銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -
俺は悩んでいる。
「うーん…」
「さっきからうーんうーん煩いよきみ」
スマホでアクセサリーのブランドサイトを見つめ唸る俺に、真山先生はご立腹である。
「銀木ならなんでも喜ぶだろ」
「…顔がいいことしか取り柄ないの? 読心を対人に役立てる努力をしろ」
「流石に言い過ぎだよ事実だけど」
「おい」
悩んでいるのは薫ちゃんへの誕生日プレゼントである。今年の彼女の誕生日は土曜日なので一泊旅行を企画し、すでに彼女からも了承を得ているのだが、プレゼントが旅行だけでは味気ない。
と言うことで何か残るものと思いアクセサリー、主にピアスを調べていたのだが、俺から見れば正直全部似合いそうで決めきれない。
しかし、世間にはパーソナルカラーや骨格タイプに厳しい女子も多くいる。薫ちゃんなら水元の言う通り喜んでくれそうだが、一抹でも「これ合わない系統なんだよね」と思われたくない。
「銀木さんの好きな系統とかは知らないの?」
「それはなんとなく知ってる。普段付けてるやつとか気にしたり、部屋にあるアクセサリーボックスとか確認したり」
結果は特にこれといった成果はなかったが。シルバーもゴールドも満遍なく揃えているし、デザインはシンプルなものが多かったぐらいか。
「正直付き合い始めにおそろで買ったピアスを気に入りすぎて他はあんまり見かけない…」
「良かったじゃん」
「何択かの中で選んだのは俺だけど、選んだのはほぼ薫ちゃんだし」
しかも俺がつけるネックレスに合わせてシンプルのにしたっていう理由だし。
あのアクセサリーは確か、ハンドメイド作家の作品だったか。
「あれ手作りなのか?」
「あーうん。個人ガラス工房の手作り」
プレゼントだし少し高価な物とばかり考えていたが、ここは初心に戻ってみるか。
薫ちゃんもあの作家の作品が好きと言っていたし、好みに近いはずだ。
「…………なんて名前だっけ…」
「ありゃま」
困った。ブランド名忘れた。薫ちゃんが名刺もらってたけど俺も貰えば良かった。ワンチャン検索したら出てこないか? …出てこないな。
「銀木さんのSNSから辿れない?」
「…俺、薫ちゃんのSNS知らない」
「そんなことある?!」
いや確かにマヤセンの驚きも当然なのだが、ファーストコンタクトもラインを交換しただけでその後もSNSも交換しよー、とはならなかった。この世界だとSNSで人物を検索しても碌な結果にならないし、本当に健全に猫を眺めるだけのアカウトと化しているのでやましいものなど一切ないので教えられないわけではないのだが、俺が聞く必要もなかった。
「薫ちゃんがイン⚪︎タとか⚪︎やっているイメージある?」
「無いけど…無いことないでしょ僕らの世代で。あ、ごめんね」
「こっちを見るんじゃねえ。Twi⚪︎terはやってる」
今、水元へ憐れみの視線を真山が向けていた。むしろこう言うやつの方が充実してるもんだぞ⚪︎って。しかも頑なに呼び方を変えない懐古厨だし。
真山がイ⚪︎スタで考えうるアカウント名で検索するとそれっぽいのが何件か引っかかる。
「あ、これっぽくない? スポーツ、バレー、料理とかタグついてる」
それっぽいがその内容だけだと全然他人もあり得ると思うんだが。ん、
「カトラリーが既視感あるな…」
お兄さんの趣味で薫ちゃんの自宅の食器類などはアンティーク調なものが多い。写真を見ていくと見たことのあるテーブルの色に食器が映る。
「見つけたかも。マジか、ネトストしてるみたいで妙な罪悪感湧いてきた」
「もう直接聞けよ。アカウントもブランド名も」
水元の言う通りだ。こういうサプライズというものはBL漫画においてすれ違い痴話喧嘩の常套句である。何もサプライズである必要はない。そもそもそこに拘ってはいない。
「あれ、これ君じゃないよね?」
真山に言われて画面を見せられる。数ヶ月前に食事に行ったという投稿だが、以下にも高そうなフレンチと一緒に反対側には男性の手が微かに映っている。所謂匂わせ写真である。
「………だからって俺に勘違いイベ来んな。これお兄さんのアカウントだろ」
「焦って口から漏れてる」
うるさいうるさいうるさいうるさい。
お兄さんの匂わせ写真も、それはそれでダメージ入るだろうが。
埒が開かないので、薫ちゃんに連絡を取った。今日彼女は同性の友達と遊びに行っている。
『誕生日にプレゼントを別に贈りたいんだけど、あのピアスのブランド名教えて。あと⚪︎ンスタか⚪︎のアカウントも教えて欲しいデス』
『ありがとう! 嬉しい楽しみにしてる。URL送るね。インス⚪︎は友達に言われて作ってちょくちょく写真あげてるけどストー⚪︎ーズとかはあげてないよ?』
『いいよ。俺もほぼやってないし』
『うん。⚪︎はこっちね。真山くんにおすすめされたのとかを検索するのはこっちの方が便利だから最近作った』
というわけで薫ちゃんのSNSを今更入手した。両方鍵垢でHNも掠りもしない名前だった。そりゃ見つかるわけないし、ネットリテラシーがしっかりしており安心である。
「イン⚪︎タでもハンネちゃんとしてるタイプだったか…」
「つーか、綾小路マーヤのアカウントフォローしてるんだな」
「僕が教えた漫画とかアニメとかVとか律儀にフォローしてて泣いちゃった」
お前は人の彼女に無駄なこと教えるんじゃない。
「リア垢でフォローしちゃお。DMで挨拶しちゃうもんね」
「薫ちゃんに裏垢男子みたいな絡み方すんな」
字面が嫌すぎる。普通のことなのに。
というか本来の目的から逸脱してないか? ブランドサイトも教えてもらったし、SNSを相互にする必要なかった気がする。
そう言いつつも一度知ってしまったら、追求してしまうもの。薫ちゃんの投稿をスクロールする指が止まらない。
「ピアス探せよ」
「だってさ〜過去投稿可愛すぎるんだけど」
本人の言う通り投稿頻度は高くない。友達とどこ行ったとか書かれた投稿には自撮りではなくて風景写真。「彼氏と出かけた」と端的に書かれた文字に映っているのも俺や薫ちゃんの一切写っていない写真。けど、それすら彼女らしいというか、可愛らしいというか。
「…本当に女子大生?」
「真山、失礼だぞ薫ちゃんに」
「ツーショとか撮らないの?」
「撮る」
撮っているが、それらはどこにも投稿されていない。ス⚪︎ーリーズもしていないと言っていたし本当にどこにもあげていないのだろう。
あげていい? と聞かれたこともない。
「承認欲求とかないのかな…」
「さあ?」
マヤセンは絶句していた。真山は結構いろんなアカウントを頻繁に動かしてマメだし、薫ちゃんのドライすぎるアカウントは衝撃的なんだろう。
さらに投稿を遡っていくと見慣れたものが目に入った。
『ネックレスとお揃いで彼氏と一緒に買った。嬉しい☺️』
これまた端的。だが風景写真ばかりだった彼女の投稿群の中でそれは特殊だった。初デートで買った赤いガラスのピアスが綺麗に角度調整されライトも浴びて、気合いの入った画角で撮影されていた。
気に入っていたことは分かっていたことだったが、まさかここまで大切に思われていたとは想像もしなかった。