銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -

「オレ先週の土曜に見ちゃったんだけどさ」
「なに?」
「お前の彼女が知らないイケメンと歩いてるところ」
 痴話喧嘩イベント発生の気配がする。
 こう言うのは大抵見た側の勘違いであることが多く、本当に浮気である可能性のが方が稀なのだ。
「へ〜」
「軽いな…知ってたのか?」
「いや聞いてはないけど」
 大学の友人が知らない相手で、一緒に出かける相手、尚且つ薫ちゃんが俺に態々言うまでもない相手となると選択肢は片手で足りる。
「心配じゃねえの、めっちゃ銀木って学部関係なく人気じゃん」
「心配だけど、浮気とか思考に無い子だからそういう心配はしてない」
 そう、俺と付き合い始めてから彼女の密かな人気は彼女の所属学部を越え、俺のいる学部にまで伸びてきている。男女共にフラットに喋れるから交友を深めやすいのだろう。と言ってもあくまでBL漫画の世界なのでなったとしてもカップル・カップル未満の男たちの良い起爆剤止まりなのだ。
 俺が今気にしているのは、この目撃してしまった男と俺とのフラグである。
 下手に大きなリアクションを取り大袈裟に取り乱すと「オレなら不安にさせるようなことしねえのに」などと謎口説きを受けることになる。かと言って無反応すぎると薫ちゃんへ直接余計なことを吹聴され別れさせ屋ムーブをされてしまう可能性がある。
 元より態々俺に報告してくる時点で俺との僅かなフラグが立とうとしている。そうはさせん。
「良かったらオレが、」
「次講義一緒だから直接聞くわ。んじゃ」
「…お、おう」
 無駄に他人を挟みフェイクを伝えられる可能性を潰し、俺と薫ちゃんの間に割って来れないように牽制、颯爽と立ち去るに限る。
 後日話しかけられたら適当に応えておけば問題ないだろう。
 それにしても薫ちゃんが一緒に居たとなると、お兄さんか東條くんぐらいか。お兄さんは顔も似てるし兄妹と気付きそうだし、東條くんかな。彼だったら弟の高校の方でも「生徒会長が年上女性と歩いてた!」みたいなスキャンダルイベントとかに持って行きやすいし。
「って流れなんだけど、土曜出かけてたっけ?」
「バイトには行ってたけど…」
「時間までは聞いてないけど、そうだと思う」
 今日の薫ちゃんは髪をヘアクリップでまとめている。とても可愛い。ポニーテールとかも似合いそう。
 いや、気にするべきは土曜に会った相手だ。
「う〜ん…」
 今日は水曜だし先週土曜のことぐらい忘れても仕方ない。それぐらい彼女にとっては日常で気安い相手だったのだろう。それはそれで誰か気になるが。
「あ、カレシくんかも。駅で会ってちょっとお茶した」
「なるほどね」
 カレシくんとは薫ちゃんのお兄さんのつがいである。
 二十年来の幼馴染で、薫ちゃんとも交流があり、聞いての通り彼女ともほぼもう一人の兄のような関係性だ。
「そこで食べたお菓子がすごく美味しかったから今度一緒に行こうよ」
「うん、行く」
 あ、これもしかしてお兄さんの方の勘違いイベントだったのかも。
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