銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -
交際が始まってすぐの頃。
「薫の彼氏ってどんな人?」
「どんなって…普通の男の人…?」
友達に彼氏が出来たと報告するれば、殆どの場合で聞かれる質問。
優しくて、私的にはかっこいいと思うけど、以前別の友人に彼の探りを入れてもらった時に他のイケメンにしなよと余計なことを言われてしまった。だから多分世間的には普通の人。
「性格とか容姿とか、あるじゃん」
「優しい。かっこいい」
多分この子は私の主観を求めてると思うのでそう答えておく。
「おぉ、薫にも他人をかっこいいって思う感情あるんだ…」
「どう言うこと」
「普段、うちらが男の話しても興味ないじゃん。告られてもフってたし」
「実際興味ないもん」
もしかして私、無感情屋だと思われてる?
好きな人がずっといるのに、顔が良いと言われているからってなりふり構わず告白を了承するなんて可笑しいし、想いが無いのに相手に失礼だ。
「写真見せて」
「いや」
「なんでよー」
「減る」
「何が?!」
減るの。私の中の何かが。
彼はモテないと言っていたけど、以前に他の女子がチョコをこっそり渡していたのを知っている。彼はそれに対しなんのリアクションもしていなかったし、そうした理由は分からないけど。だから、彼は気が付いていないだけで誰かに好かれている。
まだ彼のことを詳しく知らないけど、彼に選ばれ続けるためにもライバルは少ないほうがいい。
「そこまで言うならいいわ。顔も、知らないこともないし」
「なら見なくていいじゃん」
「単に薫に対してどんな反応するのかなって思っただけ。あの人、仏頂面じゃない?」
そう?
初めて撮ったツーショットを思い出す。満面の笑みとかではなかったとは思う。でも確かにイメージがないかもしれない。
「仏頂面ってほどじゃないと思うけど」
とはいえ、そこまでではないと私は感じている。ニッコニコってタイプじゃないだけだと思う。誰しもが満面の笑みを浮かべるわけじゃない。
微かに緩められる口元とか、上がる目尻や眉尻だけで私は彼がちゃんと楽しそうにしていることを認識できている。
「銀木さん」
声をかけられて驚いた。彼だ。
「ごめん、話してた?」
彼と喋っていた友人が無言のまま会釈して、また私に視線を戻す。
「大丈夫。どうしたの?」
「なんでもないよ、見かけたから声かけただけ」
嬉しいけど、驚いたのには理由がある。付き合い始めてまだ二週間も立っていないけど、待ち合わせ場所を決めていた時以外、彼から声を掛けられたのは今が初めてだ。
ああそう言えば、たまに喋っていて違和感を覚えることがある。
目を見て喋っていると、視線が合っていないと思うことが何度かある。大きく目線を逸らされていると言うよりは”パーツの位置を把握してない”というような感じで。面接で緊張する人は、相手のネクタイを見ましょう。みたいな。でも言葉とか声色に緊張なんてものは最初の電話以外大きく感じ取れないし、気のせい?
「こっちも大した話してないから。お幸せに〜」
「ちょっと…!」
空気を読んだのか彼女は行ってしまった。貸したノートも持って。まあ今日はもう使わないし、明日返して貰えばいいか。
「あの子に気を使わせちゃった?」
「…あれは揶揄ってるだけだよ」
「そっか。ならいっか」
うん。やっぱり仏頂面は言い過ぎだと思う。すごく優しい笑みをしてるもの。
「──くんの笑顔好きだよ私」
「滅茶苦茶唐突だ…銀木さんに言われるのは嬉しいけど」
「さっきまで表情の話してたの」
「それ俺が聞いていいやつ?」
「隠すようなことじゃないよ」
内面も外見も表情の機微も本当に私の率直な感想だ。他人がどう思おうが、本人の自認がどうあれ、私の所感が私の彼への印象の全てで、外からの感想は求めていない。
だからと言って、彼に私の印象を聞くようなこともする気はない。無理に聞くようなことでもないしね。
「銀木さんのそういう裏表のないはっきりしたところ、俺は好きだな」
「明け透けがないし可愛げがない、直裁的すぎるってよく言われる。ごめんね」
「いやいや、本当にいいことだと思うよ。中々いない」
首を傾げて無理やり私と視線を合わせた彼が、微かに微笑む。あ、今は視線合ってる。
じっと見つめていると口元が何かを言おうとして止める。視線もすぐに逸れた。
今の表情はなんだったの…?
「(顔は相変わらず判別出来ないが服の系統も理解してきて、髪型含めシルエットと声でだいぶ分かるようになった。俺から声を掛けても間違える可能性は格段に減っただろう、これからはどんどん見かけたら声を掛けていこう。それにしても目元把握出来てないのに滅茶苦茶視線を感じるな。見てくれるのは嬉しいが、俺が見えてないことに気付かれるかもしれないし、何より良い子すぎて罪悪感が半端ない)」