食事を終えて展示などの場所にも行こうとしていたのだが、薫ちゃんがスマホを見て声を上げた。
 彼女が見せたのは東條くんとのメッセージ画面である。
『お二人の大学の学園祭。綾人と旗野と三郷くんが行きたがってるので行くことになりました』
 東條くんからリーク情報をもらったことにより今後の行動は決まった。
「…帰ろっか」
「そうだね」
 急いで帰った。
 
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