銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -
十一月一日、薫ちゃんの誕生日である。
昨夜の大学でのハロウィンパーティも早々に切り上げ、今は早朝。これから車で移動して行楽地にあるホテルに向かう。
マンションの前に車を停めて薫ちゃんが降りてくるのを待っているわけだが、こうしていると初デートで車を出した時のことを思い出してきた。
到着したことを伝えるとすぐに彼女はマンションから出てきて車に小走りでやってきた。
「おはよ〜」
「おはよう。誕生日おめでとう薫ちゃん」
「ありがと! 今日は車出してくれて嬉しい」
そりゃ勿論。親に二日間車を借りるお願いも薫ちゃんのためなら容易いことだ。
「で、この前言ったと思うんだけど、別でプレゼントがあってね」
先に渡しておいた方がいいと思い、買っていたものを渡す。
元から薄く笑みが浮かべられていた表情が更に華やいで、薫ちゃんはそれを受け取ってくれた。
「本当に嬉しい! 見てもいい?」
「どうぞ」
プレゼント用にラッピングされた箱を開けたところまで彼女を手元を見て、次に反応を見るために薫ちゃんの顔に視線を移した。
目を丸くした彼女は次に口角を緩め、目を細めて破顔する。
「綺麗…」
ガラス細工のピアス。元々持っているピアスが赤いガラスが揺れるタイプなので今度は別のタイプにした。感嘆の言葉を漏らしながら台紙を持ち上げて、まじまじと見つめる。
「銀木犀?」
「そう、見つけた時にぴったりだと思って」
オパール風のガラスビーズで作られた銀木犀のピアス。ブランドサイトでこれを見つけて即決した。
「私ってそんなに銀木犀イメージだったっけ…確かに”銀木”だけど……」
「あ、あぁ…薫ちゃん俺んち来るとき以外は銀木犀の香水してるし」
そういえば薫ちゃんの背景に見える花の話はしていないんだっけな。BL漫画の世界であると言ってはいるものの、流石に背景に花が見える現象は俺の主観が濃い部分が多いし、その筋に詳しい真山も「イケメンには見えたりしてる(願望もある)けど、銀木さんに関しては君のメガネの問題だよ」と言われてしまったので、おそらく俺の深層意識が『薫ちゃんは背景に銀木犀の花が咲くタイプの女子』という認識をしているのだろう。
「うん、ミーコちゃんいるのに香水はダメでしょ? それにしてもよく銀木犀と金木犀の違い分かったね」
猫に香水は危険なので配慮してくれているのはとても嬉しい。
違いに関しては、以前にフラグ小僧に遭遇した時に実物の銀木犀を嗅いだので分かった。
「ね、つけてみていい?」
「ぜひ」
いつもつけてくれている赤いピアスの上の位置につけているピアスを外して付け替える。
「似合ってる?」
「とっても」
やっぱり、つけてみるとなんでも似合ってしまう。可愛い。
つい視線を注いでしまう耳元に手を触れた。するとそんな俺の手に彼女の手が添えられて僅かに頭が傾けられたかと思えば、薫ちゃんの方から俺の手に頬擦りした。
普段は髪で隠れて見えない左耳も、ピアスを付け替えるときに避けた横髪から見え隠れしている。
別に頬擦りしてほしくて触ったわけじゃないのに、これは役得でいいのか。いやもう可愛すぎて訳がわからない。
「嬉しい…また大切なものが増えた」
明確にはっきりと、そう言ってくれるのはあげた側としてとても誇らしい。
中学の頃からご両親に貰ったものをずっと使っていると言う前提を知っているから、俺が薫ちゃんと付き合い続けている限りずっと大事に使ってくれるのだと確信できる。それがとても嬉しい。
「大切にするね」
「喜んでくれてよかった」
薫ちゃんが喜んでくれたら、俺も嬉しい。
*
おまけ。行楽地でデート中。
風景を撮ったり、ツーショットを撮っているとスマホに通知が来る。
「水元くんと真山くんからだ」
「む。あいつらデートだって分かってるくせに薫ちゃんにライン送りやがって」
「まあまあグループラインだし。写真撮ってる途中で通知きて見ちゃったから許して」
「俺が薫ちゃんに怒るとかない」
「(断言しちゃうんだ…)お酒とおつまみセット送ったよって。二人で折半して買ってくれたんだって」
「え、郵送? 真山って薫ちゃんの住所知ってんの??」
「うん。渡す日がないから送るって」
「ふーん」
「駄目だった? ごめんね改めるから怒らないで」
「怒ってない。でもって許した」
「(即答だった。迷いがなさすぎる)ちなみに──くんは飲むなよって、釘刺しメッセージ付き」
「あいつらの俺へのイメージ酒飲み乞食なの?」