銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -
「ちょっと手貸してー」
真山の家で四人で宅飲み中、トイレから戻ってきた薫ちゃんが唐突に俺の手を所望した。
酒の入ったグラスを置き、言われた通り手を差し出すと、隣に座り直した彼女は俺の手を両手で包むように握った。かと思えば薫ちゃんが愛用している香水と同じような香りが鼻をくすぐった。
というか手もくすぐったい。しっとりした両手で俺の手を捏ねるようにしたかと思えば、次は指先の乾燥しやすいところを揉んでいく。
「あの、薫ちゃん?」
「ハンドクリーム出し過ぎたからあげる」
ハンドクリームを揉み込む動き! 知らんそんなの、BL漫画にないことされると素でどうしたらいいか分からない。
「流石に手の大きさが違うし、片手だけね」
俺の右手から良い香りがする。カサカサに乾燥していた手が薫ちゃんと同じしっとりした感触になる。すごい。
「手セックスってこういう導入があるのか…」
そういえばコイツらの目の前だった。
マヤセンにいらんエサを与えてしまった。
まあ唯一の救いは水元が薫ちゃんと入れ替わりでトイレに行ったことだ。おそらく聞こえてないはず。
「急に120dBで叫ぶなお前ら!」
ごめん。
*
別日。
「ヒリヒリする…」
「大丈夫?」
地方にドライブデートの真っ最中。サービスエリアで運転手を交代し、俺は助手席、薫ちゃんが運転席に座った。
冬になると乾燥と静電気による攻撃は避けられない。出発時に車のドアに静電気を食らったばかりだ。
で、今は乾燥に襲われている。唇の皮むけをつい深追いし捲ってしまったのだ。
「薬用リップクリームあるよ。色付きじゃないやつ」
「ごめん借りていい?」
「はいどうぞ」
バックの中からリップクリームを取り出して俺に渡す。
何度か使用した形跡のあるそれを塗った後に、衛生面を思って謝った。
「ごめん、後で新しいの買う」
「いいよ別に、今更じゃない?」
キスのことを言っているのだろうが、その場で終わるキスとは違い、リップクリームは使い切るまで数日かかるし良くないのは違いない。
「…じゃ、後で買ってもらうとして、」
出発のためすでにシートベルトをしていた薫ちゃんは、一度バックルを外すと俺の方へ身を乗り出した。
キスをされたのはその一秒後。
「それ、あげるね」
俺の塗ったリップクリームが、彼女のマットだった唇に艶を与えた。